「神舟」が導く中国“激安”PC市場山谷剛史の「アジアン・アイティー」(1/2 ページ)

» 2009年02月13日 11時00分 公開
[山谷剛史,ITmedia]

中国シェアトップを狙う激安PCメーカー「神舟」

神舟が誇る激安Netbook「優雅Q120S」はAtom N270、HDD 80Gバイト、メモリ512Mバイト、8.9型液晶ディスプレイで1999元

 IBMからThinkPadをはじめとするPC部門を買収したおかげで、日本でも広く知られるようになったレノボだが、それ以前の“純粋なる中国企業”だったころの彼らを知っているユーザーには、ThinkPadやThinkCentreよりも、Lenovo 3000シリーズやIdeaPad、IdeaCentreにレノボらしさを感じているかもしれない。日本では「お求めやすい価格のバリュークラス」というイメージのLenovo 3000だが、中国ではハイエンドモデルの扱いだったりする。そもそも、中国市場において、レノボは「トップシェアで安心だけど、ちょっと値段が高い」という立ち位置にある。

 「じゃあ、中国で“手ごろな”PCメーカーはどこ?」に最も当てはまるのが、タイトルにもある「神舟」(中国の有人宇宙船と同じ名前となっているのは、“たまたま”という説あり)だ。英語名では「Hasee」と名乗っている神舟は、毎度毎度、価格相場を思いっきり破壊する製品を登場させて業界全体を驚かしている。

 2007年末には、当時の最も安い中国製ノートPCより1000元(現在のレートで約1万3000円)も安い2999元(約4万2000円)のノートPCをリリースしただけでなく、「2008年には“1999元”(約2万6000円)のノートPCを出荷するっ!」と宣言、その言葉通りに2008年早々には他社に先駆けて1999元“デスクトップPC”をリリースし、次いで、世界的なNetbookブームに乗ってAtomを搭載した「優雅Q120C」を1999元で発表した。2009年には「優雅Q120C」の後継となる「優雅Q120S」を、やはり1999元で出荷している。そのスペックはCPUがAtom N270、メモリ容量が512Mバイト、HDD容量が80Gバイト、そして、8.9型液晶ディスプレイを搭載する。

 さらに神舟は、ほかの中国PCメーカーがAtomを搭載したNetbookですら1999元という価格を付けられない状況において、Celeronと13.3型液晶ディスプレイを搭載したノートPC「天運Q500」を1999元でリリースしている。その上位シリーズの「天運Q1600」は、CPUをCeleron Dual-Coreにグレードアップ、メモリは1Gバイト搭載し、HDDも120Gバイトにしただけでなく、DVD-ROMとCD-RWのコンボドライブを内蔵して、2499元(約3万2500円)という価格を実現している。天運Q1600は、中国でPCを使う目的として最も多い「DVD-Videoを視聴する」ことができる最安値のノートPCとして好調な売れ行きを見せているという。

 こうした、過激な低価格ラインアップをそろえた神舟は、中国市場においてASUS、ACER、そして中国の巨人レノボまでも抑え込み、中国のミニノート市場でトップシェアを得るまでに至っている。

Celeonと13.3型液晶ディスプレイを搭載して1999元の「天運Q500」(写真=左)とCeleron Dual-Coreを搭載した2スピンドルノートPCの「天運Q1600」(写真=右)

液晶一体型ではソニーと肩を並べる神舟

 当然ながら、神舟はデスクトップPCでも多様なラインアップをそろえている。ほかの中国PCメーカーと同じく主力はタワー型PCであるが、時流に合わせて、液晶一体型デスクトップPC「唐朝」「佳禧」も用意している。現在、中国の大都市ならどこでも販売されている液晶一体型PCといえば、ソニーのボードPC「VAIO type L」と神舟の「唐朝」「佳禧」だけで、中国PCメーカー製で中国全土で販売される製品というのはほかに例がない。そういう意味で、神舟は単なる低価格“組み立て”メーカーにはとどまらない評価を流通業界やユーザーから得ているともいえる。

 「唐朝」の最安モデルとなる「唐朝F100C」は、VIAのC7-M/1.6GHzを搭載し、HDD容量は40Gバイト、メモリ容量は512Mバイト。本体にCD-ROMドライブを内蔵して、14.1型ワイド液晶ディスプレイを採用する。この構成で価格は1699元(約2万2000円)だ。タワー型PCのラインアップでは、VIAのC7-M/1.5GHzを搭載して、HDD容量が80Gバイト、メモリ容量が512Mバイト、DVD-ROMドライブを内蔵して、15.4型ワイド液晶ディスプレイが付属する「新瑞S200D」で同じ1699元となっている。

 神舟が2009年1月に最も力を入れているモデルが「新瑞S1000」だ。これは「新瑞S200D」のCPUをCeleron Dual-Coreに、メモリ容量を1Gバイトに強化したもので、価格は1999元(約2万6000円)。ちなみに、神舟がリリースしているデスクトップPCのCPUは、ほとんどがインテル製で、一部の低価格モデルがVIA製、そしてごくわずかな数機種がAMD製となっている。

ソニーと並んで中国全土で販売されている液晶一体型PCの「唐朝F100C」(写真=左)と、神舟が2009年にイチオシするデスクトップPCの「新瑞D1000」(写真=右)

 神舟のPCは安さ“だけ”が特徴なだけに、ほかのメーカーからより低価格のPCがリリースされると、神舟代表(董事長)の呉海軍氏が即座にそのモデルを攻撃する発言を行うことでも知られている。Eee PCが登場したときには「あんなおもちゃみたいな製品ではなく、同じ値段で本物のPCをリリースしてやる」と挑発している。神舟と競合するとは思えないデルやHewlett-Packardに対しても「価格高すぎ。神舟ならその半額で自作PCキットを提供する」と、やや筋違いな反論もしている。

 神舟以外にも、安さを武器にする中国PCメーカーとして「新藍」(xinlan)や「七喜」(HEDY)が存在する。実績や製品のラインアップ、価格競争力などを冷静に比較すると、神舟も新藍も七喜も似たようなメーカーに思えるが、呉氏の過激な発言や行動などが業界に与える影響力は絶大で、それゆえ、「安いメーカーなら神舟しかない」と考える消費者が多い。実際、中国PC市場における神舟の注目度は、実績で中国メーカーのナンバー2だったファウンダーを超え、中国トップのレノボに迫るほどだ。

中国では神舟と同じ激安PCメーカーとして知られる「新藍」(写真=左)と「七喜」(写真=右)。ともに電脳街に販売店を展開するなど地道に努力を積み重ねているが、神舟トップの呉海軍氏の“ビックマウス”にその存在を忘れられがちだ

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