そもそも、データに基づいてビジネスの意思決定をする文化が根付いている日本企業がどれだけあるだろうか。「データ活用の民主化」などといわれることもあるが、まずはデータ分析の文化を多くの企業に浸透させねば、職業としてのデータサイエンティストは成り立たないだろう。
授業では、機械学習のモデリングを自動化する技術である「AutoML」(Automated Machine Learning)などの登場で「近い将来データサイエンティストが不要になるのでは」という声も上がった。
しかし、実際にデータサイエンティストとして活動する講師は、自動化ツールの台頭にそこまで悲観的ではないようだった。これまで述べてきたように、データサイエンティストが行う業務は幅広い。モデルの特徴量作成やパラメータ調整などを自動化できれば他の作業に時間を割けるし、多くの人がデータ分析に触れる可能性が広がると考えれば、こうした動きはもっと前向きに捉えても良さそうだ。
「40代からデータサイエンティストに転職するのはどうか」という質問に対しては、「いちからプログラミングを学んで若い人と競争するよりも、プログラムを書けるパートナーを探し、これまでのビジネス経験を生かすのがいいのではないか」という回答があった。個人のキャリアに正解はないが、自分の持ち味をどう生かすかを考える上での参考になる意見だ。
また印象的だったのは、授業で出てくる数式の内容が理解できないときに「分からない数式は、Excelで書いてみるといい」と勧められたことだ。「(回帰モデルの)リッジ回帰とラッソ回帰の違いや、論文に出てくる数式の意味がよく分からない」という質問に対し、講師は「数式を1つ1つ分解しながら、Excelシートにxやyの値をアテで入れてみて、どういう計算が行われているのかを順番に実行してみる。Pythonでは1行しかないコードでも、Excelでイチから書ければ本当の意味で理解したことになる」と回答した。
Pythonで書いたコードの中身をどこまで理解すべきかは自分が目指すキャリアによっても変わってくると思うが、「難しい数式が出てきたら、まずExcelで再現してみる」という発想は全くなかったので、このアプローチも参考になった。
このように、スクールでは多くの学びがあった。ビジネス課題を解決できるようになることが目的なので、AIはあくまで手段だ。実際に、最後の卒業プロジェクトは必ずしもPythonやRを使う必要はなく、Excelで解決できるならそれでも問題ない。新しい手法を覚えると、高度な手法を使うことそれ自体や、モデルの精度を上げることに気を取られがちだが、そこは手段と目的がひっくり返らないように気を付けたい。
また、「スクールはデータ分析に価値があると思っている人たちが集まっている」という事実を忘れてはいけない。授業の中では「そもそもデータ分析をすることに何の意味があるのか」を問われたり、「データ分析をする意味がない問題を分析する」こともない。しかし、実務ではそうした壁にぶち当たることも多いはずだ。
そして授業の最終日、講師が卒業生に贈った言葉は「データサイエンスを楽しもう」だった。昨今、政府や民間企業がAI人材の育成に取り組んでいるが、データサイエンスの楽しさを伝えられる人はどれだけいるのだろうか。
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