第1回 画質も迫力も圧倒的なA3ノビプリンタを選ぶ秋のA3ノビプリンタ特集(2/4 ページ)

» 2008年09月12日 11時15分 公開
[榊信康,ITmedia]

PX-5600(エプソン) 顔料系9色インク

エプソンの「PX-5600」。実売価格は8万8000円前後

 エプソンの「PX-5600」は、2008年6月に発売された新鋭機種だ。一般向けインクジェットプリンタの「カラリオ」ブランドではなく、大判インクジェットプリンタの「MAXART」ブランドに属しており、プロや写真愛好家に向けた「エプソン プロセレクション」の製品群にも含まれている。

 名機として知られる「PX-5500」(2005年5月発売)の後継モデルとして登場しただけあって、現在最も注目されているA3ノビプリンタといっても過言ではないだろう。PX-5500と型番こそ似通っているものの、3年もの期間を経たモデルチェンジなので、かなりの変更がなされ、期待に背かぬ1台に仕上がっている。

 PX-5600はPX-5500と同様、濃度の違う3種類のブラックインクでモノクロの階調性を重視した顔料系のインクセットを用いる。ただし、カラーインクは一部変更された。PX-5500は「PX-P/K3インク」だったが、PX-5600では「PX-P/K3VMインク」へと進化している。VMとは「ビビットマゼンタ」の略だ。

 これこそがPX-5500と最も異なるポイントで、従来のマゼンタの代わりにビビッドマゼンタ、ライトマゼンタの代わりにビビッドライトマゼンタを採用している。その名が示す通り、従来よりも鮮明なインクで、マゼンタはもとより、ブルーやバイオレットの色域を拡大する効果を持つ。

インクタンクは各色独立式で8個を搭載。フォトブラックとマットブラックは用紙に応じて入れ替えて使う

 そのほかのインクは、フォトブラック、マットブラック、グレー、ライトグレー、シアン、ライトシアン、イエローの全9個でPX-P/K3インクと同様だが、当然ながら新インクにともないチューニングが施してある。ブラックインクはインクチェンジシステムになっており、プリントメディアの種類に応じてマットブラックとフォトブラックを使い分ける仕様だ。そのため、同時に利用するのは8色のインクとなる。

 インクのノズル数は各色180ノズルで、印刷最高解像度は5760×1440dpiに対応。MSDT(マルチ・サイズ・ドット・テクノロジー)により、インクドロップは自動的に3段階(最小3ピコリットル)に打ち分けられる。

 また、PX-5600には後述する「PX-G5300」で発表した「LCCS」(Logial Color Conversion System)テクノロジも投入している。LCCSとはRGBの映像信号に対して、印刷時にどの色のインクをどのくらい使うのかを決めるルックアップテーブル(LUT)の種類で、エプソンと米ロチェスター工科大学のマンセル研究所が共同で基礎開発したものだ。

 LCCSでは、色再現性、階調性、粒状性、光源依存性(カラーインコンスタンシー)といった印刷品質に関する要素を最適化できるように、数式アルゴリズムによってインクの組み合わせ数と打ち込み量を導き出す。この手法により、従来の職人的な感性に依存した感覚的な画作りと比較して、印刷品質に関する各要素が最適化できたとしている。

 実際に試したところ、LCCSの恩恵か階調のつながりが非常によく、レンズのボケ味などもキレイに描写できた。色味については、PX-5500よりもややクセが付いた印象だ。データによって、PX-5600のほうが好印象な場合と、PX-5500の方が好印象な場合とに分かれる。モノクロプリントの品質については、PX-5500よりも確実に向上している。明部と暗部の階調でメリハリがあるにも関わらず、階調がしっかりと残っており、レンジがぐっと広がった印象だ。実際の印刷品質については、次回以降でチェックする。

背面上部のオートシートフィーダに加えて、前面と背面に手差しトレイを持つ

 ボディは直線的なボクシーデザインで堅牢な印象を受ける。シルバーとブラックのカラーリングもあいまって、いささかチープな印象があったPX-5500よりも高級感は増した。デザインの変更とともに、各種の操作ボタンは従来の前面から上面に移動している。この点は設置場所によって、賛否が分かれるだろう。

 給紙機構は3種類。背面上部のオートシートフィーダが光沢紙や普通紙、背面の手差しトレイがファインアートペーパー、前面の手差しトレイが厚紙という使い分けになっている。また、このクラスのプリンタを求めるユーザーへの訴求点になるかは分からないが、CD/DVDレーベル印刷機能やPictBridgeによるダイレクトプリント機能が新たに追加された。PC接続用のインタフェースはUSBを2基装備しており、WindowsとMacを1台ずつつなぐことが可能だ。

背面にPC接続用の2系統USB 2.0ポートを備えている(写真=左)。前面にはPictBridge用のUSBポートも搭載(写真=中央)。CD/DVDレーベル印刷にも対応している(写真=右)

本体サイズは616(幅)×322(奥行き)×214(高さ)ミリ、重量は約12.2キロ。使用時は前後にトレイを引き出すため、前方と後方にスペースの余裕が必要だ

PX-G5300(エプソン) 顔料系8色インク

エプソンの「PX-G5300」。実売価格は5万8000円前後

 2008年1月末に発売された「PX-G5300」は「カラリオ」ブランドに属すが、同時に「エプソン プロセレクション」の製品でもあり、一般家庭向けのインクジェットプリンタと比較して、性能、機能ともに洗練されている。先に紹介したPX-5600との大きな違いは採用するインクセットだ。

