――ボディのデザインはかなり落ち着いていて、カーボン素材を前面に押し出すようなイメージにしていませんね。
林氏:海外のビジネスPC市場では、VAIO type TやVAIO type Sがかなり売れていて非常に人気があるのですが、なぜか日本ではこうしたコンシューマで投入したモデルをビジネス向けに展開しても同じようには行きません。それを色々と考えた結果、ソニーのコンシューマ向けの顔ではビジネス市場になかなか受け入れてもらえないため、ビジネス市場のほうを真正面から向いて製品展開するには、デザインもそれ相応にしなくてはならない、という結論に至りました。そこで、我々のいままでのデザインの手法では駄目だ、という点をデザイナーと意思統一し、それではビジネスでお客様に使ってもらえるためのデザインは何だろう、というところから始めたのです。いままでのVAIOは存在感のあるデザイン、ある種、置いておくだけでも目立つようなデザインを目指してきたのですが、今回はビジネス向けということで、あくまで主役はお客様で、VAIOは脇役と考えています。
花里氏:これはソニーと調査会社でリサーチした結果ですが、お客様は業務で使うPCに変化を求めていません。目立つことを求めていないのです。まずはそれを謙虚に受け止めています。あと、4〜5年間は同じPCを使うというデータがあるので、シンプルで何年使っても飽きないということを念頭におきました。だから、我々がデザイナーに要求したのは、「5年間使っても飽きないデザインにしてくれ」ということです。多分、使用していくうちに何度も本体をご覧になるかと思いますが、その度にこれはいいな、と思っていただけるかな、と手前味噌ながら思います(笑)。使っていくうちに段々、愛着がわくデザインです。
林氏:もちろん、単に地味に作っているわけではありません。B to Bモデルということで、営業の方がお客様のところでノートPCを広げた場合、お客様から見える天板と背面が「顔」になるわけです。天板をも美しくフラットに作りたい、そして液晶を閉じても、背面に端子類がゴツゴツ並ばないようにしたい、つまり後ろ側もきれいに見せたいと考えたデザインになっています。
花里氏:ビジネスの場合、エンドユーザーの好みを見ればいいだけでなく、管理者や購入の決定権を持つ方など、何人もの目線が入るので、そういったことを意識したデザインにしていますね。
――よく見ると、ボディに複数のカットが入った凝ったデザインになっていますね。
林氏:そうですね。VAIO type BXでは上から端子を見やすくするように下方向に斜めのカットを入れたデザインにしています。ただし、モバイルだとちょっと重いデザインになってしまうので、端子が見える上面と底面の両方から斜めにカットするようなデザインにしています。これにより、外に持ちだそうと思ってもすぐに筐体の下に手が入るし、視覚的にも軽く見えます。こうしてできた形をPOLYGONAL(多面体の)デザインと呼んでいます。我々が通常、薄型のノートPCを作るのにボディの設計とデザインを考えると、実際に薄く作ったうえで、見た目をさらに薄く見せようと、ボディの塗装をツートンカラーにすることがあります。そうすると実際薄くみえるのですが、今回は見た目の薄さにこだわらず、本質的なよさを理解していただくため、ツートンカラーをやめました。実際に薄いので、塗装などで無理して薄さを強調しなくても、問題ないということもありますが。
――角張ったデザインと強度の両立は難しいのではないですか?
林氏:もちろん強度も重視したデザインにしています。衝撃に弱い液晶ディスプレイ部分は、ボディ側面より少し奥に入っているので、側面から落下しても液晶ディスプレイ部分は直撃しません。今回採用したカーボンは硬さに加えて、弾力性もあるので、こうしたデザインにしても問題ないと考えています。
――超低電圧版CPUを搭載した小型軽量モバイルノートPCでは、静音性への配慮からファンレス構造が好きなユーザーも少なからずいます。VAIO type Gではファンを搭載しないという選択肢は考えませんでしたか?
林氏:冷却については、こだわりを持っています。ファンレスがよいというお客様は、静かで軽いからですよね。逆に、静かで軽いということを実現できるなら、絶対にファンが付いていたほうがよいと考えています。ファンレス構造の場合、高負荷をかけ続けるとスロットリングで対処するしかないと、実験から分かっています。筐体の温度に関しても、ファンレス構造では高温になりやすく、社内の設計基準をクリアできません。VAIO type Gはファンを搭載することで、常にフルパワーで熱くならずに使えるという利点があります。それでも、オフィスで一般的なアプリケーションを使い続けても非常に静かです。
――ファンの静音性を高める工夫は?
林氏:ベアリングより流体軸受けで静かなファンを使っています。ファン自体もそうですが、排気口とファンの位置関係についても改良しました。ファンを従来より奥に引っ込めて音が外に漏れにくい構造にしています。今回ヒートパイプではなく、グラファイトシートを用いたことは、ファンの軽量化に大きく貢献していますね。
――グラファイトシートの熱伝導性はヒートパイプと比べてどの程度なのでしょうか?
林氏:ヒートパイプのほうが熱の輸送量は多いのですが、重量あたりの効率で考えた場合、グラファイトシートのほうが有利です。軽く作るため、今回は採用しました。たとえば、VIAO type Sのような通常電圧版CPUを搭載した製品ではグラファイトシートでは放熱がまかなえないので、ヒートパイプを使っているのですが、今回のような超低電圧版CPUでしたらグラファイトシートでも放熱が十分可能なのです。
――実際に使ってみると、ファンは耳障りな音はしませんが、負荷を与えない状態でも結構回転するように思います。これは放熱を重視したファンコントロールを行っているのでしょうか?
林氏:そうですね。筐体に熱がこもるのはユーザーにとって非常にストレスになるので、しっかり冷やすことを考えています。静音性をさらに重視したい方は、省電力ユーティリティーで静音性を優先する設定にすればよいと思います。
――VAIO type Gで選択できる最上位グレードのCPUはCore Solo U1400となっていますが、今後、超低電圧版CPUのクロックも上がり、TDPも微増していくと考えられます。現状で放熱設計の余裕はどの程度あるのでしょうか?
林氏:他社がファンレス構造を採用している中で、ファンを積極的に搭載していることからも、放熱設計の余裕はかなりあります。現状の設計では、Core Duoを搭載するのは困難ですが、ある程度の容量がある放熱機構は備えています。
――バッテリーが後方に飛び出さないデザインにしていますね。
花里氏:これも企画意図からですが、カバンに入れる場合、ボディに出っ張りがあると、カバンの中の書類などに引っかかるという声がありました。そこで、とにかくフラットで突起などがないものを作りました。
林氏:小さく、薄くしつつ、バッテリー駆動時間を長くするために、後ろにバッテリーがはみ出すのはきれいではないと思います。いままでのモデルではバッテリーが底面に少し出ているデザインもあったのですが、今回はフルフラットに薄く作りたかったのでやめました。背面の厚さはバッテリーのサイズによって決まったもので、このバッテリーを搭載した場合、どこまで薄く作れるかを追求した結果、このスタイルになったのです。
――バッテリーを満充電させないことで充放電回数の延長を実現する「バッテリいたわりモード」では、2段階に充電容量を選べるのがユニークですね。
林氏:80パーセント/50パーセントの充電容量という値は検証の結果出しています。バッテリーの劣化に対しては非常に有効な機能だと考えています。
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