もうすでに、ほとんどの自作ユーザーが所有するグラフィックスカードのバスはPCI Express X16に移行しただろう、とつい思いがちだが、以前紹介した「GeForce 7800 GS」搭載AGP対応カードのレビュー記事に強い反応があったように、AGPに対応したグラフィックスカードの需要はまだまだ根強い。
最近になっても、NVIDIAの新世代のミドルレンジGPU「GeForce 7600 GS」を実装したAGP対応グラフィックスカードが複数のカードベンダーから発表されている。新しい製品が登場するたびに「これが最後」と思ってしまうこのカテゴリーであるが、GeForce 7600 GSが店頭に並んでまだ間もないというのに、GeForce 7600GTを搭載したAGP対応のグラフィックスカードがLeadtekから登場した。「GS」でなく「GT」である。
GeForce 7600GTは今年登場した最新のNVIDIA製ミドルレンジGPUの上位モデルだ。スペックを並べてみるとGeForce 7600 GSはその下位モデルという位置付けになる。GeForce 7600 GSはコアクロックが定格で400MHzにメモリクロックが400MHz、データ転送レートで800Mbps相当となっている。複数のグラフィックスカードベンダーからこのGPUを搭載したAGP対応製品が登場しているが、その中のいくつかはメモリクロックを上げた状態で出荷されている。
一方のGeForce 7600 GTのスペックはコアクロックが560MHz、メモリクロックが700MHz、データ転送レートで1.4Gbps相当となる。最新のミドルレンジGPUだけあってクロックだけを見るならば、その前の世代のハイエンドGPUであるGeForce 7800 GTX(コアクロック430MHz、メモリクロック600MHz、データ転送レートで1.2Gbps相当)に負けていない。
GeForce 7600 GTとGeForce 7600 GSのバーテックスシェーダユニット、ピクセルパイプラインの本数を比較すると、どちらもそれぞれ5ユニットに12本となる。内部の構成は同じであるものの動作クロックが異なる分だけそのパフォーマンスに差が出てくる。以前、PCI Express X16対応のGeForce 7600 GS搭載グフィックスカードのレビューを掲載しているが、GeForce 6800 GS、RADEON X1600XTと比較したそのパフォーマンスは「2万円を切る」価格に相当するものであった。
現在、NVIDIA製GPUでAGP対応の製品に実装されている最新のハイエンドモデルは「GeForce 7800 GS」になる。ほかにAGP対応のハイエンドGPUには同じNVIDIAのGeForce 6800 UltraにATIのRADEON X850XT Platinum Editionがある。どちらも旧世代のGPUでさすがに搭載するグラフィックスカードは店頭でも見なくなっているが、そのパフォーマンスは世代が新しいGeForce 7800 GSを上回る。AGP対応のGeForce 7600 GSでも、そのスペックとPCI Express X16対応カードでおこなった検証の結果から考えるに、その立場は「コストに見合ったパフォーマンスを発揮する」エントリークラスのグラフィックスカードといえるだろう。
さて、そこで登場するのが今回の主役たるGeForce 7600 GTのAGP対応製品だ。この記事で取り上げるLeadtekの「WinFast A7600GT TDH」(以下 A7600GT)以外にもいくつか製品がリリースされる予定だで、その実売価格は2万円台の半ばから3万円前後と先に紹介したGeForce 7800 GSをはじめとするAGP版ハイエンドカードより低い、まさにミドルレンジ価格の設定となっている。A7600GTのスペックは対応バスがAGPで、NVIDIA SLI用のブリッジチップコネクタがないほかは、PCI Express X16対応のGeForce 7600 GT搭載カード「WinFast PX7600GT TDH 256MB」と同じである。動作クロックもコアクロック560MHz、メモリクロック700MHz(データ転送レートで1.4Gbps相当)となる。
GeForce 7600 GT | GeForce 7600 GS | GeForce 6800 Ultra | RADEON X850XT PE | |
コアクロック | 560MHz | 400MHz | 400MHz | 540MHz |
メモリデータレート | 1.40Gbps | 800Mbps | 1.1Gbps | 1.18Gbps |
VertexShader | 5 | 5 | 6 | 6 |
Pixcel Shader | 12 | 12 | 16 | 16 |
メモリバス幅 | 128ビット | 128ビット | 256ビット | 256ビット |
演算ユニットの構成も価格もパフォーマンスもエントリークラスのGeForce 7600 GSと同じであるが、その動作クロックはハイエンドカードを上回る。ゆえに性能は期待できる。この記事で検証した結果を見ると、GeForce 7600 GTはGeForce 6800 GSを軽く上回り、RADEON X1600XTを凌駕している。こういう結果を見ていると、価格はミドルレンジながら、そのパフォーマンスは旧世代のハイエンドGPUを超えてくれるのではないかと期待してしまう。
今回のパフォーマンスの検証は、価格的にはミドルレンジクラスのGPUをあえてハイエンドクラスのRADEON X850XT Platinum Edition(以下 RADOEN X850XT PE)とGeForce 6800 Ultraと比較している。検証用のシステムは、AGP対応のグラフィックスカードを組み込むために旧式ではあるがPentium 4/3.20E GHzとIntel 865PEを基幹とした構成としている。なお、A7600GTに適用したForceWareは評価機に添付されていた「91.32」を使用した。
ベンチマークシステム環境 | |
CPU | Pentium 4/3.20E GHz |
マザーボード | MSI 865PE Neo-P |
メモリ | PC3200 256MB×2ch |
HDD | ST3160023AS |
OS | Windows XP Professional +SP2 |
残念ながら、AGP対応GPUの最高峰であるRADEON X850XT PEを完全に上回ることはできなかったが、それでも匹敵する結果をGeForce 7600 GTは出している。GeForce 6800 Ultraに対しては完全に超えたといっていい。もっとも、こちらやこちらを見て分かるように、RADEON X850XT PEもGeForce 6800 UltraもAGP対応カードはすでに店頭から姿を消している。いま入手できるのは、そのワンランク下のGeForce 6800GT AGPやRADEON X800XT AGP、そして、RADEON X850XT PEにもGeForce 6800 UltraにもかなわなかったGeForce 7800 GSだ。
こういう状況を考えると、現在におけるAGP対応グラフィックスカードの最高峰はこの実売価格2万5000円程度のGeForce 7600 GT搭載カードとなるだろう。しかも、処理能力だけでなくPureVideoによるHDTV出力、高画質化機能、HDムービーデコードのハードウェアアクセラレーション、デュアルリンクDVI出力といった画像出力に関連した新しい機能を実装していることは、重要度が増しているコンテンツプレーヤーとしてAGPマザーを組み込んだPCが延命できることを意味する。
その機能と性能、そして価格を比べるとき、GPUベンダーのブランドに対する思い入れを除外するならば、AGPマザーにおけるグラフィックスカードのアップグレードにおいてGeForce 7600 GT、もしくはGeForce 7600 GS以外の選択肢は意味がなくなったといってしまってもいい。性能を重視するならGeForce 7600 GT搭載カードを、コストを重視するならGeForce 7600 GS搭載カードを選択すればユーザーの要求にほぼ応えられる。これまで何度も「これが最後のAGP対応グラフィックスカード」といってきたが、そろそろこの台詞が本当になるのではないだろうか。
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