 インクセットは製品名にも現れており、光沢感に配慮した顔料系のPX-Gインクを用いている。ただし、2006年2月に発売された従来機「PX-G5100」のPX-Gインクとは少々異なる試みが行われた。それはオレンジインクの投入だ。インクセットの数自体は7色(グロスオプティマイザを含めて8色)と変わらず、オレンジインクとブルーインクをリプレイスした格好になっている。当然ながら、オレンジとブルーとでは表現できる色域がまったく異なる。

 なぜこのような手法を取ったのか? 端的にいえば、PX-G5100においてブルーインクで表現できる色域の使用頻度が低かったためとのことだ。確かに、日本で普通に写真を撮っていても、ブルーインクの飛び抜けた青の色域を最大限に使うことはないかもしれない。無論、青色側に広い色域は無意味ではないが、限られたインクの装てん数をより有効に用いようとするのは当然だろう。

 そこで、エプソンが目を付けたのが、前述のオレンジインクである。その主眼は肌色の再現性向上にほかならない。人の目は肌色の違いに敏感なので、ここに注力したわけである。確かにその成果は大きく、従来機でよく見られたシャドー部での色被りがなくなり、自然な肌色のトーンで描かれるようになった。肌色に限ったことではなく、花や陽光などの描写力も格段に向上している。

インクタンクは各色独立式で、グロスオプティマイザを含めた8個を備えている

 そのほかのインク構成は従来のPX-Gインクと同様だ。オレンジに、フォトブラック、マットブラック、シアン、レッド、イエロー、マゼンタを加えた7色と、紙の表面に光沢感を与える透明樹脂のグロスオプティマイザを使用する。フォトブラックとマットブラックは印刷する用紙によって自動的に切り替える仕組みだ。

 新インクを加えたため、シアン、イエロー、マゼンタのインクは組成を変更している。シアンはやや明るめにしてライトシアンインク的に使うようにし、イエローはグリーン寄りに、マゼンタはブルー寄りに調整した。これによって、オレンジに合わせたチューニングをしつつ、なくなったブルーの領域をフォローした形だ。

 実際に青色が主体のデータを印刷しても、思ったほどPX-G5100とPX-G5300の差は少なかった。もちろん、全体的な色域はPX-G5300のほうが格段に広い。このインクセットと、前述したLCCSテクノロジによって生成したルックアップテーブルの組み合わせで、滑らかな階調表現と高い色再現性を両立しているわけだ。

 また、グロスオプティマイザの改良も新しいPX-Gインクの特徴といえる。A4サイズならば、これまでのグロスオプティマイザでもそれほど不満はなかったが、A3ほどの大きなサイズになると、照り返しの面積も大きくなるので、どうしても光沢の平滑さなどで違和感が目立ってしまった。今回はこれを解消するため、透明樹脂と溶液を改良し、さらに耐擦性も向上した。そのかいあって、PX-G5300の出力は非常に平滑性が高い。顔料機とは思えないほどに違和感のない光沢を放っている。

 インクのノズル数は各色180ノズルで、最高5760×1440dpiでの印刷が可能だ。MSDT(マルチ・サイズ・ドット・テクノロジー)により、インクドロップは3段階(最小1.5ピコリットル)に打ち分ける。

背面上部にオートシートフィーダ、前面と背面に手差しトレイを備える

 ボディはPX-5600と同じボクシーデザインを採用しており、カラーが一部異なる。堅牢性、静粛性、安定性ともに不満はない。PC接続用のインタフェースはUSB 2.0を2基備えている。また、デジタルカメラ接続用のインタフェースとして、PictBridge対応USBも1基用意する。

 給紙機構は背面上部にオートシートフィーダ、前面に手差しトレイ(厚紙用)、背面に手差しトレイ(ファインアート紙用)を搭載。ロール紙やCD/DVDレーベルダイレクト印刷にも対応する。紙送りの精度もPX-G5100より向上した印象で、背面の手差しトレイを使用する場合でもストレスを感じなかった。

背面にPC接続用の2系統USB 2.0ポートを搭載(写真=左)。前面にはPictBridge用のUSBポートも用意している(写真=中央)。CD/DVDレーベル印刷にも対応する(写真=右)

本体サイズは616(幅)×322(奥行き)×214(高さ)ミリ、重量は約12.2キロだ。本体のデザインは上位機のPX-5600と共通化されている

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2024年04月25日 更新
  1. ワコムが有機ELペンタブレットをついに投入! 「Wacom Movink 13」は約420gの軽量モデルだ (2024年04月24日)
  2. 16.3型の折りたたみノートPC「Thinkpad X1 Fold」は“大画面タブレット”として大きな価値あり (2024年04月24日)
  3. 「IBMはテクノロジーカンパニーだ」 日本IBMが5つの「価値共創領域」にこだわるワケ (2024年04月23日)
  4. 「社長室と役員室はなくしました」 価値共創領域に挑戦する日本IBM 山口社長のこだわり (2024年04月24日)
  5. Googleが「Google for Education GIGA スクールパッケージ」を発表 GIGAスクール用Chromebookの「新規採用」と「継続」を両にらみ (2024年04月23日)
  6. バッファロー開発陣に聞く「Wi-Fi 7」にいち早く対応したメリット 決め手は異なる周波数を束ねる「MLO」【前編】 (2024年04月22日)
  7. ロジクール、“プロ仕様”をうたった60%レイアウト採用ワイヤレスゲーミングキーボード (2024年04月24日)
  8. あなたのPCのWindows 10/11の「ライセンス」はどうなっている? 調べる方法をチェック! (2023年10月20日)
  9. ゼロからの画像生成も可能に――アドビが生成AI機能を強化した「Photoshop」のβ版を公開 (2024年04月23日)
  10. MetaがMR/VRヘッドセット界の“Android”を目指す 「Quest」シリーズのOSを他社に開放、ASUSやLenovoが独自の新ハードを開発中 (2024年04月23日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー