スマホに格納する「デジタル学生証」の最新事情 学割定期の購入やタッチで出欠確認、“なりすまし“対策も(1/3 ページ)

» 2026年09月02日 12時24分 公開

 2026年8月28日に大阪大学の吹田キャンパスにおいて「大阪大学DXサミット 2026」が開催された。現在日本は少子高齢化のただ中にあり、現在約109万人の18歳人口が2040年には約74万人にまで減少が見込まれている。大学淘汰(とうた)や定員割れが当たり前となり、特に中小や地方大学単独での存続や経営基盤の維持が厳しくなりつつある。

 目に見える課題としては、日本の大学は論文数そのものは世界トップクラスである一方、被引用数トップの割合では海外勢に後れを取り、国内大学間での学生の奪い合いの中でグローバルな視点では埋没しつつあるという。

 大阪大学 OUDX推進室 副室長 教授の鎗水(やりみず)徹氏は「競争と共創は2年くらい前から言い続けているが、大学の教育や研究内容は各大学の強みに起因する部分なので、そこは創意工夫で強みを発揮していただく一方で、システムは共通化してデジタル技術で事務や教職員の負担を減らし、本来の強みに人やお金のリソースを振り分けるべき」と述べ、ITによる大学DXの重要性を説いている。

 今回は2025年8月29日に同所で開催された「大学DXセミナー」に次ぐ2回目だが、前回の評判を受け、参加者数は一気に倍以上に膨れ上がり、ITベンダー依存ではなく現場知識を生かしての内製開発や、業務プロセスの見直し(BPR)、そして昨今急速に盛り上がるAI活用までテーマが広がっている。

大阪大学DXサミット2026 8月28日に大阪大学の吹田キャンパスで開催された「大阪大学DXサミット 2026」
大阪大学DXサミット2026 大阪大学 OUDX推進室 副室長 教授の鎗水徹氏

 ここでは、前回からの共通テーマである「デジタル学生証」の部分についてフォーカスしたい。

学生証をスマホに格納できれば発行コストを削減できる

 近年の大学では、講義を含む各種お知らせや問い合わせを学生向けのスマートフォンアプリを介して提供するケースが増えており、事務負担を軽減しつつ利用者満足度を高めるようになっている。

 特に留学生を多く受け入れていたり、域外からやってくる不慣れな学生が多かったりする大学では、AIによる翻訳機能やFAQのような問い合わせ内容を集約した情報を提供することで、事務負担を減らしつつ必要な情報を提供できるため、双方にメリットがある。

 加えて、学生証を従来の紙やプラスチックのIDカードではなく、スマートフォンに搭載可能な「デジタル学生証」に置き換えていく動きがある。例えば前回の大学DXセミナーでは、大阪大学では年間5000件の学生証再発行依頼があった。1枚あたりのコストはデジタル学生証の利用料と比較してそこまで高いわけではないものの、年間の稼働日数で考えれば1日あたり何十件も再発行対応が必要なのでそれなりの負担になる。

 学生証自体の携帯忘れを防ぎ、紛失時の再発行にかかる時間を短縮できるだけでなく、試験時や制限エリアへの入退出で問題になるなりすまし対策にもなるなど、トータルでメリットとなる部分も大きい。

 実際に大和大学や秋田大学など、デジタル学生証への切り替えで従来型カードを廃止する事例も出てきている。ただ一方で、学生証の提示が必要な場面で「デジタル学生証を学生証として認めてもらえない」といった認知問題もあり、デジタル学生証の拡大には周囲の根回しや協力が不可欠だといえる。

デジタル学生証でも厳格な本人確認が行える仕組みとは

 「デジタル学生証」と銘打ってスマートフォンの画面上に券面を表示するだけでは、本来の意味で身分証明書としての機能を果たさない。画像そのものは加工が容易であり、本人証明にはならないからだ。そこで、“本人証明が可能”な「デジタル証明書」を大学が発行し、学生はそれをスマートフォン内に格納して、学割サービスを提供する事業者らが提示されたデジタル学生証を検証する仕組みが必要になる。さらに加えれば、この検証する仕組みまでを含めて社会的認知が必要だ。

 そこで登場するのが「mdoc」という国際標準と、これを検証するための「VC(Verifiable Credential:検証可能な資格情報)」だ。下図はW3Cのサイトから抜粋したものだが、VCの基本動作を示している。「Issuer(発行者)」はVCを発行する者であり、今回のデジタル学生証については大学が学生DBに基づいて発行する。

 このVCをスマートフォン内で所有するのが「Holder(所持者)」であり、つまりデジタル学生証を持つ学生だ。最後の「Verifier(検証者)」はVCが正規に発行されたものかを確認する者であり、学割サービスを提供する事業者が該当する。

 このVC検証の仕組みはそれぞれの頭文字を取って「IHVモデル」などとも呼ばれ、mdocの仕様に準拠していれば誰もがVCに記載された情報が発行者によって記述されたものかを確認できる。

 Holderは、Verifierの要求する検証項目について「どこまで情報を出すか」を自分で選べる点も特徴であり、この個人情報を管理する仕組みは「DIW(Digital Identity Wallet)」と呼ばれる。iPhoneやAndroidにも標準搭載されている機能であり、日本国内では「iPhoneのマイナンバーカード」がこのVCとDIWの仕組みに対応している。

Verifiable Credential VC(Verifiable Credential:検証可能な資格情報)」を検証するIHVモデルの概略
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