GPU発展の歴史を振り返るとき、ゲームとの関係は切っても切り離せない。現在ではゲームの表現力が大幅に向上し、主要なコンテンツメディアの1つとなっているとNVIDIAは説明する。例えば、1990年代に登場したバーチャファイターのように、単純なポリゴン表示と低いフレームレートで表現されていたゲームが、処理能力の向上とともにテクスチャを混ぜた高速描画が可能になった。
後に、プログラマブルシェーダの利用が広まり、こうしたポリゴン表示に描画効果を加えることが容易になる。そして現在、テッセレーションによる微妙な凹凸処理や微細なアニメーション表現、さらに、“ラジオシティ”と呼ばれる多方向光源処理など、より複雑な画像処理が可能になっている。プレレンダリングの動画でなくても、リアルタイムで映画のような画像表現が十分に可能になってきたのだ。
コンテンツメディアとしての重要度も高まってきており、例えば、ゲームと映画ソフトを比較したとき、発売日(映画なら封切り)から5日間での販売額で、ゲームが映画を上回る結果が出ているという。また、市場調査企業のPwCによる最新予測で、ゲームの市場規模はすでに音楽メディアを抜いており、今後、縮小を続ける新聞や雑誌といったメディアを抜くことになるというデータもある。
こうした比較が正しいかは微妙だが、市場規模の大きさはユーザーがそれだけお金や時間を費やしている指標であり、将来性があるということを意味する。最近では、GPGPUやモバイルデバイスが注目されがちなNVIDIAだが、引き続きデスクトップPCやノートPCにもコミットしていくことを再確認している。
ゲームもさることながら、GPUの進化がその業務スタイルを大きく変えた分野の1つにワークステーションがある。少し前であれば、大企業のデザインセンターにスーパーコンピュータを設置して、この貴重で高価なマシンを複数のユーザーがタイムシェアリングで利用していた。この利用形態では、デザインからテストまでのプロセスで長い時間を必要とし、こうしたコンピュータ処理能力が開発のボトルネックになっていた。現在、一昔前のスーパーコンピュータの性能が小型のタワーマシン1台で賄えるようになり、作業時間は短縮されつつある。
ファン氏によれば、こうしたプロフェッショナルユースにおける現象を関係者は「ITのコンシューマ化」と呼んでいる。かつてのPCがそうであったように、GPUによってワークステーション分野でも同様の現象が10年前に起こり、作業スタイルが変わったのだという。1980年代にSGIがジオメトリエンジンを搭載したワークステーションを発表して、デザインワークステーションの分野が確立したが、ここからさらにNVIDIAがプログラマブルシェーディングの道を切り開いている。このときから、ワークステーションで行う作業が、デザインを中心としたものから“スタイリング”を中心とする、より開発最終形に近いデザインフローとして確立した。
また、従来までは作業者が個別で使う端末で製品デザインを行い、空気抵抗や衝突テストなどのシミュレーションをスーパーコンピュータなどで数週間を要して実行していた。NVIDIAは先日、プロフェッショナル向けGPUソリューションのQuadroと、GPGPU向けのTeslaを組み合わせたワークステーション技術「Maximus Technology」を発表しているが、Maximusを利用することで、こうした工程を1台のワークステーションでインタラクティブに行えるようになりつつあるという。
ファン氏によれば、“Maximus”とはワークステーションにスーパーコンピュータの技術を持ち込む仕組みだと説明する。さらに、数年前まで複数のマシンを組み合わせたクラスタ上で行われていた処理が、そのままデスクトップ上で可能になる変化を、Huang氏は「“Wait”stationからより高速なWorkstation」と表現している。
基調講演では、デザイン工程から、リアルタイム・レンダリングを行ったりシミュレーションを行ったりする作業を紹介している。例えば、AutodeskのInventorを使った例では、デザインしているハーレーダビッドソンのバイクでカラーリングを変更し、その結果を背景や光源を交えたリアルタイム・レンダリングで確認できることを示した。また、複雑な地形での流体シミュレーションでは、シミュレーション中にデザインパーツを動かしても、流体の動きがリアルタイムに変化する。これは、グラフィック処理能力だけでなく、TeslaのGPGPU部分を計算に用いて高速処理が可能になることで実現したという。
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