「iPad(第10世代)」とApple M2チップ搭載の「iPad Pro」が10月26日に発売される。
発売に先んじて、これらの新モデルを試用する機会を得た。実際に使ってみると、両モデルが単に「性能が強化された」あるいは「デザインが刷新された」という以上に、今後、iPadという製品ラインアップ全体を見直す可能性と、今後の新しい展開が見えてくるように感じる。
この記事では、iPad(第10世代)に焦点を当ててファーストインプレッションをお伝えすると共に、2つの新モデルと「iPadOS 16」が提供する新機能から見えるAppleの“戦略”について話をしたい。
初代のiPad Proが登場して以来、サブネームの付かない無印の「iPad」は低価格モデルであると同時に、教育/業務用タブレット端末としてのiPadのベースラインを支える“基準機”という位置付けとなった。
iPad Proはパワフルさを極め続け、プロクリエイター向けにエッジの効いた領域にまで入った。「そこまでエッジの効いたスペックはなくてもいいけれど、低すぎるのもちょっと……」というすき間ニーズは、iPad Airが埋めるようになった。すると、無印のiPadは基準機としての性格が色濃く出るようになった。
新たに登場する無印の第10世代は、2018年に登場したiPad Proから始まった新デザインのボディーとなった(これにより、iPadファミリーの新デザインへの移行は完了したことになる)。販売価格は日本円で6万8800円からと、先代から1万9000円(2022年6月までの価格で比べると2万9000円)の“値上げ”となっている。
この値上げは為替レートの円安傾向の影響は受けたものでもあるのだが、米国における販売価格も120ドル(約1万7900円)値上げされている。大きくなったディスプレイの搭載や、Cellurarモデルなら5Gへの対応など、部材の全体的なコスト増が反映された結果なのだろう。
iPad(第10世代)を実際に使ってみると、値段は上がっても「無印は基準機」という位置付けに変わりはないことが分かる。一方で今までとは“基準”を変えようとしていることも感じ取れる。
iPad Proのデビュー後、Appleはさまざまなクリエイティブな作業――アート作品だけでなく、ビジネス文書の作成や編集などテキストを中心とした作業も含む――をiPadシリーズで支えようとしてきた。日本語に関連する部分では日本語入力の使い勝手を大きく改善してきたし、iPad向けの「Magic Keyboard」のトラックパッドの操作性はMacと相互に行き来しても違和感を覚えないレベルまでブラッシュアップされた。
そして10月25日にリリースされる「iPadOS 16」では、開いているアプリ(ウィンドウ)を整理しやすくする「Stage Manager(ステージマネージャ)」が導入される。この機能は同時リリースの「macOS Ventura」にも実装される。
他にも、iPadOS 16では使い勝手の改善が幾つか施されており、特に外付けディスプレイを使う場合はMac(macOS)の操作性に近づけやすくなった。iPadにPC的な作業性の高さを加えていく改良の中で、iPadとMac(macOS)の操作ポリシーの齟齬(そご)に折り合いをつけた、ある意味での“到達点”のような作りともいえる。
第10世代のiPadは、iPadOS 16の利便性の多くを体験できるように設計されているのだが、SoCのスペックの都合からStage Managerは利用できない。また、USB Type-C端子からの映像出力(DisplayPort Alternate Mode)のスペックも最大で「4K(3840×2160ピクセル/30Hz」または「フルHD(1920×1080ピクセル)/60Hz」に制限される。
それでも、この新しいiPadは“現代的”なiPadに求められる新たな基準を示していることには間違いない。価格を据え置いて第9世代モデルが併売されているのを見る限り、しばらくは「今まで」と「これから」のベースラインが併存することになる。
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