5Gが創出する新ビジネス

シャープが「持ち運べるローカル5G」を展示 ケースを開けて電源を入れるだけでエリア構築、600万〜700万円を想定

» 2026年10月15日 17時00分 公開
[石井徹,ITmedia]

 シャープは、10月13日から16日まで幕張メッセで開催中の「CEATEC 2026」で、ローカル5Gの基地局とコア装置を小型のキャリーケースに収めた可搬型システム「Instant 5G Network」を展示している。

 電源を入れるだけで5Gのエリアが立ち上がり、ケースの中のサーバで映像配信や通話のアプリケーションまで動く。現在はプロトタイプの段階だが、シャープは製品として販売する予定で、価格は1台600万〜700万円を想定している。

Instant 5G Networkのキャリーケース Instant 5G Network。キャリーケースにアンテナを立てた状態

アンテナとGPSをつないで電源を入れるだけ

 ローカル5Gは、通信事業者が全国で使う周波数とは別の帯域(4.6〜4.9GHz帯など)を、企業や自治体が自分の敷地内で免許を取って使う仕組みだ。免許を取った場所では他の誰も同じ電波を使えないため、Wi-Fiのように周囲の利用者が増えて通信が不安定になることがない。工場のラインや機械の制御のように、「今日つながっていた通信が明日止まると困る」用途で使われている。

 Instant 5G Networkは、このローカル5Gの環境を一式持ち運べるようにしたものだ。キャリーケースの中に、基地局と、端末の認証や通信の制御を担うコアネットワーク、アプリケーションを動かすサーバPCが入っている。設置は、ケースにアンテナを立ててGPSアンテナをつなぎ、電源を入れるだけで済む。展示では、このケースから出た5Gの電波で監視カメラの映像を伝送し、ブースに並べた4台の端末も全て5Gでつながっていた。

Instant 5G Networkの展示 展示パネルと本体。公衆通信網が途絶えた環境でも安定した通信手段を提供するとうたう

 サーバPCには、シミュレーターや映像配信サーバ、プッシュ通知のサーバといったアプリケーションが入っている。用途が「通話だけ」「映像配信だけ」と決まっていれば、必要なアプリケーションを入れた状態で持ち込むだけで、現場に映像配信のサーバごと設置できる。ケースにはメンテナンス用のイーサネットの口があり、PCをつないで設定を変えられる。

 会場に掲示した仕様では、サイズは356×400×209mm(取っ手、突起部を除く)、質量は本体のみで約14kg。IP54相当の防水・防塵(じん)性能を持ち、対応周波数は4.6〜5.0GHz、同時に接続できる端末は64台までだ。基地局のアンテナは下り4×4、上り2×2のMIMOに対応し、外部インタフェースはRF端子5つ(5G用4つ、GPS用1つ)、2.5ギガビットイーサネット(GbE)のLAN端子2つ、AC100Vの電源を備える。

Instant 5G Networkの仕様 会場に掲示した仕様。基地局からコアまで一体化したと説明する

 シャープは2023年10月にこのシステムのプロトタイプの開発を発表している。当時の試作機は質量約20kgで、バッテリーで約2時間駆動する仕様だった。なお、ローカル5Gは免許制のため、このシステムを持ち込めばどこでも免許なしでエリアを構築できるわけではない。

衛星回線とも連携 帯域を利用者ごとに振り分け

 今回の展示で加わったのが、衛星通信との連携だ。ケースには衛星通信のアンテナをつなぐ口があり、衛星で受けた回線をそのままローカル5Gのエリアとして広げられる。災害現場や山間部のように地上のネットワークが使えない場所でも、衛星回線さえ確保できれば5Gのエリアを作れる。衛星回線を使ってシャープ側から遠隔でシステムの設定も可能だ。

 衛星の帯域は限られるため、システムには利用者ごとに帯域を振り分ける管理機能を持たせた。展示では管理者と担当者の2種類のアカウントを用意し、管理者は100Mbps、担当者は10Mbpsまでといった制限や、特定の映像にアクセスできる利用者を分ける設定を見せていた。衛星から20Mbps程度の帯域しか確保できない場合でも、重要な利用者に優先して帯域を割く、といった使い方を想定している。

SIMごとのアクセス管理 SIMごとに管理者、担当者などの区分を設け、アクセス先や通信速度を制御する
デモ用のスマートフォン デモ用のスマートフォン。避難所を想定した入浴や洗濯のサービス案内の画面を表示している

 端末の管理にはeSIMも使える。SIMカードは紛失や管理の手間があるため、端末を追加するときにeSIMを発行して登録できるようにした。eSIMの発行から登録までは2〜3分で済む。

シャープのローカル5Gの特徴 eSIMでの接続、端末ごとのアクセス制御と通信速度制御を特徴として示す

 シャープは同じブースで、MEO(中軌道)・LEO(低軌道)衛星向けの衛星通信ユーザーターミナルも展示している。スマートフォンの開発で培った小型化の技術を生かしたもので、船舶や自動車、建機への搭載を想定して開発中だ。2026年6月には、中軌道衛星通信サービス「O3b mPOWER」を手掛けるSESと、同サービスの国内展開に向けた協議を始めることで基本合意している。

MEO/LEO衛星通信ユーザーターミナル MEO・LEO衛星向けの衛星通信ユーザーターミナル

花火大会や工事現場、数日だけのエリアに

 シャープがInstant 5G Networkの用途として挙げるのは、数日間だけ通信環境が必要になる場面だ。花火大会の会場では観客のスマートフォンで通信事業者の回線が混み合い、テレビ中継用のカメラ映像の伝送に使えなくなる。Wi-Fiでは電波が届く範囲が狭い。

 ローカル5Gなら免許を取った自分たちしか使わないため、周囲の混雑に左右されずに映像を送れる。観客は通信事業者の回線を使い、映像伝送だけをローカル5Gで行うという分け方だ。

 工事現場で2〜3日だけ無線環境を作り、終わったら次の現場に持っていく使い方や、ローカル5Gを本格的に導入する前に電波の飛び方を試す仮設用途も想定している。こうした短期利用が中心になるため、顧客からはレンタルでの提供を求める声が多いが、シャープはまだレンタルのビジネスモデルを固めていない。

 想定価格の600万〜700万円は、ローカル5Gのシステムとしては中間的な水準だ。ローカル5Gの機器は数千万円のものから数百万円のものまで幅がある。通信事業者が災害時やイベント時に使う移動基地局のような用途については、コアネットワークまで含めた構成は通信事業者のコアと重複するため、基地局部分だけを切り出して提供する可能性はあるとしている。

シャープブース シャープブース。「社会レジリエンス」をテーマに7点を展示する

 シャープのブースはホール5の5H340で、テーマは「社会レジリエンス」。Instant 5G Networkの他、排水をろ過して繰り返し使う洗濯システム「トリプルフリーランドリー」、フロー型亜鉛空気電池、上水道の漏水検知システムなど計7点を展示している。

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