では、実際のパフォーマンスを検証してみよう。木造3階建ての筆者宅1階にアクセスポイントを設置し、1階の同一フロアと3階でFTPによる速度を計測したのが以下の表とグラフだ。結果を分かりやすくするためにGETの値のみグラフ化している。1階は、障害物なしでThinkPadとアクセスポイントが約2メートル離れた状態でテストした。3階は、1階から床が2枚とドアが1枚間に入った状態でのテストとなる。
チップの違いを検証するため、アクセスポイントには先に紹介した3つの無線LANルータを無線LANカード(PCカードタイプ)とのセットモデルで用意した。つまり、Atheros製チップの「Aterm WR8200Nワイヤレスカードセット」(NECアクセステクニカ)、Broadcom製チップの「WZR-G144N/P」(バッファロー)、Airgo製チップを搭載した「CG-WLBARGMH-P」(コレガ)だ。比較用として、インテルのIEEE802.11a/g/b無線LANチップ(Intel PRO/Wireless 3945ABG)を搭載したThinkPad Z61tの値と、各無線LANルータに付属する無線LANカードを使用した場合の値も掲載している。
MIMO対応ThinkPadの無線LAN接続テスト(単位はMbps) | |||||
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無線LANルータ | クライアント | 1階GET | 1階PUT | 3階GET | 3階PUT |
Aterm WR8200N | 付属カード | 53.2 | 51.2 | 35.2 | 24.2 |
ThinkPad Z61t | 18.9 | 15.8 | 14.1 | 12.9 | |
ThinkPad T60 | 52.4 | 53.6 | 29.3 | 21.9 | |
ThinkPad X60s | 53.2 | 59.0 | 31.8 | 20.3 | |
WZR-G144N | 付属カード | 52.8 | 60.9 | 28.2 | 40.6 |
ThinkPad Z61t | 25.0 | 22.7 | 11.0 | 16.7 | |
ThinkPad T60 | 62.9 | 63.5 | 27.7 | 22.0 | |
ThinkPad X60s | 61.9 | 58.5 | 26.4 | 26.8 | |
CG-WLBARGMH | 付属カード | 53.2 | 57.2 | 20.2 | 32.0 |
ThinkPad Z61t | 19.9 | 15.5 | 9.0 | 13.3 | |
ThinkPad X60s | 19.7 | 21.6 | 11.6 | 11.3 | |
ThinkPad T60 | 18.8 | 21.3 | 13.1 | 12.3 | |
結果を見ると、MIMO対応ThinkPadの実力はなかなかのものと言えそうだ。規格上の違いから54Mbpsでしか接続できなかったコレガのCG-WLBARGMHを除いて、ほかの2製品ではアクセスポイントに付属する無線LANカードとほぼ同等、場合によってはそれより良好な値を記録することができた。おそらくMini PCI Express接続である点や、PCカードタイプに比べてアンテナの配置が理想的な点などが、パフォーマンスを引き出す結果となっていると考えられる。
筆者宅3階における長距離でのテスト結果も良好で、同一ベンダーのチップが採用されたAterm WR8200Nの場合は3階で30Mbps以上、BroadcomチップのWZR-G144Nでも25Mbps以上の実行速度で通信できている。近距離の速度が50Mbps以上あることを考えると、速度の落ち込み方が大きいように感じるが、従来のIEEE802.11gなどと比べるとはるかに安定しているうえ、高速で通信できている。障害物のある環境に強いという特性がよく表れている印象だ。
ただし、無線LANのテストは環境に大きく左右されるため、あくまでも参考程度に考えてほしい。内蔵されるアンテナの本数による違いも、今回のテストではあまり顕著に表れなかったが(どちらかというとアンテナ2本のx60sの方が安定して通信できる場合もあった)、このあたりも環境によっては結果が変わる可能性もある。
このように、MIMO対応無線LAN搭載のThinkPadを検証してみたが、わざわざ無線LANカードを装着する手間が必要ないうえ、パフォーマンス的にも問題ないため、無線LANをメインに考えれば悪くない選択と言える。ただし、あくまでも現状のドラフト11nに対応した製品であることを考えると、正式版のIEEE802.11nが登場した場合、将来的な不安は皆無とは言えない。
IEEE802.11nは当初2007年に規格策定の予定だったが、2007年の年明けに予定されている会合で新しい提案がなされる可能性などもあり、規格の正式な承認は2008年になると予想されている。限りなく正式版に近い製品が登場するのは2007年末頃で、このあたりの製品であればファームウェアのアップデートなどで正式規格に対応可能だろうが、現段階の製品はフォームウェアのアップデートによる対応は難しい可能性が高い(仮に可能だとしても1年後の製品はかなり性能は高くなるはずだ)。ThinkPadの場合、詳細なメンテナンスマニュアルときちんとした部品共有が行われるため、後から内蔵の無線LANモジュールを交換してしまうことも不可能ではないだろうが、コストと手間は確実にかかる。
今回の検証からMIMO対応ThinkPadは、すでにドラフト11n対応のアクセスポイントを利用している場合、もしくは購入する予定があるというのであれば、外付けの無線LANカードを使うよりもはるかにスマートなので、購入を検討する価値は十分にある。ただし、そうでない場合は将来的なことも考えて慎重に選んだ方がよいだろう。もっとも、これは高速無線LANにフォーカスした製品選びであって、デュアルコアCPUを積極的に搭載したPCの基本スペックや、キーボードの使いやすさに代表されるユーザビリティ、セキュリティ面などに目を向ければ、ThinkPadの新ラインアップは魅力的と言える。
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