四半期報告書や有価証券報告書は、上場企業にとって法的に作成を義務づけられた書類となる。提出期限は先述の通りだが、財務局から承認を得られれば提出期限を延長することはできる。しかし、その承認を必ず得られるとは限らない。延期の承認を得られなかった場合は、証券取引所に報告書を提出できずに一発で「上場廃止」になるリスクもある。
東芝が2016年度第3四半期の四半期報告書(≒決算)提出において、3度目の延期を申請せず、独立監査人の結論を待たずに発表したのは、上場廃止のリスクを少しでも減らすことを重視した結果であると思われる。
一方、同社が今回の通期決算で決算短信を開示せず、代わりに決算の「見通し」のみを発表した大きな理由として、独立監査人であるPwCあらた監査法人(PwCあらた)による監査作業が完了していないことが挙げられる。
決算短信は、決算を迅速に開示するという目的から独立監査人(監査法人)からのレビュー・監査対象ではない。そのため、独立監査人によるレビュー・監査作業が完了していない状態でも開示はできる。
ただ、一般的には独立監査人によるレビュー・監査作業が完了した状態で決算短信を出す企業は多い。また、完了前に出す場合は、企業と独立監査人との間に大きな意見相違がないことが前提となる。
もしも、同社が監査作業完了を待たずに通期決算短信を開示すれば、PwCあらたとの対立が深まり、法定期限である6月30日までに2016年度の有価証券報告書を提出できない可能性が高まる。一方で、決算短信を出さないことは、投資家からすると投資判断の遅れによる不利益につながりうる。
PwCあらたとの関係悪化を避けつつ、投資家にも情報提供できる「落としどころ」として東芝が取った手段が、今回の決算「見通し」発表といえる。
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