「Kindle」は何も新しくない、「iPad」ならではの表現を目指す「元素図鑑」作者インタビュー(後編)(2/3 ページ)

» 2010年07月27日 11時55分 公開
[林信行,ITmedia]

電子出版ビジネスの立ち上げ

セオドア・グレイ氏と写真家のニック・マン氏

――ハリー・ポッターに出てくるような魔法の本を作り出せる夢のデバイスと、無料で配られていたコンテンツからお金を生み出す魔法の流通プラットフォームを併せ持ったiPadですが、今後は同プラットフォームをターゲットにした出版ビジネスに力を入れていくと聞きました。

グレイ そうです。元素図鑑を作ってみて、自分たち自身でもうれしくなり、もっとこういった電子書籍を作っていこうと思いました。

 私が1年の間に書ける本はたかが知れていますが、世の中にはほかにもおもしろい本やコンテンツを持っている人たちが大勢います。我々はそういう方々とパートナーシップを築いて、新しい出版ビジネスを行っていこうと思っています。

 名前も、何かiPadらしいもの、と考えて、iPad発売の1週間前に「TouchPress」という社名を思いつきました。もっとも、思いついたのがギリギリ過ぎたので、元素図鑑には間に合わず、同アプリケーションは「Elements Collection社」という、昔ながらの広がりのない名前で売っていますが。

――やはり、教育系の本を中心に出版していくのでしょうか。

グレイ 私は元素図鑑を教育用の本だとは思っていません。確かに教育的要素はありますが、これまであまり興味を持たれる機会がなかった世界のおもしろさを伝える本だと思っています。

 そういう意味では、同様に、多くの人が知らないおもしろい世界を紹介するような本は、たくさん出していくと思います。ノンフィクションで、事実やデータをおもしろく見せるような本もやるでしょう。現在、いくつかの企業や個人と話をしているところなので、具体的な話はできませんが、元素図鑑のように魔法のようなクオリティを持つ本にしていきたいと思っています。

 ハリー・ポッターの世界なら、この本はきっとこんな風になるんじゃないかというような、想像力をかき立てるコンテンツです。それでいて、私自身が興味を持てる本です。

 我々は何もサービスビュローになって、誰彼かまわず頼まれた本を電子化しようというのではなく、やはり私がやっていて楽しい、意義があると思う本を1つ1つ丁寧に作っていきたいと思っています。紙の本をただ電子フォーマットに変換するようなことはしません。

ハリー・ポッターの本を目指し続ける

――元素図鑑用にMathematicaで出版システムを作ったとおっしゃっていましたが、基本的にそれを使って電子書籍を作るということでしょうか。

グレイ氏 元素図鑑と同じシステムで作る本もあるでしょうが、すべてをそうする、というわけではありません。元素図鑑の出版システムは、360度どの角度からでも見られるオブジェクトを表示するのには適しています。例えばコレクション用のカードの図鑑や鉄道模型なんかを紹介する本を電子化するのであれば、そういう本を出す予定はありませんが、同じシステムでも本が作れるかもしれません。でも、どのような形で電子化するかは、本の中身によって変わってくると思います。

 オブジェクトを見せるタイプの本では、今後、また元素図鑑に使ったシステムを再利用する可能性はありますが、我々は1通りのやり方でなんでもやってしまおうと考えているわけではありません。また、万が一、昔のシステムを再利用したとしても、その際には、必ずシステムにブラシュアップをかけると思います。そのまま使うことはないでしょう。

――確かにコンテンツによって、見せ方も変わるべきです。ただ、どのコンテンツをどう見せたらいいか、これを考えるのはなかなか難しいですよね。

グレイ ええ。そこでハリー・ポッターが評価軸になると思います。この本が、ハリー・ポッターの世界に出てきたら、どうなっているか、どうなっているべきかをまず考えるのです。

 例えば動物図鑑を考える場合、身動き1つしない死んだ動物がくるくる出てきても意味がないですよね。だから、表示される動物が動き回るようにするでしょう。しかも、囲われた枠線の中で動くのではなく、ページにうまく組み込まれながらも、枠線も何もなく、そのまま立体的に浮き上がって表示されるはずです。だから我々も、できる範囲で、それに近いモノを目指します。おそらく3Dのリアルタイムレンダリングで自然な動きをつけることになるんじゃないでしょうか。どちらかというと、本よりビデオゲームみたいな感じになるかもしれません。何か1つのやり方や技術にこだわる必要はまったくありません。

――電子書籍とアプリケーションの境界がだんだんあいまいになっていくのを感じます。

グレイ そうでしょうか。私たちは電子書籍を作ろうとしていますが、アプリケーションを作ろうとはしていません。私の定義では、アプリケーションというのは、もっと道具のようなプログラムのことです。何か目的を達成するために、ユーザー側で工夫して使いこなすためのものです。

 これに対して、書籍の方は、あなたに何かを教えてくれたり、権威のある声で物語を語りかけてくれます。きちんとした著者がいて、良いストーリーがあるのが書籍で、我々はその書籍に、新時代のインタラクティビティを付け加えるのが使命だと考えています。

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