5Gが創出する新ビジネス

シャープのローカル5G戦略を聞く 端末メーカーのノウハウや鴻海のリソースが強みに5Gビジネスの神髄に迫る(1/2 ページ)

» 2021年07月16日 11時54分 公開
[佐野正弘ITmedia]

 新たにローカル5Gへの参入を打ち出したシャープは、ローカル5G対応デバイスの投入に加え、2021年2月にはソリューション事業への参入を視野に「SHARP Local 5G Trial Field」を立ち上げるなどして、2021年中の本格参入を目指している。ローカル5Gにおけるシャープの強みと課題はどこにあるのか、同社の担当者に話を聞いた。

シャープ シャープがローカル5Gの実証実験免許を取得して展開するラボ施設「SHARP Local 5G Trial Field」。幕張と東広島の2つの事業所に設置している

ルーターの強化はローカル5Gを見据えた策

 さまざまな事業者が参入しているローカル5G市場だが、そこに新たに参入を表明したのがシャープだ。同社は2020年8月にローカル5Gに対応したルーターの試作機の開発を発表するなど、デバイス面ではローカル5Gに早くから力を入れている。

 2021年に入ると、自社でローカル5Gの実証実験免許を取得し、千葉県千葉市と広島県東広島市にある同社の事業所内に、ローカル5Gを活用した新たなソリューション共創の場となる「SHARP Local 5G Trial Field」を2021年2月に開設した。2021年中にはローカル5Gのネットワーク関連事業に本格参入するとしている。

【訂正:2021年7月19日20時00分 初出時、幕張事業所の所在地に誤りがありました。おわびして訂正致します。】

シャープ 通信事業本部 パーソナル通信事業部 事業部長の小林繁氏

 シャープの通信事業本部 パーソナル通信事業部 事業部長の小林繁氏によると、同社はこれまでにも、構内Wi-Fiとスマートフォンを活用した法人向けのソリューションを、システムインテグレーター(SIer)やネットワークインテグレーター(NIer)などと一緒に展開していたとのこと。最近では自営LTE網のsXGPに関する取り組みも進めてきたことから、ローカル5Gへの取り組みもその延長線上にあるもので、早い時期から5Gに力を入れてきたシャープの参入は自然な流れなのだという。

 一方、現状のローカル5Gにはいくつかの課題もある。通信事業本部 パーソナル通信事業部 要素開発部 課長の彦惣桂二氏は、課題の1つはローカル5Gに対応する端末が少ないことだとみているが、シャープがその解決に向けて力を入れてきたのが、実はデータ通信端末だという。

 シャープは、2019年にNTTドコモに「Wi-Fi STATION」(SH-05L)を提供したのを皮切りとして、2020年には5Gルーターの「Wi-Fi STATION」(SH-52A)を提供。最近ではドコモの「home 5G」向けにCPE(Customer Premises Equipment)の「Home 5G」(HR01)を提供するなど、ここ最近は携帯電話会社向けにデータ通信端末を積極的に提供している。

シャープ シャープは2019年以降、親会社である鴻海精密工業のリソースを活用するなどして、携帯大手各社にモバイルWi-Fiルーターを主体としたデータ通信端末を積極展開。最近では据え置き型のCPEも提供している

 そしてこれらデータ通信端末はエンタープライズの顧客への提供、さらにはローカル5Gでの展開を見据えたものなのだと小林氏は話す。例えばSH-52Aなどでは当初からミリ波に対応していたが、これも当時、ミリ波の28GHz帯しか割り当てられていなかったローカル5Gを意識したものであったようだ。

 そこでシャープはローカル5Gの端末不足問題解決に向け、携帯電話会社向けに提供していた5G対応ルーターに改修を施し、ローカル5G向けとして2020年10月より提供開始。その後スタンドアロン(SA)運用ができる4.7GHz帯の割り当てが始まったことを受け、顧客のニーズに応える形で2021年4月には4.7GHz帯・SA運用への対応も進めている。

シャープ シャープは2020年8月にローカル5G向けの5G対応ルーターを発表したが、これは携帯大手向けに提供された端末をベースにしたものだという

 小林氏は、究極的にはパブリック5G向け端末で培った端末やその技術の一部、あるいは全てをローカル5Gにも展開していきたいとの考えを示している。シャープではモバイル型のルーターだけでなく、スマートフォンやCPEなども携帯電話会社向けに提供していることから、顧客のニーズや用途などを確認した上で、それらをベースとしたローカル5G対応端末を増やしていきたいとのことだ。

シャープ 今後は顧客のニーズに応じて、ルーターだけでなくスマートフォンやCPE、通信モジュールもローカル5Gに対応した製品を提供する考えだという

鴻海のリソース活用で低コストの通信設備も

シャープ 通信事業本部 パーソナル通信事業部 要素開発部 課長の彦惣桂二氏

 だが彦惣氏によると、ローカル5Gにはもう1つ大きな課題がある。それはネットワーク装置が非常に高額なことであり、それがネックとなってローカル5Gの活用は現状、スマート工場などの大規模案件にとどまっているのだという。

 なぜかといえば、ローカル5Gのネットワーク規模が携帯電話会社のものよりはるかに小さいにもかかわらず、携帯電話会社のニーズに合った高額な製品しか提供されていないからだという。そこでシャープは、ネットワーク装置の低コスト化に向け、自らローカル5Gに適した規模の設備を用意するに至った。

 まずコアネットワークに関してだが、通信事業本部 パーソナル通信事業部 要素開発部 部長の武部裕幸氏は、ソフトウェアによる仮想化技術を活用したシステムの提供を検討しているとのこと。「ソフトウェアなので普及が進むと値段が下がり、将来的には安価に入手できるシステムになると考えている」と同氏は話す。

シャープ 通信事業本部 パーソナル通信事業部 要素開発部 部長の武部裕幸氏

 また基地局に関しても、基地局を構成するBBU(Baseband Unit、ベースバンド装置)とRRU(Remote Radio Unit、リモート無線装置)を分離し、RRUを壁に付けられるサイズにまで小型・軽量化し、建物の強化工事が不要で低コストの製品開発を目指していると彦惣氏は答える。ニーズが高い4.7GHz帯のSA対応、なおかつパブリック5Gと比べ、送信速度を高速化させたローカル5G特有の準同期方式に対応させた製品を提供することを考えているとのことだ。

シャープ ローカル5G向けのネットワーク装置も自社で用意するとのこと。基地局はBBUとRRUを分離し、小型・軽量化し設置の負担を減らすことで低コスト化を進めるという

 だがシャープは端末の実績は豊富だが、ネットワーク設備の開発実績は持ち合わせていない。そこで同社が活用しようとしているのが親会社でもある鴻海(ホンハイ)精密工業のリソースだ。実は鴻海精密工業ではLTEの時代からスモールセルなどを開発して携帯電話会社などに提供している実績があるそうで、そうした機器を日本向けにカスタマイズし展開することも、低コスト化実現に向けた要素の1つとなっているようだ。

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