「このままではエクサスケール実現にフーバーダムが必要」──NVIDIAが語る“GPUの必然性”GTC Asia 2011(1/4 ページ)

» 2011年12月16日 17時51分 公開
[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

若い技術者の熱気を感じるGTC Asia 2011

 NVIDIAが主催する「GPU Technology Conference Asia 2011」(GTC Asia 2011)が、中国の北京で12月14〜15日に開催された。グラフィックス描画以外のGPU応用は、ここ数年で急速に立ち上がった市場で、きっかけは2006年にNVIDIAが発表した開発支援環境「CUDA」だ。汎用化されたGPUを利用して計算を高速処理し、システム全体でより高い計算能力を得ようと試みている。コンシューマ向けPCでも、動画編集や画像処理などで能力を発揮するが、特にスーパーコンピュータによるハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)分野での活用が期待されており、こうした技術トレンドや成果を共有するために情報交換を行うのがGTCの主目的となる。

 なお、GTCはNVIDIAの本拠地である米国を中心に世界中で開催されており、2012年5月には3回目となるGTCを米国のサンノゼで開催する予定だ。今回のGTC Asia 2011は中国本土では初の開催であり、中国のユーザーや開発者らに対してGPUコンピューティングのメリットを伝え、積極的な活用を呼びかけるの場でもある。

 開催地となった北京に隣接する天津市では、NVIDIAのGPUを搭載して世界のスーパーコンピュータランキング「TOP 500」のトップになった「天河一号」を設置するデータセンターがある(2011年12月現在は、日本の「京」に次ぐ2位で、名称も「天河一号A」となっている)。

 参加者が1500名と、特定分野を扱う企業のプライベートカンファレンスとしては多く、若い技術者を会場で見かけるなど、ほかのITカンファレンスとは異なる雰囲気に包まれていた。

 初日には、NVIDIA共同創業者 兼 CEOのジェン・スン・ファン氏が基調講演を行っており、GPUコンピューティングを取り巻く近況やNVIDIAの将来の指針について語っている。

北京で行われたGTC Asia会場の国家会議中心(写真=左)と基調講演会場(写真=右)。欧米のIT関連イベントと違うのは、学生らしき来場者が多数いるなど、参加者の年齢が若いことが挙げられる。先進国では成熟期に入ったIT関連産業が若手の人気就職先から外れつつあるなか、中国では依然としてITが人気分野であることを実感する

NVIDIAの技術を中国発展の礎に

 コンピュータグラフィックスの分野が、過去10〜20年で急速に進化してきたように、いわゆる「GPGPU」(General Purpose GPU)で知られるGPUコンピューティングの市場も急速に拡大しつつある。ファン氏によれば、現在のディスクリート(外付け)GPUの市場規模は45億ドルで、GPUコンピューティングの市場はこのうちの2億ドル程度だがその成長率は高く、今後急速に金額シェアを拡大していくことになるという。

 今回、初の中国開催ということもあり、ファン氏は中国でのGPU利用とそれに関連した将来性について触れている。デスクトップPCからノートPC、さらにスマートフォンやタブレットといったモバイルデバイス、そしてゲーム専用機など、先進国でGPUのパーソナルユースにおける応用分野は広がっているが、中国におけるGPUの主な利用シーンは依然としてデスクトップを中心としたPCだ。

 ファン氏によれば、中国本土には160以上の「アイカフェ」と呼ばれるインターネットカフェがあり、米国でいうスターバックスカフェのような場になっているという。そこでは、ハイスペックなPCとインターネットが整備されており、ゲームに興じるユーザーも多い。ここで利用されているPCの9割で、NVIDIAのGPUが採用されている。また、成熟市場になった欧米と異なり、中国のPC市場は今も成長中だ。街には“ITモール”と呼ばれる電脳デパートがあり、ユーザーは自分でシステム構成を選び、目の前でPCを組んでもらうというスタイルが広がっているという。

 ファン氏のメッセージの1つが、これまで中国は世界の工場として生産委託の拠点として発展してきたが、これからは自らが製品をデザインして世界へ輸出し、かつ、自らが製品の消費地として機能する発展の礎になってほしいという点だ。必要なコンピュータ処理能力をNVIDIAのソリューションを活用することで、発展に役立ててほしいと中国の聴衆に訴える。

 台湾出身のファン氏だが、米国育ちのため英語が母国語となっている。しかし、ファン氏は基調講演でも記者会見でも覚えたての中国語を駆使して中国のユーザーやメディアにアピールする。それだけに、中国市場にかけるNVIDIAの意気込みが伝わってくる。

NVIDIA共同創業者 兼 CEOのジェン・スン・ファン氏。本人は台湾出身だが、米国育ちで英語ネイティブだ。そのため「ここに来る前に練習してきた」と前置きした中国語のスピーチで会場を沸かせた(写真=左)。ディスクリート(外付け)のGPU市場は年間45億ドルの規模で、ワークステーション市場の12億ドルのうち約2億ドルが「GPGPU」といわれるGPUコンピューティングの市場規模となる。過去4年間の年平均成長率(CAGR)が166パーセントと急速に拡大している(写真=右)

コンピュータ文化は国によって大きく異なる。中国では「アイカフェ」と呼ばれるインターネットカフェが全国に160以上あり、米国でいうスターバックスコーヒーのような社交場になっている。ここにあるPCの9割がNVIDIAのGPUを搭載する(写真=左)。また、中国全土にITモールと呼ばれる電脳デパートがあり、DIY方式でPCを目の前で組んでもらって購入するスタイルが一般的だという(写真=右)

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