5年目を迎えたiOSが、再び新しい未来を描き出すWWDC 2012現地リポート(3/3 ページ)

» 2012年06月13日 12時22分 公開
[林信行,ITmedia]
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利用シーンが思い浮かぶ、気の利いた改善

 もちろん、iOS 6の新機能はこれだけではない。インスピレーションまではくれなくても、かゆいところに手が届く「そうそう、それを待っていた」と思うような機能も満載だ。

 例えば電話機能。これまで会議中に電話がかかってくると、上のボタンを押して着信拒否をし、後で留守番電話に回すしかなかったが、iOS 6では「メッセージで返信する」と「後で思い出させる」の2つのボタンで対処できる。

 前者を選ぶと、ボタンを押すだけで「後でかけなおします」などのあらかじめ用意されたメッセージを送ることができる。後者を選ぶと、1時間後の通知のほか、「今いる場所を離れたら通知する」など、いくつか通知のタイミングにかんするオプションが表示される。

 「Do Not Disturb(起こさないでください)」モードも面白い。夜中などに電話やメッセージの音で起こされるのを防ぐように、時間を決めて音がならないようにできる機能だが、家族など大事な相手からの電話だけは着信音を鳴らすようにしたり、相手がしつこく何度も電話かけてきた場合は、自動的にモードを解除する、といった気配り細かな設計になっている。

 iCloudのフォトストリーム機能では、好きな写真を選んで友だちにプッシュ送信するシェアードフォトストリーム機能が搭載され、子どもの日々の成長を遠くの親戚に毎日送ったり、旅行中の様子を日本の家族に伝えるのも楽になった。

電話に出られない状況で不意に電話がかかってきても、1プッシュで相手に状況を通知し、その後の対応を決められる(写真=左)。「Do Not Disturb」では、相手によって着信音を鳴らすなど細かく設定できる(写真=中央)。写真を知り合いにプッシュするシェアードフォトストリーム機能(写真=右)

 Safariでは冒頭でも紹介したリーディングリスト(オフライン化して電波がなくても読める機能)のほか、アクセスしたWebサービスにiPhone用アプリケーションがある場合は、そのアプリをダウンロードするように促す「Smart app banner」という機能や、iPhoneの紛失時に簡単な操作で「ここをタップして私に連絡をください」というメッセージを送る機能が搭載され、iPadには時計アプリケーションが加わった。

オフラインでWebサイトを閲覧するための「リーディングリスト」(写真=左)や「Smart app banner」(写真=中央)も便利。iOS 6ではFacebookも標準サポートされる(写真=右)

 いずれもただの思いつきで追加された機能ではなく、実際に日々iPhoneを使い込んでいる人々が、どういった利用シーンでそのアイデアを思いついたのかなんとなく想像できるものばかりだ。基調講演に耳を傾ける5300人の開発者たちも、新しい機能が紹介されるたびに「Yes」とか「そのやり方はものすごく正しい」と、自分の利用シーンに照らし合わせながら評価し、歓声をあげていた。筆者はこれこそがiOSプラットフォームの強みだと思っている。

 たとえ同じプラットフォームでも、操作画面などがバラバラだと、みんなで一緒に素晴らしい体験を作っていこうとする開発者と、プラットフォーム提供者との一体感が生まれにくいと感じる。

 iOSの1つ1つの機能は、その詳細に至るまで、ユーザーの、そして開発者たちにとっての大事な「私事」なのだ。しかも、こうした機能の多くが(ナビゲーションにかんしては賛否両論分かれそうだが)あまりアップルの側でやり過ぎず、他社が提供された機能を基盤に、次の新しい生活、次の新しい風景を描き出すアプリケーション作りの中立な土台になっていることも、開発者らがiOSを「私事」のプラットフォームと捉えて取り組みやすい要因の1つになっているのではないだろうか。

世界を変え続ける3億6500万台規模のプラットフォーム

 新機能を1つ聞くたびに利用シーンが目に浮かぶiOSだが、なかなか想像しづらいのはその規模の大きさだ。iOS担当上級副社長のスコット・フォースタル氏は、iOS機器のユーザーが2012年3月末時点で3億6500万に達したと紹介した(しかも、なかなかアップグレードが進まないほかのプラットフォームと違い、大半が最新のiOS 5を使っているという)。

 iMessageを利用する人だけでも日本の人口を上回る1億4000万人もいて、これまで1500億のメッセージが交わされた(1日あたり10億メッセージだ)。TwitterがOS標準で搭載されたことで、iOSユーザーの間でTwitterを利用する人が3倍に増え、これまで100億のつぶやきがiOSから行われた。現在、ツイッターに投稿される写真のうち47%はiOSの標準機能で投稿されたものだという。

 ここまで影響力が大きいとなると、新たにiOS 6で標準サポートされるFacebookとしてもiOSによる後押しに期待するところが大きいのではないだろうか。また、Facebookに対応したことで、ランキング外のアプリケーションを知る機会が少ないAppStoreやiTunesにとっても、大きな変化をもたらしそうだ。

 ティム・クックCEOによれば、このiOSプラットフォームに提供されているアプリケーションはすでに65万本以上も存在し、iPad専用に作られたものだけで22万5000本に達するという。iTunes/App Storeのアカウントを持つユーザーは世界に4億人いて、アプリケーションのダウンロード本数は300億本を数え、開発者に支払われた金額は50億ドルを超えた。

 その登場からわずか5年間で、あらゆる業界、あらゆるジェネレーションに大きな革命をもたらしてきたiOSプラットフォームは、この秋リリースされるiOS 6によって、さらに大きく世界を変えていくことになりそうだ。

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