爆速H.264変換×超解像カード「FIRECODER Blu」を駆るSpursEngineでかっ飛べ!(1/3 ページ)

» 2008年12月24日 11時30分 公開
[都築航一,ITmedia]

HD映像の超高速変換を実現する専用プロセッサを搭載

トムソン・カノープスの「FIRECODER Blu」。価格は5万2290円。

 トムソン・カノープスの「FIRECODER Blu」は、東芝の映像処理チップ「SpursEngine」(スパーズ・エンジン)を搭載したPCI Express x1対応のエンコーダカードだ。

 まずはSpursEngineについて簡単におさらいしておこう。これは東芝、ソニー、米IBMの共同開発によるプロセッサ「Cell」をベースにした、東芝の動画編集専用チップだ。1.5GHz駆動のSPE(Synergistic Processor Element)を4基と、MPEG-2およびMPEG-4 AVC/H.264(以下、H.264)のエンコーダ/デコーダを1パッケージ化したチップで、変換や再生の処理を高速に行なえることを第一の特徴とする。

 もっとも、MPEG-2やH.264のハードウェアエンコーダは、すでに多数の製品が存在する。SpursEngineが既存のエンコーダチップと違うのは、HD映像でも素材の再生時間を大きく下回る時間で変換を完了できるという超高速処理を実現していることだ。HD化によってPCの負荷が一挙に増えたデジタルビデオ編集の世界では、想定される用途に夢が膨らむチップといえる。

 さらに、HD対応のテレビでもDVD-VideoなどのSD(標準解像度)の映像を美しく表示できるよう、独自のアルゴリズムでアップコンバート処理を行なう「超解像」の技術も搭載されており、こちらもSpursEngineのウリとなっている。

 FIRECODER Bluは、このSpursEngineを基板上に実装したPCI Express x1対応の拡張カードだ。実売価格は、一足先に発売されたリードテックの「WinFast PxVC1100」よりも2万円ほど高価な5万円前後で、この価格差に見合う機能や利便性があるかどうかが選択のポイントになる。

外部入出力端子はいっさいなし

 カードの形状は、こちらの記事で紹介されている「東芝のリファレンスボード」と酷似しているが、チップ上には大きなヒートシンクとファンが取り付けられた。

 とはいえ、スロット1基ぶんの厚さには余裕で収まり、サイズも111.2×167.7ミリ(ブラケット除く)とそれほど大きくないため、タワー型のケースはもちろん、筆者の手元にあるAOpenのキューブ型ベアボーン「XC Cube EZ965」にもすんなり装着できた。

 ブラケット面、カード面ともにPCI Express x1スロット以外の端子類がいっさいないことからも分かる通り、外部機器と接続して映像/音声をキャプチャするような機能は備えていない。あくまで、PC内の動画ファイルに対してエンコードやデコードを行なう専用カードだ。

SpursEngineを覆う巨大なヒートシンクが印象的なカード表面(写真=左)。裏面の出っ張りも小さく、PCI Express x1スロットが1つ空いていれば多くのケースに装着できるだろう(写真=右)。ブラケットには大きな排気用スリットが開けられているだけで、端子類はない

必要最低限の機能だけを実装した変換ソフト

FIRECODER WRITERはファイル変換とディスク保存に特化した、FIRECODER Bluの専用ユーティリティ。画面右下に素材を読み込み、右上のプレビュー画面で内容を確認して出力、というシンプルな構成だ。画面左にはDVD/BD作成時のタイトルが一覧表示される

 付属ソフトは、トムソン・カノープスオリジナルの動画変換ソフト「FIRECODER WRITER」のみ。複数のソフトで動画編集の機能を一通り提供するライバル製品とは対照的なパッケージだ。すでにHD編集や動画再生の環境をそろえており、SpursEngineによる変換機能だけを追加したいユーザーに向けた仕様といえる。

 FIRECODER WRITERでは、HDV形式を含むMPEG-2 PS/TS、およびAVCHD形式を含むH.264でエンコードされた動画ファイルの相互変換に加え、同社製品らしい特徴として、Canopus HQコーデックのAVIファイルからMPEG-2やH.264への変換にも対応する。ただし、ひとくちにCanopus HQコーデックの動画といっても、同社のHDビデオキャプチャカード「HDRECS」で取り込んだ動画ファイルの一部など、一定の解像度を外れるものは読み込めないので注意が必要だ。なお、いずれも音声はドルビーデジタルの2チャンネルで出力される。

 対応する光学ドライブを持っていれば、変換した動画をDVD-Video形式やBD-MV形式でディスクメディアに直接保存できるのも面白い。メニューオーサリングの機能は持たないため、本編が再生されるだけのディスクしか作れないが、チャプターポイントやタイトルの指定は可能なので、再生確認用や保存用としては十分だろう。エンコードの必要がない素材の場合はそのままディスクに書き込まれるので、再エンコードによって画質が劣化する心配もない。

 さらに、Blu-ray Discの作成時に限り、一部のHDVカメラなどが対応している1080/23.98pの素材も、ネイティブのフレームレートのままで収録可能だ。なお、変換時の画質設定は、あらかじめ用意されたプリセットから選択する形で、ビットレート単位での指定や、ディスクにぴったり収まるビットレートへの自動調整といった設定は行なえない。

変換時の画質は、環境設定の「エンコード設定」タブに用意された3種類のプリセットから選択できるほか、BD作成時は解像度の変換設定も選ぶことが可能だ(写真=左)。編集機能らしきものは、DVDおよびBD作成時に利用するチャプターポイントの設定のみ(写真=右)。チャプターは任意の場所に打てるほか、「30秒間隔」など一定感覚で自動的に打つこともでき、複数のファイルを読み込むと、各ファイルの先頭部がチャプターとして登録される

出力方法はDVD、BD、ファイルの3つが選択でき、ファイル出力を選ぶと、出力形式と解像度を選択するダイアログが現れる(写真=左)。MPEG-2 TSを選択すると、解像度はHDV1080iにあたる1440×1080しか選択できなくなる。BD作成時のダイアログでは「フォーマットが異なるファイルだけエンコードする」にチェックを入れると、BD-MVに適合する形式は変換せずにそのまま保存され、HDVとAVCHDが混在する状況ではどちらもそのまま収録される(写真=右)。今回試した限りでは、60iと24pの素材の混在も可能だった

 FIRECODER WRITERが持っている機能はこれですべてだ。読み込んだ素材のカット編集や複数ファイルの結合はおろか、プレビュー再生の機能すら持たず、もちろんHDVカメラからのキャプチャも行なえない。ディスク作成機能はあくまでオマケであり、基本的にはファイル変換に特化されたソフトなのだ。まさにエンコード専用機にうってつけの構成といえるだろう。

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