また、近年は自然災害による通信設備への影響が「長期化する傾向にある」(コア技術統括本部 エンジニアリング推進本部 ネットワーク強靭化推進室長 大石忠央氏)ため、大規模自然災害に備えた取り組みの重要性も増している。
こうした地震や台風では土砂災害や電柱倒壊により電源が確保できなくなり、光回線も切断されてしまう。そのため、暫定的な処置として、ポータブル発電機や電源車を現地へ搬送し、基地局に電源供給を行うことでサービスを復旧させる。他に、車載型基地局や可搬型基地局、衛生回線を利用した復旧方法もある。
災害時におけるサービスの早期復旧に向けては、万が一中継伝送路の1つが被災しても、他のルートへ切り替えることで、通信サービスを提供できるようにしている。首都直下型地震の対策としては、広い範囲を丸ごとカバーできる「大ゾーン基地局」を設置してサービス提供の継続を可能にしている。
記憶に新しい大規模災害といえば、2024年1月1日に石川県能登半島を襲った地震だ。崩落や土砂崩れで道路が使えなかった他、渋滞発生により必要な機材の運搬に「時間を要した」(大石氏)。能登半島地震では現場環境の変化が激しい中、現地の安全を確保しながら作業に当たることも急務となった。ベースキャンプ車両を派遣して、作業員が宿泊できるようにした。
KDDIは災害時にも、数千機の低軌道周回衛星で地上にブロードバンド接続を提供する「Starlink」を活用している。光回線をバックホールとWi-Fiとして活用。auサービスは移動基地局、Starlink、発電機などを利用し、「1日最大500人体制でエリア支障を順次解消」(大石氏)した。Starlinkは2023年に導入したため、活用の経験メンバーが少なく、能登半島地震では「100人ほどを育成」(大石氏)しながら復旧作業を行わなければならなかった。
自治体や自衛隊、通信事業者との連携も復旧に向けた取り組みの1つで、能登半島地震では船上基地局が活躍した。「NTTから連絡があり一緒に船上基地局を運搬しないか、という提案を受けた」(大石氏)KDDIは、船上基地局をNTTと一緒に運搬することを決めた。「ドコモはKDDIを温かく迎え入れた。船酔いしながら滑りやすい機材をベルトで固定し運搬した」(大石氏)
船上で活躍したStarlinkは避難場に350台を無償で提供。大石氏は「使える状態にして金沢へ発送した。1つ1つを荷下ろしして、3〜4時間かけて運んだ」と当時の苦労を明かす。だが、孤立集落にてStarlink Wi-Fiが活用できたことで、孤立集落に避難生活をしていた人は、スマートフォンでビデオ通話を行えた。運搬時の苦労が実を結んだ。
大石氏は災害時の復旧について、「競争ではなく協調領域である」と言い表しており、船上基地局の共同運用だけでなく、車載・可搬型基地局の燃料を給油する際も相互に連携を図るとしている。日頃はライバルである事業者間の連携が強化されることで、サービスの早期復旧が期待できる。
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