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» 2007年10月25日 11時55分 公開

林信行の「Leopard」に続く道 第4回:System 7で幕をあけた激動の1990年代(中編) (2/4)

[林信行,ITmedia]

書類中心パラダイムへの移行をめざした「OpenDoc」

 アップルの次世代コンピューティング環境の開発で、もう1つ無視できないのが「OpenDoc」の開発だ。もし当時これが広まっていれば、わたしたちとPCとのつきあい方は、大きく変わっていたかもしれない。

 今日のPCはアプリケーションを中心とした設計になっている。例えば出納帳をつける、例えばライバル製品の売り上げデータを元に市場分析をする、そんなときは表計算用アプリケーションのExcelを起動して、表とグラフを作成する。これをリポートにまとめようと思ったら、文書作成用アプリケーションのWordを立ち上げる、といった具合だ。

 ユーザーはどのアプリケーションに、どんな機能があるかを把握し、アプリケーションを切り替えながら作業する。そして、ある要素をその書類に盛り込みたくても、アプリケーションに該当する機能がなければあきらめるしかない。つまり、アプリケーションに縛られて作業をしなければならない。

 これに対してOpenDocが切り開こうとしていたのは文書中心のパラダイムだ。

 書類はすべてBENTO(弁当)というフォーマットの、特定アプリケーションに依存しない書類フォーマットで作成され、OSに搭載されたOpenDoc機能で開くことができる。

 書類に表組を挿入したければ、あらかじめ用意されている表組のパーツをドラッグ&ドロップするだけでいい。すると表組編集機能を持つパートエディタというコンポーネントが起動し、表組編集用のメニューやパレットが表示される。同じ場所をグラフ用のパートで差し替えてグラフ化することも可能だし、文書中にWebページやFTPサイトを埋め込んだり、3Dデータを埋め込むこともできる。

 中にはこれまでの誰も考えつかなかったような新しいタイプのデータ/パートエディタを開発する人がいるかもしれない。そうしたパートが埋め込まれている書類を開くと、その部分だけ「?」が表示される。このような場合は、OpenDocのパートを販売するWebサイトを通して、パートの中身を表示するパートビューアを無料でダウンロードしたり、編集作業も行えるパートエディタを購入することができるのだ。

 アプリケーション中心の世界から、より機能を絞り込んだコンポーネント(=パート)中心の世界に移行することは、ソフトウェア産業にも大きな変化をもたらすはずだった。

 1990年代は機能競争の時代で、PCのパッケージソフトは数百の機能を持つ大型ソフトしか売れない時代でもあった。例えばある会社が、ほかの誰にも負けないスペルチェック機能を開発しても、それだけでは勝負ができなかった(それにたいていのワープロソフトにはスペルチェック機能が最初から搭載されていた)。

 しかし、使いもしない大量の機能を抱き合わせ販売させられるよりも、例えばPhotoshopの欲しい編集機能だけを分割で購入できたほうがユーザーはうれしいはずだ――それがアップルの主張だった。

 OpenDocは、アップルだけの技術ではなかった。IBMをはじめとするほかの会社も標準化に参加しており、ノベルがWindows版のOpenDocも開発していた。OpenDocで作成した書類であれば、OSにも持っているソフトにも関係なく書類の交換が可能だった。

 また、作業スタイルもOSに関係なく共通なので、OpenDocが広まることはWindows NTからMac OS、Mac OSからTaligentといったOS間の移行を活性化するという目論みもアップルにはあったようだ。

 しかし、アップルがネクストを買収し、Mac OS X開発に乗り出した時点で、OpenDocの開発は打ち切りになってしまった。

関連キーワード

Cyberdog、CI Labs(Component Integration Laboratories)、Component 100、SOM(System Object Model)


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