KDDIは通信障害をどのように検知してインフラを守っているのか ネットワークセンターに潜入(2/3 ページ)

» 2024年07月24日 16時45分 公開
[金子麟太郎ITmedia]

自然災害で苦労すること 事業者間の連携強化で早期復旧を目指す

 また、近年は自然災害による通信設備への影響が「長期化する傾向にある」(コア技術統括本部 エンジニアリング推進本部 ネットワーク強靭化推進室長 大石忠央氏)ため、大規模自然災害に備えた取り組みの重要性も増している。

 こうした地震や台風では土砂災害や電柱倒壊により電源が確保できなくなり、光回線も切断されてしまう。そのため、暫定的な処置として、ポータブル発電機や電源車を現地へ搬送し、基地局に電源供給を行うことでサービスを復旧させる。他に、車載型基地局や可搬型基地局、衛生回線を利用した復旧方法もある。

KDDI ネットワーク設備 通信障害 災害対策 コア技術統括本部 エンジニアリング推進本部 ネットワーク強靭化推進室長 大石忠央氏は、災害対策から早期復旧までの取り組みや苦労を明かした
KDDI ネットワーク設備 通信障害 災害対策 災害時や大型のイベントで活躍する車載型基地局
KDDI ネットワーク設備 通信障害 災害対策 車の上に搭載したアンテナの向きや高さなどをリモコンで調整できるようになっている

 災害時におけるサービスの早期復旧に向けては、万が一中継伝送路の1つが被災しても、他のルートへ切り替えることで、通信サービスを提供できるようにしている。首都直下型地震の対策としては、広い範囲を丸ごとカバーできる「大ゾーン基地局」を設置してサービス提供の継続を可能にしている。

KDDI ネットワーク設備 通信障害 災害対策 KDDIは基幹ネットワークのルート化や、大ゾーン基地局などを活用し、災害時においても通信サービスを使えるようにしている

 記憶に新しい大規模災害といえば、2024年1月1日に石川県能登半島を襲った地震だ。崩落や土砂崩れで道路が使えなかった他、渋滞発生により必要な機材の運搬に「時間を要した」(大石氏)。能登半島地震では現場環境の変化が激しい中、現地の安全を確保しながら作業に当たることも急務となった。ベースキャンプ車両を派遣して、作業員が宿泊できるようにした。

KDDI ネットワーク設備 通信障害 災害対策 1月1日に石川県能登半島を襲った地震。最大震度は7と大型の地震となった
KDDI ネットワーク設備 通信障害 災害対策 災害時には土砂崩れなどにより道路が使えなくなってしまう
KDDI ネットワーク設備 通信障害 災害対策 交通規制や車両の集中で交通渋滞が発生することもあり得る。そのため、車載型基地局ではまかない切れないのだ

 KDDIは災害時にも、数千機の低軌道周回衛星で地上にブロードバンド接続を提供する「Starlink」を活用している。光回線をバックホールとWi-Fiとして活用。auサービスは移動基地局、Starlink、発電機などを利用し、「1日最大500人体制でエリア支障を順次解消」(大石氏)した。Starlinkは2023年に導入したため、活用の経験メンバーが少なく、能登半島地震では「100人ほどを育成」(大石氏)しながら復旧作業を行わなければならなかった。

KDDI ネットワーク設備 通信障害 災害対策 「Starlink」は災害時における活用事例が増えていきそうだ
KDDI ネットワーク設備 通信障害 災害対策 能登半島地震の際は「車載型基地局に積もった雪を除雪し、平らにして衛生アンテナを設置した」(大石氏)そうだ
KDDI ネットワーク設備 通信障害 災害対策 災害時に役立つ通信衛星機器やStarlinkアンテナ、GPSアンテナ。これらを含む可搬型基地局は車に積載して移動させる

NTTから「一緒に船上基地局を運搬しないか」との連絡が

 自治体や自衛隊、通信事業者との連携も復旧に向けた取り組みの1つで、能登半島地震では船上基地局が活躍した。「NTTから連絡があり一緒に船上基地局を運搬しないか、という提案を受けた」(大石氏)KDDIは、船上基地局をNTTと一緒に運搬することを決めた。「ドコモはKDDIを温かく迎え入れた。船酔いしながら滑りやすい機材をベルトで固定し運搬した」(大石氏)

 船上で活躍したStarlinkは避難場に350台を無償で提供。大石氏は「使える状態にして金沢へ発送した。1つ1つを荷下ろしして、3〜4時間かけて運んだ」と当時の苦労を明かす。だが、孤立集落にてStarlink Wi-Fiが活用できたことで、孤立集落に避難生活をしていた人は、スマートフォンでビデオ通話を行えた。運搬時の苦労が実を結んだ。

KDDI ネットワーク設備 通信障害 災害対策 KDDIはStarlink Wi-Fi 350台を避難所に無償で提供。一時的に使えなくなったモバイル回線の代替えとなった

 大石氏は災害時の復旧について、「競争ではなく協調領域である」と言い表しており、船上基地局の共同運用だけでなく、車載・可搬型基地局の燃料を給油する際も相互に連携を図るとしている。日頃はライバルである事業者間の連携が強化されることで、サービスの早期復旧が期待できる。

KDDI ネットワーク設備 通信障害 災害対策 災害時の復旧においては日頃、ライバルとなる通信キャリア各社が手を取り合う事例が増えそうだ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2025年12月07日 更新
  1. ヨドバシ通販は「高還元率で偽物リスク低い」──コレが“脱Amazon”した人の本音か (2025年12月06日)
  2. 「健康保険証で良いじゃないですか」──政治家ポストにマイナ保険証派が“猛反論”した理由 (2025年12月06日)
  3. NHK受信料の“督促強化”に不満や疑問の声 「訪問時のマナーは担当者に指導」と広報 (2025年12月05日)
  4. ドコモも一本化する認証方式「パスキー」 証券口座乗っ取りで普及加速も、混乱するユーザー体験を統一できるか (2025年12月06日)
  5. 飲食店でのスマホ注文に物議、LINEの連携必須に批判も 「客のリソースにただ乗りしないでほしい」 (2025年12月04日)
  6. 楽天の2年間データ使い放題「バラマキ端末」を入手――楽天モバイル、年内1000万契約達成は確実か (2025年11月30日)
  7. 楽天モバイルが“2025年内1000万契約”に向けて繰り出した方策とは? (2025年12月06日)
  8. 楽天ペイと楽天ポイントのキャンペーンまとめ【12月3日最新版】 1万〜3万ポイント還元のお得な施策あり (2025年12月03日)
  9. ドコモが「dアカウント」のパスワードレス認証を「パスキー」に統一 2026年5月めどに (2025年12月05日)
  10. Amazonでガジェットを注文したら、日本で使えない“技適なし製品”が届いた 泣き寝入りしかない? (2025年07月11日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー