アップルは2月16日、Macの次期OS「OS X Mountain Lion」を2012年の夏ごろにリリースすることを発表した。前バージョンのOS X Lion(2011年7月発売)から約1年という短期間でのメジャーアップデートとなる。
同OSはMac App Storeを通してのみ配布される有料アップデートになる予定だが、価格などの詳細は、もう少し時期が近づいてきてから発表となる予定だ。
新バージョン、OS X Mountain Lionは合計で100ほどの新機能を搭載することが分かっているが、今回明らかになったのは、そのうち10個だけ。そのいずれもが前バージョンのOS X Lionと同じ方向性、つまり、今やアップルどころかIT業界全体をけん引し始めているiPhone、iPad、iPod touchといったiOS機器ならではの使い勝手のよさを、Macという歴史の蓄積のあるパソコンに取り入れ、ポストPC時代ならではのパソコンの在り方を再定義しているのが、今のアップルMacチームなのかもしれない。
10の機能の詳細は、アップルの公式ホームページや他の記事に譲るとして、簡単に解説すると
など、ほとんどがiOS 5の目玉機能となっている。
iCloud対応は、すでに現行のOS X Lionでも実現していたのでは? と思う人もいるかもしれないが、実はOS X Lionがリリースされたのは2011年7月20日。これに対してiOS 5がリリースされ、iCloudが始動したのは、それよりも2カ月ほど遅い10月4日。つまり、OS X Lionがリリースされた時点では、まだiCloudも稼働しておらず、iMessageなどの機能も、どれだけ受け入れられるか分からなかった。
しかし、ふたを開けてみると、iOS 5の新機能はいずれも大成功を収めた。iCloud、iMessage、Game Centerのいずれも1億人を超すユーザーが登録し、愛用している。iMessageでは260億以上のメッセージが交換された、一時はゲームメーカー側でソーシャル化技術を独自開発しようという流れが強まっていた中、Game Centerに対応したゲームも徐々に数を増やし、既に2万本を突破した。
つまるところ、こうした今やiOS機器の魅力をけん引するまでになった人気機能を、再び「Back to the Mac」、つまりMacに還元するのが、今回のOS X Mountain Lionだといえるだろう。
そう考えると、今後はiOSに合わせて、Mac用のOSもほぼ毎年更新くらいのサイクルに入るのかもしれない。
いずれにせよ、それまでのMac OS Xの流れに一度、「待った」をかけ、まったく新しい方向性を打ち出したのが、前バージョンのOS X Lionだったが、次バージョンのOS X Mountain Lionは「やはり、この方向であっていた」と、新しいOSの方向性に向かって思いっきりアクセルを踏み込むようなリリース。「ちょうど人気が絶好調のMacをさらに魅力向上させ、一気に他を畳み掛ける」という号令のようなOSだといえるのかもしれない。
ここで最近のMacの人気ぶりを簡単に振り返ってみよう。現在、Macは世界的に絶好調となっている。
アップルによれば、2011年第4四半期におけるMacの出荷台数は過去最高の520万台に達した。これは対前年比で26%増。これに対してIDCが発表したパソコン市場全体の売り上げの伸び率は0%。Macだけが圧倒的に売れている状態なのだ。ちなみにMacの出荷台数がパソコン市場平均を上回るという状態は、既に23四半期、約6年弱にわたって続いている。今やMacの累計出荷台数はこれで約6300万台にまで達した。
この「Mac絶好調」の直接の原因は、超薄型ノートパソコンのトレンドも生み出した「MacBook Air」の絶大な人気だ。
しかし、その追い風になっているのは、驚異的な売り上げを記録したiPhone(関連記事:Apple、メーカー別世界スマートフォン市場で首位に――Gartner調べ)や毎日のように新しい活用事例が生み出され続けているiPadのとてつもない成功で、「アップル」のブランドそのものが向上したことだろう。
Macが売れているといっても、昨四半期で520万台という数字は、同じ四半期に売れたiPhoneの3704万台やiPadの1543万台という台数と比べるとかなり小さい。
ただ、最近になってMacを買った人の多くがiPodやiPhone、iPadでアップルブランドに親しみ、どうせこれらの機器と連携させるなら、Windowsよりも、同じアップルブランドのものを、という理由でMacを選んでいることを考えると、MacのOSをさらにiOSの操作性や見た目に近づけ、連携を強化することは、今後さらにMac利用者を増やすうえでも正しい戦略に思える。
いや、ビジネスの視点でなくても、iOS機器とMacの両方を所有するユーザーの視点に立っても、Macで作業をしていた書類を、書き出しなどの操作を一切せずに、次の瞬間からそのままiPhone、iPadで参照できることの利便性は計りしれないものがある。
それだけではない。「リマインダー」や「メモ」、「Game Center」といった機能にしても、iOS機器とMacの両方で使えるようになることで、ますますユーザーが増加し、これまで使っていたユーザーの利用頻度も増えることだろう。
今やアップルはスマートフォン、タブレット、そしてパソコンの3分野を制し、売れ行きでも、顧客満足度でも圧倒的ナンバー1の地位を築いた。
もちろん、それに負けじと他メーカーも奮闘をしており、最近では「iPhoneに迫る使いやすさ」と評されるスマートフォンも増えてきたし、MacBook Air並みに薄い「Ultrabook」のノートパソコンも増えてきた。
それらが実際に、いいか悪いかは主観で分かれるところなので議論は難しいが、これら3機種を単体としてみず、例えばオフィスや家でじっくり作業するときにはノートパソコン、ちょっとリラックスしてソファで寝転びながら書類を読み返すにはタブレット、そして移動中の電車の中ではスマートフォンといった具合に機器を連携させて使うのが、これからの時代のライフスタイルになるのだとしたら、アップル製品同士の連携のしやすさは、他のどのパソコン、タブレット、スマートフォンの組み合わせをもはるかにしのぐものになる。
そう考えると、単体製品で他社がアップルに追いつくことが、万が一にあったとしても、トータルでのユーザー体験でアップルに近づくための道のりは、まだまだ長そうに思え、他のメーカーになんとか追いつく術はないのかと心配にすらなってくる。
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