第4回:ダミーツールが販売店を滅ぼすPC周辺機器売場の歩き方

» 2006年10月10日 17時00分 公開
[後藤重治,ITmedia]

リアル店舗における場所取りの戦略

各メーカーのロゴ入りシート。布製のシートを用意しているメーカーもあればカラーコピーをラミネートしただけのメーカーもある。店頭の棚の場所取りのほか、コーナー設営用の簡易ツールとしても重宝される

 連載第1回で紹介したように、「棚割」という仕組みを用いて売場をガッチリと押さえてしまう戦術は、PC周辺機器メーカー、とくにアクセサリ系メーカーにとって非常に重要である。ひとつの棚を自社専用にしてしまえば、自社製品の販売が有利になるように売り場をコントロールでき、他社製品の進出を強力に阻止できる。これは何もPC周辺機器メーカーに限った話ではない。小売に依存するメーカーであればどこも同じことを考えているだろう。

 ただ、これはある一定数の品ぞろえを有するメーカーだけに許される手法であって、いくつものメーカーが群雄割拠している状態では、この方法を行うのは困難だ。棚をまるごと押さえられない場合は、バイヤーが売場担当者に製品を売り込み、ライバルより有利な販売スペースの確保を目指す。うまく確保できたらそこから製品をテコでも動かせない施策を取る必要がある。

「テコでも動かさない施策」とは何か。フックであればプライスシートを貼り付けたり、フックの奥に欠品札をかけたりして、そのスペースが「予約済み」であることを明示するのはこの「施策」の1つだ。こうすれば競合他社がその場所に手を出しにくくなり、一時的に品切れが発生しても、確保した売場を他社製品に奪われる可能性は低くなる。店舗の改装などで棚割そのものが見直されない限り、長期間にわたって継続的な効果が見込める。

 もし、棚を一段まるごと確保できたら、プライスシートや欠品札といった製品ごとのツールではなく、メーカーの社名ロゴが入ったシートを棚に敷き詰めてしまう手法が使える。面白いことに、「著名なPC周辺機器メーカー」のシンボルカラーはそれぞれ「赤」「青」「黄」とうまい具合にバラバラなので、それらのカラーを使ったメーカーロゴ入りシートを敷くことで、さながら自社製品の専用棚と呼べるスペースができあがるというわけだ。

 このメーカーロゴ入りシート、もともとはプリンタメーカーなどが製品展示で用いていた手法だが、いまではPC周辺機器メーカーやアクセサリメーカーの多くがこれをまねて、独自のロゴ入りシートを用意している。販売店によっては、メーカーごとの棚の占有率が一目瞭然になるほど、棚という棚にシートが貼られていることも少なくない。

 余談だが、このロゴ入りシートを用いた「場所取り」は視覚的に分かりやすいこともあり、店舗をお忍びで視察に訪れるメーカーの経営陣、要するに営業マンの上長にあたる人々に対してもウケがいい。こうしたコーナーが多ければ多いほど営業マンの評価につながるため、現場では手っ取り早い営業活動の証として重宝されている節もあったりする。

製品を温存してダミーカードや空パッケージを動員せよ

各メーカーが用意している製品のダミーカード。メモリカードやUSBメモリを中心に、最近ではPCラックやHDDといった大型製品でも用意されていることが多い

 メーカーロゴ入りシートで棚をまるごと確保する手法とは別に、ダミーの製品カードや空パッケージで場所を取りする手法も、近頃はどの量販店でもよく見られるようになってきた。店頭の棚に製品現物を陳列すると、それだけで万引きのターゲットになりかねない。PC周辺機器は単価が高く、かつ粗利率が低いこともあり、万引きによって店舗が受けるダメージは小さくない。メモリカードやUSBメモリといった梱包サイズが小さい製品でこうした問題はとくに深刻だ。

 そこで、ダミーの製品カードや空パッケージを置いておき、購入者にはそれをレジまで持って行ってもらおうとする手法が編み出された。在庫はレジ奥、もしくは倉庫に置いて、リクエストがあれば出してくるという寸法だ。販売店にとって在庫コストを抑えながら展示のボリュームを出せるし、メーカーにしても棚の場所取りも兼ねられるので、「一見すると」この手法に悪いことは何もない。

 最近では、こうしたダミーカードや空パッケージの展示を見越して、本物のパッケージはほとんど無地というメーカーもなくはない。また、ミラーリングタイプの大型HDDや、PCデスクやイスといった梱包サイズが大きい製品は、現物を店頭に置くことを最初から想定せず、ダミーカードで展示例だけを販売店に提案するメーカーも増えている。

ダミーカードが販売店を滅ぼす?

 しかし、こうしたダミーカードや空パッケージ展示の浸透は販売店にとって諸刃の剣でもある。

 最近では、ニュースWebサイトのレビューや掲示板、ブログといった口コミ情報を通じて、製品について店員以上に消費者が詳しく知っていることは珍しくない。にもかかわらず、消費者がわざわざ店頭に足を運んで製品を購入するのは、「製品を自分で確かめて購入したい」という欲求があるからだ。「いますぐ欲しい」「価格を知りたい」という理由もあるだろうが、やはり通販と比較した場合の最大のメリットは、自分の目で見て、自分の手で触って(もしくは使って)製品を確認できることだ。

 しかし、販売店で、製品はもちろんパッケージすら店頭になく、あるのはダミーカードだけというのであれば、消費者が足を運ぶメリットはなくなってしまう。もちろんダミーカードにもパッケージと同等の説明文やキャッチコピーが並んでいるが、そうした情報はWebでも入手できる。サイズや重量といった体感できる情報が、販売店の売り場からどんどん減っているのが現状なのだ。

 今はまだ「販売店に足を運べば、製品を実際に見ることができる」という思い込みが消費者側にある。それで販売店が救われているが、売れ筋以外の製品がすべてダミーカードに置換される時代は確実に近づいている。販売店もメーカーも、ダミーカードが製品単体の展示スペースを削減することで棚面積あたりの販売機会が増大すると考えている節があるが、本当にそうだろうか。十数年後に、販売店の価値を相対的に引き下げた一因だったとして語られる可能性もなくはない。

 「ロングテール」という言葉とともに広く知られるようになった「パレードの法則」では売り上げ上位少数品目が全体の売り上げの大部分を占めるようになっている。この傾向が強まるに従って、販売店のプロモーションは売れ筋製品(ロングテールでいうところの“ヘッド”)に特化せざるを得なくなり、それ以外のニッチ製品(同じくテールに属する部分)の情報を店頭で入手するのは困難になっている。ダミーカードとともにモックやデモ機材が用意されていれば話は別だが、すべての取扱製品に用意できるメーカーはない。現在の店頭プロモーションをメーカー側に大きく依存している状況において、人員の問題やひとつのモデルが持つ商品としての寿命が短いことを考えると、複数の販売店で同時多発的に体験デモやイベントを行うことは不可能だからだ。

 こうした動きを反映しているのが「メーカーの直営店舗とショウルームの台頭」「有力店舗に対する応援販売の実施」である。今回は字数も尽きたので、この話はまた今度お届けしたい。

後藤重治氏のプロフィール

大手PC周辺機器メーカーでマーケティングや販促・広報を担当したのちフリーに。現在は製品レビュー記事の執筆のほか、メーカーに対するコンサルティングを手掛ける。買い物をすると商品と同じくらい販促物やPOPに目がいってしまうのは完全に職業病。なんとかしたい。


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