5年目を迎えたiOSが、再び新しい未来を描き出すWWDC 2012現地リポート(2/3 ページ)

» 2012年06月13日 12時22分 公開
[林信行,ITmedia]

パスブックはiPhone流おサイフケータイ機能か

さまざまな電子チケットを管理する「パスブック」

 未来へのインスピレーションが湧いた2つ目の新機能は「パスブック」だ。日本では“おサイフケータイ”が大成功してしまったため、携帯電話を使った決済方法というと、このおサイフケータイやSUICA、PASMOなどFeliCaの技術を使ったもの以外はほとんど見かけない。一方の米国では、NFCが普及したとはいえ、こうした電子決済はほとんど使われていないのが現状だ。その代わりに、QRコードなどを使ったもっと原始的な電子決済方法が最近になって流行りだしている。

 例えばスターバックスコーヒーでは、アプリにあらかじめクレジットカードの番号を登録しておき、店に向かう前にアプリケーションでオーダーする。すると画面にバーコードのような模様が表示されるので、レジでこれをスキャンしてもらえば、本人だと認められて頼んだコーヒーを受け取ることができる。また、(これは日本でもそうだが)航空会社の航空券やボーディングパスも、最近では携帯画面に表示されるQRコードを使うことが増えてきた。

 ただし、これまでそうした電子チケットは、各社がバラバラにアプリケーション化したり、Webページとして提供していたため、間違えてページを閉じてしまったりすると、再びそのチケットを表示するのに苦労することも多かった。そこでアップルは「パスブック」という電子券を収納しておく専用の機能をiOSに用意した。

 基調講演のデモでは、Apple Storeで使える金券、TARGETという大型量販店の割り引きクーポン、Wホテルのエクスプレスチェックイン会員券、Fandangoというサービスで買った映画の入場券、そしてユナイテッド航空の航空券がパスブックに表示された。すべてのチケットが整理され、例えば金券の類いは使用すると、きちんと残高が減るようになっている。飛行機の往復チケットは左右のスワイプ操作で切り替え表示ができる、といった具合で、日本のお財布ケータイとはまったく別の形ではあるが、これはこれで有望な未来のお財布に見えてきた(ちなみに、これらの事例はいずれも実際にアプリケーションを開発中のようだ)。これを使えば、いつも通っているスターバックスコーヒーに近づくと自動的に「通知」でスターバックスの券が表示され、搭乗予定の飛行機の発着ゲートが変われば自動的にボーディングパスが更新されて通知が表示される、といった連携が行えるようになる。

 日本でも航空会社がiPhone用のアプリケーションでQRコードのボーディングパスを発行しているが(実際、筆者は今回その方法で搭乗した)、たまに操作を誤ってアプリケーションが切り替わってしまい、表示したいページの再読み込みが始まってしまうことがある。しかもそういうときに限って電波が入らず、自分の後ろに長い行列ができてしまった、という苦い経験をしたことがある人は少なくないだろう(このため筆者は、同じチケットのスクリーンショットも撮っておき、いざというときはフォトアルバムからQRコードだけでもすぐに表示できるようにしている)。

 だがこんな悩みも「パスブック」が広まれば不要になるかもしれない。それどころか、今おサイフケータイにできていることで、「パスブック」にできないことはあるのかと考えると、なかなか思いつかない。もちろん、バーコードやQRコードよりは、FelicaやNFCのほうが先進的な技術ではあるが、アップルはそうした技術が普及する土壌の整っていない欧米でいきなりNFCを採用するよりも、まずは1度、このパスブックを通して携帯電話で決済する文化に慣れさせておこうと考えているのかもしれない。そしてもう少し時間が経ち、NFCがFelica並みに使いやすくなって初めて、「パスブック」の進化バージョンとしての“おサイフ機能”をiPhoneに採用するのではないか、そんな印象を持った。

Guided Accessでサイネージとしての可能性に火がつく

シングルアプリモードで動作する機能が加わった「Guided Access」

 筆者にインスピレーションを与えてくれた3つ目の機能は「Guided Access」だ。本来はさまざまな障害を抱える人を支援するための機能の総称で、iOS機器は以前からタッチ操作が主体ながら、目が不自由で画面が見えない人でも簡単に操作ができる仕組みを取り入れたりしていた。今回、「Guided Access」に新しく追加されたのは「Single App Mode」と呼ばれる、iPadのホームボタンや選択したボタン類を操作不能にする機能だ。これは本来、自閉症の子どもたちがiPadなどのボタンを誤って押してアプリが終了してしまうのを防ぐためのもの。

 だが、これこそ実はiPadの導入を検討する多くの店舗が待ち望んでいた機能かもしれない。iPadを店頭の小型サイネージや受付代わりに使おうという企業は、日本をはじめ、世界中にたくさんある。しかし、これまではそうしたアプリケーションを用意しても、常に客がホームボタンを押してアプリケーションを終了してしまう問題があった。そのため、こうした用途では、ホームボタンを隠せるケースにiPadを収納して対応することが多い。

 しかし、この「Single App Mode」を使えば、ホームボタンを無効にして、iPadを簡単にサイネージ代わりにできる。アップルも、こうした本来の目的以外の可能性が多々あることは認めているようで、例えば電子教育の現場で試験用のアプリケーションと、この機能を組み合わせる提案をしていた。

 

さらに進化を遂げたSiri

iPhoneの代表的な機能の1つとなったSiriもiOS 6で強化される

Siriも大幅に進化した。日本のユーザー的にうれしいのは、ついにビジネス情報に対応したことだ。つまり、「おいしいイタリアンレストランに行きたい」と聞けば、GPSを使って現在地周辺のイタリアンレストランを教えてくれる(はずだ)。米国では「タイヤがパンクした」で、ロードサービスの電話番号が出てくるといった具合に、シチュエーションとビジネスのマッチングが非常にうまくプログラムされているが、日本でどの程度、自然なやりとりが実現できるかが気になるところだろう。

 もう1つSiriで便利だと思ったのは、声でアプリケーションを起動できるようになることだ。ホーム画面がアイコンで埋め尽くされるくらい、たくさんアプリケーションを持っていると、目的のアイコンを探すだけでも苦労する。そんなとき、Siriに頼めば一発で起動してくれるのだ。また。ツイッターのつぶやきも、音声認識機能との組み合わせで、キーボードを使わずにSiriから直接つぶやけるようになった。

 しかし、ことSiriにかんしては、米国版の機能が2歩も3歩も先を行っていてとてもうらやましい。iOS 6では、新たにスポーツ系の情報に対応し、現在のスコアから次の試合の予定、過去の対戦成績から、選手の慎重の比較といったことにまでSiriが答えてくれるようになった。それに加えて、レストラン選びではYelpというサービスの評価を参考に、おいしい店を勧めてくれ、Open Tableというアプリケーションとの連携で、テーブルの予約までできるようになった。また、映画の情報にも対応し、映画館単位で上映中の映画を表示してくれる。2011年10月のiPhone 4SとともにデビューしたSiriは、まだ登場から8カ月の機能だが、今や米国ではすっかりiPhoneの顔とも言える重要な機能になっているのだ。

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