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» 2007年05月31日 05時05分 公開

元麻布春男のWatchTower:HDIは“UMPC”限定の技術ではない (1/2)

UMPCは“Menlow”によって「実用たる」性能を実現しようとしている。この新しいプラットフォームで注目される高密度実装技術は意外にも大画面ノートPCでも必要とされているのだ。

[元麻布春男,ITmedia]

 IDF 2007 SpringでIntelは、45ナノメートルプロセスルールによる6番めのプロセッサとして、「Silverthorne」という開発コード名で呼ばれる低消費電力CPUを2008年前半にも提供する予定であることを明らかにした。Silverthorneが想定するアプリケーションは、UMPCのようなインターネットに接続できる携帯機器(IntelではMID=Mobile Internet Deviceと呼んでいる)、Apple TVのような家電製品、さまざまな組み込み機器、発展途上国向けのローエンドPCなどだ。これらの機器では、低消費電力であるだけでなく低価格であることも求められる。

 この条件を満たすためにSilverthroneは、ダイ面積を小さく抑えると同時に、最新の製造プロセスで量産する道を選んだ。PC向けCPUより小さなL2キャッシュ(512Kバイト程度と推定される)しか持たないシングルコアのSilverthorneは、1枚の300ミリウエハから2500個採ることができるという。パッケージに収めても、1ペニー硬貨と比べられるような大きさでしかない。

 従来、この種の低価格製品向け汎用CPUは、メインストリーム向けの製品から1〜2世代遅れた製造プロセスを用いることが常だった。減価償却の進んだ製造装置を使って安く作る、というポリシーである。しかし、この方法では性能と消費電力の両面で妥協を強いられる。Silverthorneは、2〜3年前のメインストリームノートPCに匹敵する性能を実現しながら消費電力を1ワット程度に抑えることを目指す野心的な製品だ。消費電力を抑えられれば、ヒートシンクを小型にできる。それ自身が電力を消費し、かつ、騒音の発生源となる冷却ファンをなくすことも可能だ。

 このSilverthorneに、専用チップセット「Poulsbo」(開発コード名)チップセットを組み合わせたMID向けのプラットフォームを「Menlow」(開発コード名)と呼ぶ。モックアップを見る限り、MenlowベースのMIDは、従来のノートPCから大きく変化することが期待される。その大きさは小型のノートPCというより、W-ZERO3やEM・ONEといったハイエンドスマートフォン/PDAに近い。

 このサイズでフルPCを実現するのは、現行のCPUやチップセットを小型化するだけでは到底できない。小型化したうえでそれらを実装するプリント基板を高密度化し、基板そのものを小型化する必要がある。実際、Menlowのプリント基板はトランプより一回り大きい程度に過ぎない。もちろんプリント基板の小型化は、重量軽減にもつながる。

 こうした高密度実装技術はHDI(High Density Interconnect)とも呼ばれ、携帯電話などの分野ではすでに広く用いられている。Menlowのプリント基板やSilverthoneのパッケージがHDIに対応したものであることは言うまでもない。

 だがこうした実装技術は、これまでPCの分野において、必ずしも普及していたわけではない。ATXやBTXといったフォームファクタの標準に従うPCの世界では、コストアップの要因を増やしてまで基板を小型にする必要がなかったからだ。ノートPCにしても、売れ筋は14インチ〜15.4インチ液晶ディスプレイを採用した製品である。搭載する液晶ディスプレイの大きさがノートPCの基板の大きさのリミットとなるため、無理に基板を小さくする必要はなかった。PCでHDIを用いて基板を小型化するのは、小型軽量であることに世界で最も大きな付加価値を見出す日本の専売特許であった。

 こうした「常識」も、近い将来変わるかもしれない。その原動力の1つが、「PCを小型化したい」「フォームファクタを自由にしたい」というユーザーの要望である。先進国においてオフィスと個人の居室を制覇したPCがさらなる成長のチャンスを見込むとしたら、それはリビングルームだ。そして、リビングルームに溶け込むPCに、ATXやBTXは必ずしも最適ではない。

 PCのフォームファクタを自由にしてノイズの発生を抑えるには、基板を小型化するだけでなく冷却ファンのあり方も見直す必要がある。CPUの消費電力を抑えると同時にファンに代わる冷却デバイスを見つける必要がある。その一例と考えられるのが、ピエゾ素子(圧電素子)を用いた冷却デバイスだ。電圧を加えることで振動するピエゾ素子で空気をヒートシンクに送り込むことで、低騒音、長寿命な冷却システムを実現しようという狙いである。

 ただ、こうしたフォームファクタに対する要求は、新しい市場を拓くものではあっても、それほど切実なものではない。言い換えれば、新しいフォームファクタの実現が、必ずしもメインストリームPCの高密度実装を促すとは限らない。

 では、メインストリームPCに高密度実装は不要なのだろうか。これまではそうだったわけだが、今後、メインストリームPCといえども高密度実装は避けられない。このことを推し進める要因がPCやCPUそのものの高速化だ。

左からNapa、McCaslin、そして、Menlow。上に並ぶにはCPUで下に並ぶのがチップセット
トランプ並みのサイズとなるMenlowプラットフォームにはCPUのSilverthorne、とチップセットのPoulsboが実装される。画面の左下には1セント硬貨と並んだSilverthorneが見える

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