日本ヒューレット・パッカード(日本HP)は9月16日、インクジェット技術を採用したデジタル輪転印刷機「HP Color Inkjet Web Press」シリーズを日本市場に投入すると発表した。多品種小ロットの印刷が可能なインクジェット機を提供することにより、プリントサービスプロバイダ(以下、PSP:印刷業者)のデジタル化を促進し、オフセット印刷市場を攻略するのが狙いだ。
同社の試算によれば、2010年に全世界で印刷されたページ数は52.4兆で、このうち47.5兆ページがPSPによるものという。そしてそのほとんどが従来のオフセット印刷に代表されるアナログ方式で出力されており、デジタル印刷の比率は5%に満たない。また、PSPによる印刷種別の内訳を見ると、出版が24.5兆ページと半数を占め、次いでパッケージ(7.1兆)やマーケティングコラテラル(6.8兆)と、いずれもほとんどデジタル化されていない分野になる。
日本HPのイメージング・プリンティング事業統括の挽野元氏は、「PSPによる印刷ページを金額に換算すると615億ドル(約5兆円)。日本はこのうちの10%で、だいたい5000億円規模の市場規模がある」と述べ、印刷業界のデジタル化に大きなチャンスがあると説明する。
同社は2001年にIndigoを買収し、オフセット品質が求められる商業印刷やフォトビジネスを展開する印刷業者向けに、デジタル印刷機の「HP Indigo」シリーズをラインアップしてきたが、その一方で、大量印刷に対応する分野では、2009年からデジタル輪転機の「HP Core Inkjet Web Press」を本格展開している。北米と欧州ではすでに20以上のシステムが稼働しており、製品ラインアップもT200からT300、T350、T400と拡大してきた。また、多くの企業はHP Inkjet Web Pressを導入後に複数台のシステムを使用している。
同発表会には、9月16日から東京ビッグサイトで開催されている国際総合印刷機材展「IGAS 2011」(International Graphic Arts Show 2011)のために来日した米HPのIPGバイスプレジデントであるアウレリオ・マルジ氏も登壇。「HP Inkjet Web Pressは2008年に始まったが、数年前にはビジョンでしかなかったものが、現在は実際の成功事例として存在する。この短期間でパートナーが複数のシステムを導入していることが、デジタル化によって価値を提供できている証拠だ」と述べ、「日本でも(印刷業者が)HP Inkjet Web Pressで成功することを願っている」とあいさつを結んだ。
HP Color Inkjet Web Pressシリーズのラインアップは、最大520.7ミリ幅の用紙に61メートル/分で印刷できる「T200」から、最大1066.8ミリ幅の用紙に183メートル/分で印刷できる(いずれもカラー印刷時)「T400」までの4モデル。日本市場でのターゲットセグメントは、主に書籍の印刷やメーリングサービスを手がけるPSPだ。
挽野氏は、従来のオフセット印刷では対応しづらい多品種小ロットのニーズをデジタル化で解消できるとし、返本率や配送、管理(在庫)コストが高いと言われる書籍分野での優位性を強調。また、1部から印刷可能な点は、単にコストを削減するだけでなく、ダイレクトメールなどのメーリングサービス業界において、ひとりひとりの属性や購買行動に基づいたコンテンツを製作できるため、レスポンス率の高いサービスを提供できるとした。
なお、日本HPはHP Color Inkjet Web Pressの国内投入にあわせて、インサーター(封入・封かん機)の世界的大手であるPitney Bowes社の日本法人と提携しており、これらの機器やソフトウェアも含めた印刷ソリューションをメーリングサービス業界向けに提供していく考えだ。
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