コロコロの誘惑――“私的”トラックボール論(2/2 ページ)

» 2004年09月21日 12時51分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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 省スペースが求められる「ノートPC+トラックボール」という黄金の組み合わせに引導を渡したのが、1997年に発売されたソニーの「VAIO PCG-505」であったろう。ソニーのVAIO PCG-505は、パソコンがあそこまで薄くできることを体現して見せたと同時に、トラックボールではなくタッチパッドでなければ、あの薄さは物理的に無理という事実をわれわれに初めて認識させたのである。

 当時のタッチパッドは、現在のように静電式ではなく圧電式であったため、ポインティングデバイスとしての性能は低かったが、それでも薄さという“絶対の正義”の前には、沈黙せざるを得なかった。省スペースという二次元的メリットでもてはやされたトラックボールが、厚みという三次元的デメリットで敗退したのは、象徴的な出来事だ。

 むろんそれ以降もトラックボールを採用したノートPCは生き残り、一部のトラックボールファンの望みをつないでいたが、2002年発売のパナソニック「Let's note TB CF-A3」シリーズがその最後となったようである。

マウスとは違うルーツ

 そもそもトラックボールは、マウスの代用品なのか。

 トラックボールの起源を調べていくと、1966年にまでさかのぼることが出来そうだ。古いポインティングデバイスを集めたサイト、oldmouse.comによると、現在も組込用トラックボールを製造する米Orbit Instrument Corporationが、1966年に軍用航空管制塔のコントロールパネルにトラックボールを実装したとある。

 この話を信じるならば、マウスの発明は1963年ではあるものの、実用化されるまでには1980年代まで待たなければならなかったことを考え合わせると、トラックボールのほうが実用化が早かったことになる。

 つまりトラックボールは、マウスの代用としてあとから考案されたものではなく、全く別の経緯をたどって生まれたポインティングデバイスという見方ができるのではないか。そう考えると、もう少しトラックボールに対して積極的なアプローチができそうである。

 先日、動きが鈍くなった「TrackMan FX」の代わりに、Kensingtonの「Expert Mouse Optical Black」を購入した。マウスと名乗るわりには、デカいトラックボールなのである。

 本当は手のひらにしっくり来るオーガニックな形状のものを探したのだが、Cordless TrackMan FXは既にディスコン(発売中止)となっている。さらにマイクロソフトやロジクールの現行モデルでは、どうも次第にボールが小さくなる傾向がある。トラックボールというのは、ボールのサイズと重さによる慣性で長距離の移動を稼ぐというメリットがあるので、あまりボールが小さくなるのもよろしくないのである。

大きなボールが特徴の「Expert Mouse Optical Black」

 その点Expert Mouseのデカい玉は、快調だ。スクロール機能を持つリングも、なかなか使い勝手がいい。ボールが大きいため高さもかなりあるのだが、アームレストも付属しており、手首の負担を軽減している。また専用ソフトウェアを使えば、キーボードとの組み合わせで縦横のロックや微細な動きもサポートするなど、トラックボールの苦手な点をよくカバーしている。

専用ユーティリティとの併用で微細なコントロールも可能になる

 問題点といえば、表面全体を覆うようにそこらじゅうにデカいボタンがあるため、なにもしていないときに手を休める場所がないところだろうか。その点を重視するのであれば、もっとオーガニックな形状のものを選択すべきなのだろう。

 熱心なトラックボール愛好家の中には、これで絵も描いてしまう器用な人もいるようだ。だが筆者は、CG制作や写真のレタッチなどの作業の時には、あっさりマウスに持ち替えている。

 ポインティングデバイスも、PS2からUSB接続になって、差し替えや複数接続がずいぶんと楽になった。自由な選択が許されているわけだから、それを利用しない手はない。PCに接続するのはたった一つと決めつけず、作業に応じて自分がもっとも楽なものを柔軟に使い分けていくという考え方も、あっていいだろう。

 自分流のポインティングデバイス選びに凝れるのも、PCの密かな楽しみの一つなのである。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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