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Windows 7のロケットスタートでMicrosoftはどこへ向かう?「PDC09」リポート(2/3 ページ)

» 2009年11月24日 17時00分 公開
[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

Internet Explorer 9のプレビューが登場

Internet Explorerのアップデート。IE8がリリースされたばかりだが、 IE9も開発が進んでいる。IE8で課題となっていたHTML5サポートや、JavaScript実効速度のさらなる向上、そしてハードウェアアクセラレーションなど、互換性向上と高速化が主な改良点だ

 イマドキのPCで欠かせないユーザー体験といえば、インターネットで提供される多彩なサービスだろう。Windows7 ユーザーの多くにとって、Internet Explorerはその窓口となる。従来バージョンの互換性モードを搭載するIE8だが、今後のIEはどのような形で進化を続けるのだろうか? この疑問に答えるべく、シノフスキー氏は次期バージョン「IE9」の機能プレビューを紹介した。

 IE9の開発では設計上のゴールがいくつか存在する。それは「標準への対応」「パフォーマンスの向上」「プラットフォーム強化」の3つで、それぞれ具体的な目標として「HTML5のサポート」「JavaScript実行性能アップ」「ハードウェアアクセラレーションのサポート」が挙がっている。

 競合するFirefoxやSafari、Chromeなどと比べ、IEは、次世代業界標準と目される「HTML5」への対応が最も遅れていると指摘されている。IE8でもHTML5の対応について積極的に言及しておらず、関係者からは消極的とさえいわれていたが、実際には、いくつかの段階を踏んで対応するスタンスであったことがPDC09で示されたIE9の設計ゴールからうかがえる。ブラウザのWeb標準規格対応度をチェックする「Acid3」テストで測定したスコアでは、IE8が20なのに対し、現行の開発版IE9の数値が32に改善している。これでも、“いい”と評価できるレベルには達していないが、標準化対応に対するMicrosoftの意欲を示している。

 JavaScriptの実行性能も、Webブラウザの評価で重要な指標だ。特に、Google Mapsに代表されるAjaxベースのWebアプリケーションが多数登場したことで、JavaScriptの実行性能はWebブラウザのレスポンスを左右する決定的な要因となった。速度競争で先行するライバルは独自のJavaScript実行エンジンを搭載しているが、IE6やIE7で出遅れたMicrosoftも、IE8で本格的な改良に着手し、IE9ではライバルにかなり肉迫するという。

 IEで実装されるハードウェアアクセラレーションでは、グラフィックスチップの支援を受けることで、精細で高速な画面の描画が可能になる。IE9では従来のGDIだけでなく、「D2D」と呼ばれるグラフィックスドライバを直接呼び出す仕組みを用意することで、文字のスムージング処理をハードウェアで行ったり、画像の書き換えが高速に行えたりする。PDC09では、IE9でD2Dをオンにした状態で表示したBingでは、スクロール処理が従来からスムーズで高速に行えることが紹介された。

 IE9の登場時期は依然として明確にされていないものの、2010年3月に予定されているMicrosoftのWeb技術イベント「MIX 10」で、一般公開が行われるとみられる。

IE9の現状開発バージョンでAcid3の互換性スコアがIE8から向上した。このレベルが合格点と呼べるかは微妙だが、今後正式版に向けてさらにスコアを伸ばしてくるだろう(写真=左)。SunSpiderによるJavaScript実行ベンチマークテストもスコアが向上した。高速化競争をリードするSafari、Chrome、Firefoxに近いレベルに達している(写真=右)

ハードウェアアクセラレーションの一例。左のGDI描画と比べて、右のD2D描画ではハードウェア支援で可能になったスムージング処理でフォント描画が改善している(写真=左)。ハードウェアアクセラレーションによってベクトルデータで構成された地図の描画処理も高速になる(写真=右)

デスクトップアプリケーションに近付く「Silverlight 4」

米Microsoftデベロッパー部門コーポレート上級副社長のスコット・ガスリー氏

 IEと並んでMicrosoftのインターネット利用機能を支えるのが「Silverlight」だ。すでに動画配信を中心に対応サービスが登場しているが、PDC09ではその最新版にあたる「Silverlight 4」が紹介された。これまでのシリーズと同じく、得意とする動画再生機能をさらに強化するとともに、アプリケーション実行プラットフォームとしての性格を強めるべく、多くの機能を追加した。

 その1つが「Webカメラ」と「マイク」のサポートだ。これら外部デバイスから画像情報や音声を取り込んで、加工したり、ネットワークを介した送信が可能になった。チャットアプリケーションや、“プリクラ”のような「フォトブース」と呼ばれる機能での利用が考えられており、取り込んだ画像を加工して、SNSやオンライン上のフォトアルバムにアップロードするアプリケーションに応用できるだろう。キーノートスピーチで米Microsoftデベロッパー部門コーポレート上級副社長のスコット・ガスリー氏が示した応用例では、バーコードリーダーで読み込んだ書籍コードから、インターネット上で書籍情報を取り出して表示するシステムが紹介されている。

