前ページまでは前モデルのLiDE 500FVと絡めつつ、LiDE 600Fのフィルムスキャン機能を述べた。肝心の画質はというと、ことフィルムスキャンではダイナミックレンジが狭いのか、シャドーが潰れがちなのが気になる。率直に言えば、どうにかフィルムスキャン対応機としての体裁が整ったという印象で、フィルムメインの層に強く勧められる仕様ではない。それでも、CISスキャナでも、ここまでできるのかという驚きはある。とくに、6コマ対応のFAUユニット(バックライト移動式とはいえ)でも別途電源を必要せず、USBバスパワーだけで完璧に動作させた点は、さすがはキヤノンと言うべきだろう。
次はドキュメントスキャナとしての機能を見ていこう。もっとも、LiDEシリーズは従来よりドキュメント周りの機能が充実している。中でもPDF作成機能などは、マルチページから傾き補正、検索用テキストの付加、ページの追加・入れ替え、ファイルサイズの高圧縮化など、多彩な機能を搭載しており、既に完成の域に達している感がある。強いて言えば、処理面における改善により、マルチページPDF作成時のトータルタイムを短縮したことくらいだろうか。
注目はPDFボタンの構成だ。前モデルは1ボタンのみだったが、今回は「カラー原稿」「モノクロ原稿」「お気に入り」「終了」の4ボタンを用意している。前3ボタンを押せば、付属のCanoScan Toolboxが起動してスキャンが開始される。スキャンが終了するとダイヤログが表示されるので、まだページがある場合には同じボタンを、終了ならば終了ボタンを押せば、PDFファイルとして保存される。スキャナ側だけで作業を進められるので、PCとスキャナが離れていても原稿を入れ替えるたびに席を立つ必要がない。強いて言えば、カラーとモノクロの混在が可能であれば、なおよかったように思う。また、PDFボタンのほかにも、「COPY」「PHOTO/FILM」(従来はSCAN)「E-MAIL」など、従来からのファンクションボタンも別に用意されている。もちろん、各ボタンは、対応するアクションやスキャン設定などのカスタマイズが可能だ。
PDF以外(PDF作成時も有効)の機能では、とじ部影補正機能が面白い。これは雑誌や書籍をスキャンした場合、「とじ」の部分に生じる影を検出・補正する機能だ。とくにCISだと被写界深度の問題から、影の発生が顕著となるので、この機能は意外と重宝する。加えて、原稿の向きを自動的に検知して補正してくれたり(文字原稿のみ)、裏写りを低減してくれる新機能(PDF/JPEG作成時)も見逃せないところだ。
ボディデザインは好評を博したLiDE 500FVのフォルムとギミックを踏襲している。サイズこそ409(横幅)×286(奥行き)×43(高さ)ミリと前モデルより一回りほど大きくなり、重量も約2キロから約2.6キロに増えたが、十分にコンパクトと言える。もちろん、折りたたみスタンドによる立て置きスキャンは本機でも健在で、原稿を落とし込んでカバーを閉じるだけでスキャンが可能だ。しかも、LiDE 600Fの原稿台は、この特性を活かすべく、上方にあたる部分(縦置き時)の枠を排除(ガラスの強化により実現)しており、従来よりも原稿が落としやすく/取り出しやすくなった。前述のPDFボタンの増加とあわせて、細かな改良が光る。
全体を見るに、やはりドキュメントスキャナとしての使い勝手のよさが際立つ。店頭の実売価格は2万円前後と手ごろで、フィルムスキャン機能も拡充したが、スタンスとしては、これまでのLiDE Fスキャナと変わりない。LiDE Fの特徴をより伸張した製品と捉えれば間違いはないだろう。
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