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インタビュー
» 2006年11月15日 09時45分 公開

898グラムに秘めた思い:“現在持てる全ての技術をつぎ込んだ”――ソニー「VAIO type G」開発者は語る (2/4)

[前橋豪,ITmedia]

軽さと薄さ、そして強さも追求

――今回は軽さ、薄さ、スタミナ、堅牢性とかなり極限まで突き詰めた設計をされていますが、かなり開発は難しかったのではないですか?

林氏:薄く、軽く作るということは我々が以前から自信のある分野で、いままでもやってきたことです。それを維持しながら、今回「強い」という点にフォーカスして設計しました。軽さ、薄さ、強さのバランスをどこに置くかに非常に苦労しましたし、設計のうえでもすごく苦労しましたね。

――軽さ、強さ、スタミナなどの数値的な獲得目標は当初からあったのでしょうか?

林氏:一番最初にあった目標は「重量」ですね。やる以上は、現存する製品で世界最軽量、それも「圧倒的世界最軽量」を狙いました。ソニーはもともとモバイル機器に強い会社で、PCでも「モバイル」を売りにしてきたのですが、ここでもう一度モバイルだったらソニーというのを実現したかったのです。そのためには軽さでダントツの製品を作る必要がありました。そこで軽さといっても、ほかを犠牲にしての軽さ、「いびつな軽さ」では意味がなかったので、何も妥協せずに軽さを実現したいという思いがありました。

――ACアダプタについては非常に小型のものを使われていますね。

林氏:はい。今回は頑張りました。いままでも頑張ってましたが(笑)。実際の使い勝手を考えたら、本体だけ小型軽量にしても十分ではないので、ACアダプタもこのようなデザインにしました。

11月1日の発表会では、VAIO事業本部の石田佳久本部長がクラス世界最軽量となる約898グラムの軽量ボディをアピールした(写真=左)。ACアダプタはサイズが36(幅)×83.2(奥行き)×25.5(高さ)ミリ、重量が約170グラムと小型軽量だ。ACケーブルいらずで電源コンセントに直接装着できるウォールマウントプラグアダプタも付属する(写真=右)

――今回フォーカスした「強さ」の点ですが、強度を高めるポイントとして特に工夫されている部分は?

林氏:VAIOで最近使い出しているマルチレイヤーカーボン(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastic)を天板と底面という外装の2面に持ってくることで、高い剛性を確保しています。マルチレイヤーカーボンの厚さは0.6ミリで、剛性と軽さのバランスで決めました。さらにその中にいろいろな仕組みを作ることで全体的な堅牢性を高めているのですが、やはりカーボンの採用がいちばん大きいです。

――カーボンは他社があまり使わない素材ですが、なぜ積極的に使っているのでしょうか?

林氏:カーボンを他社が使わない理由として考えられる点ですが、1つは技術的に電子機器の筐体に使うような成形をするのが非常に難しいということがあります。PCへのカーボンの採用は、我々が東レ株式会社さんと共同で立ち上げ、研究開発を長年行った結果、現在のような成形が可能になった経緯があり、他社さんがカーボンを採用したものを作るとしたらそんなに簡単にはいかないかもしれませんね。もう1つは、マルチレイヤーカーボンが高価な材料であるということです。

左がVAIO type Gの底面、右がVAIO type Tの底面(右)。VAIO type Gでは、電波漏れや安全規格を守るために貼られていた金属のシールドが不要になり、底面パーツの重量は約20グラム減の70グラムに軽量化された

――パームレストの部分はマルチレイヤーカーボンではなく、カーボンモールドになっていますね。

林氏:はい。これはカーボン繊維を練り込んで補強した樹脂になります。割合で約10パーセントのカーボン繊維が入っています。CFRPのほうが頑丈なのですが、細かい形成が難しいのです。ですが、カーボンモールドでも普通のABS樹脂に比べて約4倍の強度があります。今回はこれにより、VAIO初のカーボン素材を3面に採用する、ということを実現しました。