 動画再生技術も向上している。DRMがサポートされてことからストリーミングや動画配信で多く利用されるSilverlightだが、Silverlight 4ではストリーミング再生中の一時停止やコマ送りなど、ユーザー側の操作に対応した動画再生が可能だ。また、オフラインDRMもサポートするので、ダウンロードしたコンテンツのローカル保存や適時再生、レンタルサービスへの応用など、さまざまな仕掛けが可能になった。

 さらに、iPhoneのようなSilverlight未対応デバイスでSilverlightを利用するWebページにアクセスしても、専用のタグ情報を付与してページを表示する仕掛けも用意する。iPhoneユーザーなら、Webページに埋め込まれたリンクをクリックすることで、YouTubeなどに対応する再生支援アプリが立ち上がり、動画の閲覧が可能になる。

Silverlight 4の新機能の1つ「Webカム」「マイクロフォン」。フォトブースのアプリケーションを使ってSNS用アイコンを作ったり、そのままビデオチャットへの活用、あるいはバーコードリーダーとしての利用など、さまざまな使い方が可能だ

Silverlightが得意とする動画再生利用では、オリンピックで公式動画配信技術にも採用されている。ストリーミング再生ながら一時停止やコマ送りができたり、あるいはSilverlightに対応しないデバイス(例えばiPhoneなど)でも動画再生ができるように専用タグ(クリックすると動画再生支援アプリが立ち上がる)を埋め込んだり、あるいは「オフラインDRM」で著作権動画のローカル保存やレンタルサービスに対応したりなど、応用範囲は広がっている

 Silverlight 4は、アプリケーション実行プラットフォームとしての機能も強化されている。アラビア語やヘブライ語表記をサポートしたほか、文字の表示順列をアラビア語などに合わせて右から左へと変更することも可能だ。右クリックで表示される「コンテキストメニュー」のカスタマイズやドラッグ&ドロップへの対応、印刷機能のサポートなど、通常のデスクトップアプリケーションとほぼ同等な機能が利用可能だ。

 高機能なユーザーインタフェース(UI)を備えるインターネットアプリケーション開発環境「RIA」(Rich Internet Application)で先行するAdobeのFlash/Flex技術に対抗するためと思われるが、「軽量で高性能」をコンセプトとするSilverlightにとって、こうした機能追加は本来の目的から逸脱しており、開発者やソフトウェアベンダーからも賛否両論だ。

新たにアラビア語とヘブライ語の表示にも対応した。アラビア語のように右から左に表記するタイプの言語もサポートする。また、コンテキストメニューのカスタマイズが可能になり、カーソルの位置によって好きなメニューを出すことができる(写真=左)。印刷機能のサポート。Silverlightアプリケーションから印刷ダイアログを呼び出し、表示領域を指定してプレビューや印刷が可能だ(写真=右)

Silverlight 4ではHTMLの埋め込み表示も可能になっている。例えば、内部にウィンドウ枠を作って「Bing.com」のページを表示して、それをさらにジグソーパズル状に分解表示するような仕掛けもできる

HTMLだけでなく、Flashのようなプラグインごと表示領域を埋め込める。このようにYouTubeを利用したページであっても、Silverlightでページをジグソーパズル状に分解できる。分解された状態でも、リアルタイムで動画再生は続いている

 だが、ガスリー氏は、Silverlight 4が従来の2倍の速度で、起動速度も30%ほど高速化していると、肥大化の弊害を否定している。また、同社チーフソフトウェアアーキテクト(CSA)のレイ・オジー氏が語る「PC、携帯電話、テレビで同一のユーザー体験を実現する3スクリーン戦略」を実現するコア技術としてもSilverlightが挙がっている。Silverlightの機能強化がPC以外のデバイスの機能底上げにつながるという考えもあるようだ(オジー氏が語る「PC、携帯電話、テレビで同一のユーザー体験を実現する3スクリーン戦略」については、Microsoftはハイブリッドな戦略で古い殻を脱ぎ捨てるを参照のこと)。

 なお、Silverlight 4のβ版はすでに「silverlight.net」で配布が開始されており、正式版も2010年前半に登場する予定となっている。

業務アプリケーションやリッチUIを採用した商用サイトなど、Silverlightでフロントエンドの画面を作るRIA(Rich Internet Application)への対応もMicrosoftの目標だ。方向性としては動画再生や単純なアニメーションだけでなく、AdobeのFlashやFlexで提供されるソリューションへの対抗が狙いとみられる(写真=左)。Silverlightではマルチタッチもサポート。Flash 10でのマルチタッチサポートはどちらかといえば携帯利用を想定していたが、こちらはWindows 7で利用の広がりが見込めるデスクトップPCやノートPCでの利用を想定しているとみられる(写真=右)

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