EOS Kiss Digitalの予備電池に関する一考察 その3――安価なサードパーティ製について考える(3/3 ページ)

» 2004年07月08日 16時36分 公開
[小林哲雄,ITmedia]
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保護回路は搭載されているのか

 さて、グラフ1をよくよく見ると気になる結果となっていることが分かる。カットオフ電圧を約5.5ボルトに設定したというのは、要するに放電器の終了条件をその電圧にしたということで、実際には放電が終了してから電圧が多少上がるのだが、その部分はデータを削除している。ところが、カットオフ電圧に到達する前に出力電圧が0ボルトになるセルがいくつかあった。先のDB-PCN3と、PC Adhoc Jananのものがそれだ。

グラフ1の終端部分拡大。DB-PCN3(緑)と、PC Adhoc Janan(茶)は途中でとぎれているのが分かる

 電圧が0ボルトになる原因は2つある。一つは過放電で0ボルトになるケースだが、この場合は出力電圧が下がっていった結果として0ボルトとなるので、急に下がるわけではない。つまり、これらは電池パック内の保護回路の1つである「過放電防止機能」が働き、これ以上の放電を阻止するべく、パック内でカットオフされたわけだ。

 その1で述べたように、リチウムイオン電池にはすべて保護回路が組み込まれているはずだ。写真は秋葉原で販売されているリチウムイオン電池のジャンク品で、マニア用として(ノートパソコンの電池の換装に使うべく)販売されているものだ。これもシンプルな外見に似合わず、電池パックを分解してみると保護回路基板が入っていることがわかる。

あえてメーカー名を伏せるが、一流メーカー製リチウムイオン電池パックのジャンク品(下)を分解したもの(上)。電池に付いている基盤が保護回路で、監視ICとFETが見える。上の奥に白い電線が伸びているが、これは1セルずつ電圧を監視するため。写真では見えないが裏側には温度センサーも付いている

 電池パックの保護回路は、簡単に概略を言うと、監視ICが電流と電圧を監視し、電流が大きすぎる場合や、電圧が低すぎたり、高すぎる場合は電子スイッチ(FET)を操作して、外部に電圧を流さないようにしている、というものだ。

 サードパーティ製電池が問題となるとすれば、電池セルの性能が著しく悪いか、保護回路がEOS Kiss Digitalの仕様と合わない、あるいは保護回路そのものがないことになるが、最後のケースはさすがに考えにくい。とりあえず今回の電池をすべて分解してみたが、保護回路基板はすべて入っている。

電池を分解した結果。当たり前の話(?)だが保護回路は付いている。左上から右にケンコーC-#1007、ハクバ写真産業DBP-CN3、ブライトンネットBB-CN511、左下から下にケンコーC-#1015、SUBA PL511-W851、PC Adhoc Japan

 ちなみにこれらの製品に使用されている電池セルのメーカーだが、型番すら記載していないものもあり、厳しい結果となった。リチウムイオン電池は、90年代では日本メーカーの独壇場であったが、現在は中国、韓国、台湾メーカーに押されつつある。

 充電池の性能のポイントになるのは、初期容量以外にも実用放電電流とサイクル性能が挙げられる。またリチウムイオン電池の場合は電池の安全性を高める必要もあり、設計・製造ノウハウが性能の決め手となる。この点では日本製にまだ分があると言われている。

表4■今回の電池パック内容

製品名 原産国等表記 外装色 電池メーカー製品名など
C-#1007 A:USA 不明(ロット番号らしきもののみ)
C-#1015 A:USA 不明(ロット番号らしきもののみ)
BB-CN511 非公開(無表示) MOLI ICR-18500A(E-One Moli Energyか?)
DBP-CN3 C:JAPAN
M:TAIWAN
MP18500
PC ADHOC M:CHINA LC18500(Power Tech Internationalか?)
PL511-W851 C:JAPAN A&TB LGR18500P(東芝)

注■A:Assenbled in xxx、C:Cells made in xxx、M:Made in xxx

 なお、保護回路というほどではないが、短絡防止板はあると望ましい。というのも長期に使わない場合には電池をカメラから出しておく必要があり、この際に何かとショートしないようにするために、短絡防止板は欲しい。

 また、短絡防止板の向きで充電済か使用済か把握することもできる。BP-511Aに添付されていた短絡防止板には切り欠きがあり、銘版シールに色が付いていることと合わせ、一目で分かりやすいので便利だ。

コストパフォーマンスに優れるオークション系電池

 サードパーティ製コンパチ電池をひと通り見てきたが、表記容量がアテにならないというのは意外な結果だった。保護回路基板は一応すべて付いていたため、一般的にサイクル寿命がよいと言われている日本製電池を使ったと称するハクバ写真産業と、オークションで入手したSUBA PL511-W851がコストパフォーマンス面で有利だと考えられ、サイクル寿命は不明なものの、価格ではやはり「オク系電池」に分があると言える。ただ、真にお買い得かどうかの根拠は薄い。というのも、中身が見えていないのだ。

 キヤノンに問い合わせてみたところ「サードパーティ製バッテリーが原因で故障した場合は保証規定外なので有償修理」という回答が返ってきた。メーカーが警告する「発火、破裂するケース」の場合はやはり有償修理になるのだろうが、いくらぐらいかかるかはもちろん「ケースバイケース」(キヤノン)となる。

 日本電池工業会やキヤノンが警告している「サードパーティ電池による発火や破裂の報告例」の現物写真は見ていないが、携帯電話の世界ではちょっと前にニュースになっていた(関連記事参照)。

 「安全」という点で見ると最近は「食の安全」が世間的にクローズアップされているが、不当表示の告発や表記ミスでの回収も非常に多い。素材を明記するスーパーの高品位プライベートブランドなどのような製品は出せないだろうか?

「当社のリチウムイオン電池は世界シェアナンバーワンの三洋製セルを使用、保護ICも世界トップシェアのSII、FETは東芝のU-MOSで低抵抗です。これらを品質管理に優れたISO9001認定工場(台湾)で組み立てました。当社が自信を持ってオススメできる製品です」

 このスペック通りで純正より安いなら、少なくても私は飛びつきそうだ。別に松下セルで日立FETでもよいのだが、要するに製造国だけでなくキチンと中身を明らかにしている製品のひとつぐらいあってもよさそうだし、純正電池以上の信頼を勝ち取る方法の一つだろう。

 もうちょっと見方を変えてみよう。ショップでメーカー製マシンを購入し同時に増設メモリを頼んだ場合、店員はそのメーカー純正のメモリをすすめるだろうか? おそらくノーだろう。バッファローやアイ・オー・データ機器などのサードパーティ商品が価格も安く、品質も十分に高い、とすすめると思う。

 初めに述べたように、ショップの片隅に電池が置かれるのではなく、売れ筋カメラの横に置かれて推奨されるような域に達してこそ、真の市民権が得られると思う。少なくてもメモリカードはデジカメ市場でその座を得ている。同じようにデジカメに必須の電池も、その域に到達してほしいものだ。

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