MP3やAACといった音声圧縮コーデックの普及は、日常的な音楽の聴きかたを大きく変えた。アルバム単位でメディアの交換を余儀なくされていたわずらわしさから解放され、数千曲を超える音楽ライブラリを個人が構築できるようになったのだ。
このような音楽ライブラリの代表的な用途は、構築したPC自身で再生すること、そして同期したポータブルオーディオプレーヤーで持ち出すことの2通りであった。ここで紹介するVGF-WA1は、せっかく構築した音楽ライブラリだからもっと活用しようという、生活の場にデジタルオーディオを持ち込もうというソニーの提案である。
VGF-WA1を一言で表せば、メディアサーバ上の音楽データを無線LAN経由で受信し再生する装置、ということになる。サーバとの接続は無線LAN(2.4GHz帯、IEEE802.11g/b互換)のみで、有線LANをサポートしない。また本機には、PC上で行う無線LANなどの設定を転送するためのUSBポートが用意されているが、このポートの用途も設定用に限られており、音楽データの受信には使わない(USB的にはオーディオデバイスではなくHIDデバイスに見える)。非常にコンセプトのハッキリした、潔い仕様の製品である。
もちろん無線LANにこだわった理由は、電波の届く限り、家中のどこにでも本機を持ち運んで、サーバに蓄積された音楽を楽しむためだ。このコンセプトを貫くため、本機は充電式バッテリーを本体に内蔵し、最大4時間の音楽再生ができる(充電は約3時間)。コンセントの利用できないベランダでバーベキューパーティー、なんてシチュエーションでも十分対応してくれるだろう。仮に電波が届かないとしても、本機は128Mバイトのメモリを内蔵しており、ここにダウンロードした音楽を再生することも可能だ。
本機のコンセプトに近い製品としては、アップルのAirTunesが挙げられる。しかし、AirTunesを用いて音楽を聴くには、AirTuensをサポートしたAirMac Expressベースステーションに加え、そのオーディオ出力を鳴らすためのアンプ内蔵スピーカーやステレオ、コントロール用のPC、そしてコンセント(AC電源)が必要になる。VGF-WA1の特徴は、本機だけで無線LAN経由の音楽再生機能が完結した、オールインワンのクライアントであることだ。
VGF-WA1で音楽を再生するには、対応したメディアサーバが必要になる。本機には、PC(Windows XP SP2もしくはWindows Vista搭載)をVGF-WA1のサーバに仕立てるためのソフトウェアとして、VAIO Media Integrated ServerとWindows Media Connectが添付されているほか、Windows Vistaに含まれるWindows Media Player 11を用いることもできる(複数併用可)。もちろんVAIO Media Integrated Serverは、ソニー製のPC以外にインストールして利用可能だ。
それぞれのメディアサーバソフトがサポートするファイル形式は、基本的にWindows Media ConnectおよびWindows Media Player 11がWMAとMP3、VAIO Media Integrated ServerがATRAC3/ATRAC3Plus、AAC、MP3に対応する。音楽配信サービスなどから入手したDRM付のファイルについては原則的に再生できないが、Windows Media Connect/Windows Media Player 11をサーバにした場合のみ、DRM付のWMAファイルの再生も可能だ(いずれにせよ、現時点で著作権保護されたAACやOpenMGファイルの再生には非対応だ)。
メディアサーバと本機の接続は、冒頭でも述べた通り、2.4GHz帯の無線LANを用いる。すでに無線LANアクセスポイントなどのインフラがある場合は、本機をそこに参加させればよい。必要な設定を行い、設定データをPCからVGF-WA1に転送する「おまかせ設定ツール」が添付されており、これに従うだけでメディアサーバソフトのインストールを含め、すべてやってくれる。
もし無線LANインフラがない場合は、メディアサーバソフトを稼働するPCに、本機に添付されているワイヤレスアダプタ(USB接続)を用いる。このワイヤレスアダプタも2.4GHz帯を利用するが、IEEE802.11g/bとは異なる独自形式だ。手軽さを優先したということなのだろう。
少々気になったのは、付属のCD-ROMから「おまかせ設定」を行い、ワイヤレスアダプタで本機を接続した以外の場合だ。ネットワークに詳しいユーザーならば自力で問題を解決できるだろうが、ファイアウォールの設定をはじめ、途中で接続方法をワイヤレスアダプタから手持ちのアクセスポイント経由に変更した場合や、すでにDLNAサーバーが動作している環境に本機を接続するケースでは思わぬトラブルが発生する可能性がありそうだ(ちなみに、本機は無線LANのSSIDを通知にしないとネットワークに接続できない)。
それでは、実際の使い勝手はどうなのかを見ていこう。
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