mobiの運営にKDDIが参加したことで何が変わったのか。その成果の1つとして紹介されたのが「データ活用」だ。KDDIの傘下にはARISE analyticsという企業があり、携帯電話の利用状況をもとにした人流データを制作、販売している。この人流データを活用し、人の動きが多い地点に乗降地点を設置することで、利便性の向上につなげているという。
また、KDDIが全国の自治体と締結している地域連携協定もmobiの事業拡大にとって重要な資源だ。例えば、自治体主催のスマホ教室の一環として、mobiの使い方をレクチャーする機会を設ければ、高齢者の利用を促進できるだろう。
一方で、mobiによる発表からは、「au限定のサービス」という印象を与えないようにするという配慮が感じられる。例えばmobiの車体に貼られたロゴマークには「RESPECT YOU ,au」というキャッチフレーズが添えられているが、これまでのところ「auユーザー限定で割引する」といったキャンペーンも実施されていない。
mobiは「AIオンデマンド交通」と呼ばれるサービスの1つだ。AIオンデマンド交通の仕組みそのものは、NTTドコモの「AIオンデマンドバス」などの競合プラットフォームが存在し、MaaSの取り組みの1つとして、全国の自治体が試験的に導入している。
ただし、実際のエンドユーザーを対象とした継続的なサービスとしてAIオンデマンド交通を展開しているサービスは多くはない。AIオンデマンド交通を対象とした法整備も進んでおらず、mobi自体も、道路運送法上21条に基づく「実証実験」という扱いで、1年ごとに運行免許を更新している状況だ。
mobiの事業運営は、実際のサービスを小さく展開しながら、ビジネスモデルを確立する段階にある。例えるなら、数年前のスマホ決済草創期のように、資金をつぎ込みながら最適な提供形態を育てている状態だ。
収益化の方針について、Community Mobilityの村瀬茂高社長は「今は黒字化のめどについて語る段階ではない」としつつ、大きく2つの可能性があると説明した。
1つはmobi単体の運賃収入や企業提携などによって黒字化するモデルで、都市部などで補完的な交通サービスとして利用が進めば、単体採算で黒字化できる見込みという。もう1つの可能性は、自治体の補助金投入によって持続可能なサービスとして維持する方法だ。地域の鉄道駅などと結ぶエリアを設計すれば、路線バスよりも便利な交通サービスが実現できる可能性がある。
村瀬氏は「サービスエリア内に4000〜5000世帯が存在すれば、事業が成り立つ可能性がある」と説明した。先行して1年弱サービスを展開している京丹後市のエリアがその規模を有している。京丹後市ではWILLERが運行する京都丹後鉄道と連動するようにサービスを展開しており、地域住民のうち約10%がmobiの会員となっているという。
都心部、郊外ともに、小さい子どもがいる家庭では広く利用されているという。また、京丹後市では、家族でmobiに加入して自家用車での送迎が不要となり、免許を持たない学生だけで学校に行けるようになるといった使い方もされている。
村瀬氏はmobiの今後について「移動を増やすだけでなく、新たな移動の目的を作るような“行動変容”のきっかけを作っていきたい」と語っている。地域の公共交通機関と連動して、乗客にとって使いやすい交通サービスを提供するだけでなく、新たな移動方法にあわせて、より便利なサービスを提案していきたいという。
KDDIにとっては、自治体との連携協定や店舗網を生かして、新しい移動サービスの浸透を進めていくことになる。かつてのスマホ契約で多かった「au契約者限定」といった囲い込みではなく、地域のニーズをすくい取って、より多くのユーザーに使いやすいものへと改善させていく姿勢が求められるだろう。
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