歴史に残る重要な転換点だった「中華PC2007」山谷剛史の「アジアン・アイティー」(1/2 ページ)

» 2007年12月27日 15時00分 公開
[山谷剛史,ITmedia]
“女性向けPC”と銘打って発売された「SHE電脳」

 15年前の1992年に、聯想(その当時の英語名にはいささか不明な点があるため、ここではこのように表記させてもらう)が初の中国メーカー製のPC「1+1」をリリースした。このことから、中国では1992年が「中国PC元年」と一般に認識されている。間もなく終わろうとする2007年は、中国PC15年目という節目でもあったのだ。節目を迎えた中国PC事情は、いかように変わったのか、そして2008年に向かってどのように変わろうとしているのだろうか。扇動的な事件はなかったものの、確かに重要な転換期となった今年一年の中国PC業界の動きをまとめてみた。

“画一”から“個性”にシフトした中華PC

神舟が投入した中国PCメーカー初のディスプレイ一体型PC「唐朝」。値段も抑えられている

 2007年初めには中国でもWindows Vistaの発売が大きな話題だったが、「公式」なイベントの盛り上がりとは対照的に、一般市民に近いところでは、(海賊版が出現したにもかかわらず)非常に静かな立ち上がりとなった。2008年に開催される北京オリンピックでPCやプリンタなどの機材を提供するレノボの「大会用PCにはWindows XP搭載モデルを用意する」という発言は、中国おけるWindows Vistaの評価を如実に表している。書店のOS関連書籍のコーナーには、依然として、Windows VistaよりWindows XPに関する解説書が圧倒的に多い。

 ただし、Windows Vistaは意外なところで中国のPCユーザーに恩恵を与えている。Windows Vistaをきっかけにして全世界的にメモリの需要が高まったが、その後のWindows Vista搭載PCの失速とそれによる「メモリの供給過剰」による価格下落で、Windows XPが庶民の標準OSとなっている中国でも、メモリの価格が下落し、それにつられるようにほかのPCパーツの価格も急激に値下がりした。そのおかげで、中国庶民もPCパーツのアップグレードがしやすくなった。PCパーツの価格が中国の一般的なPCユーザーに優しい水準まで下がったというのが、2007年の自作PCに関する最大のトピックといえるだろう。

 メーカー製デスクトップPCでも大きな変化が起きた1年だった。これまでの中国PCメーカーの主力(売れ筋)製品は、大手のレノボやファウンダーですらハード、ソフトともに自作PCとほとんど変わらなかったが、2007年に入ると、それまでとは異なる製品群を登場させるようになってきたのだ。

 外見だけでもその変わりようは激しい。今までの中国メーカー製のデスクトップPCは、パーツショップでも入手できるようなタワー型ケースを使っていたが、2007年になったあたりから(もちろん、依然として従来のようなタワー型PCが主流だが)それぞれのPCメーカーが、個性的なデザインを採用するようになった。

清華同方のCOCO電脳。デザインも評価されているが、その筐体から“マイナスイオン”を発生させる機能にも注目を集めている

 特筆すべきは、かつて日本で起きた“コンパックショック”のような価格変動を中国で引き起こした激安PCメーカーの神舟(Hasee)がリリースした、中国のPCメーカーでは初めてのディスプレイ一体型PC「唐朝シリーズ」だ。唐朝シリーズがきっかけとなって、2008年には複数の中国PCメーカーが一体型PCをリリースすると予想されている。ほかにも、レノボとファウンダーに続く中国PCメーカー三番手の清華同方からリリースされら「CoCo」と、中国大手家電メーカー「TCL」に属するTCL電脳からリリースされた「鋭翔S8」で採用された「マイナスイオン発生機能」なんていうのも、2007年で変化した中国のデスクトップPCの特徴として挙げられるだろう。

庶民のためのノートPCが登場した2007年

 ノートPCでも、中国のIT系Webニュースで“ノートPC元年”と呼ぶ重要な1年となった。といって、特に目新しいデザインや機能をもった画期的な製品が出現したわけではない。ひとえに、デスクトップPCに引けを取らないスペックのノートPCが庶民でも購入できる価格にまで下がったことが、“元年”と認識された理由だ。

 2007年になって、中国のPCメーカー各社が用意するエントリークラスノートPCの価格が3999元(約6万円強)で並んだ。ちなみに、3999元は都市部の社会人2カ月分の給料に相当する。今まで価格競争に消極的だったレノボまでが3999元の「旭日410M520」をリリースしたほどだ。この価格帯のモデルでも、CPU、HDD、メモリ容量の基本スペックだけを比べれば、同価格のデスクトップPCと変わらない。これまで中国では、高所得者向けのノートPCというイメージが強かったが、この「3999元」級ノートPCがその固定観念を打破したといってもいい。

デルの「EC280」は価格競争の激しい中国市場専用のモデルだ

 「これより低価格のノートPCはしばらく出ないだろう」と思われていたが、年末にはデスクトップPCでも紹介した激安メーカーの神舟が、Windows XP正規版がインストールされた2999元(4万5000円強)の「天運Q540X」を発表して中国のノートPC関係者を驚かせた。神舟CEOの呉海軍氏は、「2008年には1999元PC(3万円強)をリリースする」と宣言している。呉氏はASUSの低価格ノートPC「Eee PC」について言及しながら「あれは基本スペックが一般的なPCとまったく異なる。神舟は、ほかのノートPCでも採用されているCPUとメモリ、HDDを搭載して1999元でリリースする」と中国のメディアに対して強気の発言をしている。これまでも、中国のPC市場でプライスリーダーであった同社は、2008年においても、PCのさらなる低価格化のキーとなるはずだ。

 半面、低価格で“みんなのPC”だったデスクトップPCの価格水準は2007年において横ばいであった。その代わりに、内部構成で最新パーツを随時採り入れ、液晶ディスプレイのサイズも19インチや22インチと大型化したことにユーザーの注目は集まっていたようだ。それでも、3月にリリースされたデルの「EC280」の2599元、中国国産CPUを採用したレノボ「天福PC」の1499元(約2万3000円)、同じく中国国産CPUを搭載した四川国芯の998元と、2007年にも低価格PCは登場している。

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