さらにラトナー氏は、「しきい電圧ギリギリで駆動できるようにすれば、省電力性能を向上させるだけではなく、パフォーマンスも向上できる」と説明する。この技術をデスクトップPC向けのハイエンドCPUに活用した場合、しきい電圧から最大駆動電圧までのダイナミックレンジの広さを生かし、より高クロックで動作できるようになるというわけだ。インテルは、この技術を生かし、2018年にエクサFLOPS(10の16乗FLOPSの浮動小数点演算性能)を実現するスーパーコンピュータを実現する計画を明らかしているが、ラトナー氏は「ニアしきい電圧駆動技術は、クライアント向けCPUの省電力化にも役立つ」として、3〜5年後をめどに、同技術をノートPCやデスクトップ向けCPUにも応用していく姿勢を示す。
もう1つの段階は、CPUの演算性能を向上させることだ。同社はHPC向けにMIC(Many Integrated Core)を展開しており、32ナノメートルプロセスルールを採用し、50コアを統合した「Knights Corner」を発表している。同製品は50コアで1テラFLOPSの演算性能を実現しており、長期的にはこのメニーコア技術を一般のCPUにも統合することも検討している。
また、Intel LabsではGPUコアを使ったアクセラレーションのサポートも検討しており、2011年のIDFでは現行の“Sandy Bridge”世代のCore i7で内蔵するグラフィックスコア(Intel HD Graphics 3000)を使って、JavaScriptの高速化を実現するデモも公開した。ただし、メニーコア化やGPU利用を推進していく上では、CPUの作業領域となるメモリとのインタフェースを高速化することが不可欠となる。そこでインテルは、チップに小さな穴を開け、そこに電極となる金属を充填する「TSV」(Through Silicon Via:シリコン貫通電極)技術によって、より広い帯域でメモリチップをチップ上で接続する手法なども模索している。
Intelが、こうした技術革新を続けられるのも、半導体製造施設を自社で持ち、最新技術に最適なプロセスルールの開発ができることが大きい。2012年第1四半期末〜第2四半期初に市場投入が計画されている次期主力CPUの“Ivy Bridge”で3Dトライゲートトランジスタ技術を初めて投入する22ナノメートルプロセスルールに適用できたのも、2006年に45ナノメートルプロセスルールの立ち上げにおいて、SRAMチップの試作で3Dトライゲートトランジスタ技術を採用し、この技術を使った半導体の量産に向けて研究を重ねるなど、製造技術の確立にも5年を費やしてきたからだ。
振り返れば、インテルはシングルコアで4つのスレッドを実行できる拡張版Hyper Threadingを採用するとされた第5世代のPentium 4プロセッサ“Tejas”(開発コード名)で2005年の市場投入を計画していた。しかし、リーク電流に起因する消費電力の増大などを理由にキャンセルしている。このことがきっかけとなって、CPUのロードマップをマルチコアへ転換せざるを得ない状況となった。
そのころ研究が本格的にスタートしたCMOS電圧レギュレータや3Dトライゲートトランジスタ技術が、ようやく実用化したことで、インテルのCPUロードマップは、再び高性能化のペースを取り戻すことも期待できる。実際、ラトナー氏は「22ナノメートルプロセスにおける3Dトライゲートトランジスタ技術の確立で、今後もムーアの法則を堅持できる。さらにHigh-Kに代わる新素材の研究が進めば、半導体プロセスの進化をペースアップすることも可能だ」と今後の半導体の進化に自信を見せる。同氏は、2ワットで100ギガFLOPSの性能を実現するモバイルシステムも、早ければ2018年には実現できると見ており、CPUは次の40年に向けて、より低消費電力なものから、より高性能な製品まで、さらに幅広い進化が期待できるようになりそうだ。
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