――堅牢性については、品質テストの結果をアピールされているのがVAIOとしては珍しいですね。

林氏:そうですね。従来からいろいろと品質テストをしてきましたが、今回はこれまで以上に強化しています。素材の面でも、505でのマグネシウム合金の採用に始まり、VAIO type TXのカーボンまで、強い素材を採用してきました。素材や構造には従来からこだわってきて自信があったのですが、そうした強さの部分がうまくお客様に伝わっていない部分がありました。そこを分かりやすくするための評価、お客様に理解が得られるような評価を考慮しました。

花里氏:いままであまり声を大にして言わなくていいと思っていたようなことを、今回はちゃんとやっていることは表に出そう、と意識を変えました。しかも、品質テストにおいては、実際のビジネスシーンを想定したシナリオを作っています。たとえば、持ち歩いているときやデスクの高さを想定した落下試験がそうです。

林氏:今回は落下試験で動作時72センチ、非動作時90センチをうたっています。72センチというのは一般的なデスクの高さ、90センチというのは平均身長の日本人がノートPCを抱えて移動しているときの高さを想定したものです。つまり、これらの数字は作ってみたら、たまたまこうなったという値ではなく、実際にどのようなシーンで利用するかを考えて、最初に目標を設定してからテストしています。後付けの設定ではないわけです。

デスクで使用している状態を想定し、動作状態で72センチの高さから落下させるテスト(写真=左)。非動作状態で90センチの高さから落下されるテスト(写真=中央)。底面や側面など、6方向に対して瞬間的に衝撃を加えて、動作を確認する衝撃テスト(写真=右)

花里氏:こうしたところのモノ作りの考え方が、いままでのVAIOとちょっと違う部分ですね。

――LEDバックライトを使用した液晶ディスプレイ部分は非常に薄くて、実際触ると弱そうですが、これが頑丈というので驚きです。

林氏:加圧振動試験で耐荷重120kgfという値をクリアしていますので、強度に関しては問題ありません。やはり薄く作っているので、しなることはあるのですが、そういった使ううえでの強度は、設計上でも評価上でも自信を持っています。

本体の天板に120kgfの圧力を加える平面加圧振動試験。満員電車やトラックの荷台を想定した振動を与えて、動作を確認する(写真=左)。本体1部分に、手のひらサイズで20kgf、親指サイズで7kgfの圧力を連続して加える一点加圧試験(写真=中央)。本体隅の3カ所を固定したまま、1カ所に圧力を加えて状態を確認する本体ひねり試験(写真=右)

――他社のノートPCで堅牢と評価されている製品は、Let's noteにしてもThinkPadにしてもある程度の厚さがあり、ボディが肉厚なイメージです。個人的には、こうしたビジュアル面からもユーザーに堅牢なイメージを認知させるのに成功していると考えています。VAIO type Gのように、薄く作りすぎてしまうと実際は堅牢でも弱そうに見えてしまうデメリットがあって惜しいと思うのですが。

林氏:我々としては、ボディに余計な突起があるようなデザインは、見た目と使いやすさの両面からしたくない思いがあり、薄くてフルフラットの美しいボディを作りました。とはいえ、確かに薄くて繊細なデザインを施すと、中身も繊細なのではないかと思われることもあるでしょう。そこで、今回は目に見える形、数字で見える品質テスト結果として、堅牢性を訴えることにしたわけです。

――品質テストの結果を公開するのは、ソニーでは非常に珍しいと思いますが、今後はコンシューマのモバイルノートPCでも積極的に数値を公開していくのでしょうか?

花里氏:ビジネスモデルでは堅牢性のニーズが非常に高いので、このような数値を公開しました。今後のコンシューマのモデルに関して数値を公表するかは未定です。

2スピンドルモデルVGN-G1KAP(写真=左)と、1スピンドルモデルVGN-G1LAP(写真=右)の内部構造。マザーボードは10層で、実装密度が高い。底面の衝撃が直接基板に伝わらないように、ヒートシンクを固定するパーツを底面から分離している。左上にCPUとチップセット、左下にHDDを配置している
1.8インチHDDを内蔵。ノートPCで一般的な2.5インチHDDと比較して、性能面と容量では不利だが、耐衝撃性や消費電力では有利になる。HDDの四隅は厚みのある緩衝材で保護されている(写真=左)。内蔵の3軸加速度センサーで本体の落下などを感知し、HDDの磁気ヘッドを退避させるVAIOハードディスクプロテクション機能も搭載(写真=右)

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