デルは「箱」を開けてしまったのか 山田祥平の「こんなノートを使ってみたい」(2/2 ページ)

» 2008年09月24日 11時00分 公開
[山田祥平,ITmedia]
前のページへ 1|2       

Netbookは汎用マシンではない

──Inspiron Mini 9を購入してからその処理性能(と限界)を知って、デルのPC(とブランド)に失望するようなユーザーが出てこないでしょうか。

佐々木 現時点では、年賀状を作るのにNetbookが使えるとは思えません。だから、ノートPCの代わりになるというメッセージをユーザーに発信することはありません。とにかく2台目とか3台目のPCであって、主にインターネットにアクセスするための端末であって、そのインターネットのアクセス環境を外に持ち出すデバイスとしてデルのラインアップでは位置づけます。手軽に気軽に使えるデバイスであって、フルファンクションのノートPCではないことをユーザーにはアピールしていきます。

 Netbookは、もともと新興国向けのカテゴリーでした。でも、開発やリサーチを行ううちに、別の需要が見えてきたわけです。さらに、ASUSのEee PCが全世界的に受け入れられたことで、このカテゴリーが1つの大きな流れを生み出しました。爆発的な流行といってもいい状況で、デルもかなりの勢いを感じています。断言はできませんが、デルの製品も2008年のうちにそれなりの数が出荷されるのではないでしょうか。ですから、少なくとも、リリース時期にはそれなりの量を確保するつもりです。マーケット全体で考えると、10%くらいのシェアをとるつもりです。

──デルとしては、Netbookの発展系は、スペックとして上に進む(高額化、大型化)のでしょうか、それとも下に進む(低価格化、小型化)のでしょうか。

佐々木 デルの使命として、顧客のニーズを満たすことは、会社がスタートしたときからDNAとして組み込まれていました。ですから、デルの都合をユーザーに強いることはありません。このNetbookという新しいカテゴリーに関してもユーザーの声に耳を傾けます。

 Inspiron Mini 9のセールス方法として、イーモバイルといった通信サービスのバンドルなども考えています。価格と性能のバランスが最適になることを優先し、過度なスペックは求めず、ビジネス利用における要求を満たすようなものではないことを、はっきりアピールします。

 Inspiron Mini 9が携帯電話に近いデバイスであるというのは間違いありません。常日ごろから持ち運んでほしいとまではいいませんが、例えば「旅行」というイベントにおいて、旅行そのものに持っていくだけでなく、友達と旅行の相談をするようなときにも持ち出してもらえるんじゃないかと。

 PCを持ち歩くのは、依然としてビジネス利用が圧倒的に多いと思います。だから、PCをカジュアルに持ち歩く感覚がありません。でも、これからはPSPやニンテンドーDSのように、Netbookを持ち歩くようになるのが理想的ですね。通常タイプのモバイルノートPCは価格が高いけれど、特に難しいことをするわけではなく、インターネットサービスとメールを利用する程度で済むならば、Netbookが、そういったユーザーの要求と高価格なモバイルノートPCの溝を埋められるんじゃないでしょうか。

 もちろん、Netbookが一時的な流行となる可能性はあるかもしれません。ですから、家庭内での「n」台目のPCという位置づけは常に意識して訴求すべきでしょうね。日本に限っていえば、居間に高性能のPCがあって、それがほかの家族に使われているときにNetbookを使うといったスタイルです。

 いずれにしても、いまのNetbookの勢いは低価格だけが原因ではないと考えています。携帯性があってこそ、爆発的な盛り上がりを見せているのではないかと。デルも「Eee PCの勢いはすごい」と正直に思っています。

“賢い”ユーザーのためのNetbook

──ユーザーは、自分がPCでやりたいことを本当に把握できているのでしょうか。

佐々木 把握しているユーザーはいます。インターネットとメールしかしないからという割り切りができるユーザーですね。そして、「これで十分」と思うユーザーと「これじゃ足りない」と考えるユーザーがいます。

 今や、PCはほとんどの世帯に普及しています。そういう中で、2台目、3台目の需要を狙っていくことは重要です。Netbookの登場によって、携帯PCの需要がNetbookにシフトして、今まで大型のノートPCを家で使っていたユーザーが、デスクトップPCを選ぶようになるところまでの劇的な変動はないと思いますが、今までデスクトップPCを使っていたユーザーが、2台目のPCとして、Netbookを選ぶようになることはあるかもしれませんね。

 価格が安いこともあってNetbookの買い換えサイクルは、1年から1年半くらいになると考えています。通常のPCよりは短いですね。携帯電話並みという考えもあるかもしれません。

──Netbookが進化するとすれば、どのような方向になるでしょうか。

佐々木 1つは、サイズが微妙に違うものですね。性能的にラインアップの幅を広げるという方向もあります。いずれにしても、ユーザーがNetbookになにを求めるかによるのです。もしかしたら、大容量のHDDや、高解像液晶ディスプレイを搭載するかもしれません。もし、(製品単価を極端に抑えなければならない)Netbookのマーケットがなくなったほうがいいとメーカーが思っていたとしても、PC市場が先細りになっていくのなら、代わりになる何かを見つけなければ生き残れません。

 Netbookは始まったばかりです。成熟するにはある程度の時間がかかります。そこで、デルの戦略として、BTOをほかのベンダーとの違いにしていきます。Netbookでもユーザーのニーズにあわせてカスタマイズできるようにするのです。

 デルはNetbookを含めたラインアップでコンシューマー市場を本気でとっていこうとしています。世界においても日本においてもです。これまでは、ビジネスのユーザーが主体でしたから、これは大きな戦略転換です。期待していてください。

Eee PCの初期モデルとなる「Eee PC 4G-X」(写真=左)とEee PC最新モデルの「Eee PC 901-X」(写真=中)、そして、ASUSが先日発表したAtom搭載最新モデル「N10J」(写真=右)。最近発表されるNetbookの多くがディスプレイサイズを大きくしてきているのは興味深いところだ


 Netbookはパンドラの箱だ。そして、その箱はすでに開けられてしまった。いままでならPCを購入していたはずのユーザーが、Netbookで十分だと気がついてしまうかもしれない。それは、業界にとって大きなリスクといえる。一方で、ビジネス専用に近かったモバイルノートPCが、多くのコンシューマーユーザーに使ってもらえる可能性を開いたのも、またNetbookとなるだろう。モバイルノートPCは、まだまだすき間だらけで未踏の領域が散在している。Netbookは、その未踏峰の1つを登ったにすぎない。日常的にノートPC“のような”デバイスを持ち歩くユーザーが増えるのなら、PC業界にとって悪くない話ではないだろうか。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

最新トピックスPR

過去記事カレンダー