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» 2012年12月04日 12時04分 公開

Euromold現地リポート(1):映画産業から医療分野まで急浸透――話題の3Dプリンタ最新動向 (2/3)

[林信行,ITmedia]

マイクロソフト「Surface」の開発にも3Dプリンタが活躍

 ライス氏は3Dプリンティングが製造業にどのような影響を与えると考えているのか。同氏は「ここ十数年を振り返っても、3Dプリンティングはハイテク業界の製品開発を加速してきた」と語る。

 実際、Euromoldの会場を歩き、ほかのメーカーの人の話を聞いても、「3Dプリンタは製品のコンセプトを短時間に実際に手で触れられる形にするための新しいコミュニケーションのツールであり、これを導入することで製品開発にかかっていたコストや時間が大幅に圧縮できる」といいうことを繰り返し耳にした。

 特に最近ではデザイン品質的にも優れた製品が極めて短期間で製品化され市場で発売されている。

 ライス氏は、その最新の事例の1つとしてマイクロソフトのWindows端末「Surface」を挙げた。マイクロソフトは、このSurfaceの開発ビデオを公開しているが、その中で同製品担当のジェネラル・マネージャー、Panos Panay氏が製品の開発に当たって300個近いプロトタイプを作ったと語っており、同じビデオの中にObjetの3Dプリンタが写っていると指摘する。ちなみにPanay氏は同じビデオの中で「この製品の開発では一切の事故が起きなかった」もと語っている。

急成長する3Dプリンタ市場

3Dプリンタ市場は、2009年ごろから急激に成長し始めている。ちなみにこのグラフには最近、急速に増えている個人用の卓上型3Dプリンタは含まれていない

 続いてライス氏は、3Dプリンティング市場の成長についても言及した。紹介したグラフは最近、話題になっている個人用3Dプリンタは除き、Objetが得意とする業務用システムだけに絞ったものだが、2009年ごろから急激に伸び、しかも加速していることが分かる。

 業界のエキスパートであるTeri Willis氏は、3Dプリンタ市場が2019年までには60億ドル規模、現在の3.5倍ほどまでに成長すると予想している。当然、新規参入する企業も多く、この3年ほどの間に25社ほどが新規参入。金属を使ったプリンティング技術を持つ会社など、新しいプリンティング方法を提示する会社もあれば、歯科関係に特化した会社なども増えているようだが、一方で競争の激化で小さな会社が大きな会社と戦うのが難しくなってきているのが最近の状況だという。なお、ここ18〜24カ月の間に、ベンチャーキャピタリストらが3Dプリンティング市場へ本格的な投資を始めているようだ。

 だが、3Dプリンティング市場において、なんといっても無視できない大きなトレンドといえば、メディアの注目だろう。ライス氏がObjetのCEOになったのは4年前で、合計11年ほどこの業界にいるが、かつて3Dプリンタが主要雑誌に注目されることはほとんどなかったという。しかし、最近ではテレビのニュースやニュース雑誌、経済誌が、ほぼ毎日のように3Dプリンティングの技術を取りあげている。

ライス氏はこれから2019年にかけて3Dプリンタ市場は3倍近い60億ドル市場に急成長を占めるが、個人用プリンタの市場は、ビジネスとしてはそれほど膨らまないと予想している

 この過剰な注目にはいいところも悪いところもあるが、この注目のおかげで3Dプリンティング市場に大きな資金が流れ込み、イノベーションのスピードが加速しているのはいいことだろう、とライス氏は語る。

この突然の注目の一因となっているのが、「フリー」などのベストセラー書を書いてきたクリス・アンダーソン氏の新刊「MAKERS」に代表される個人用3Dプリンタの普及だろう。アンダーソン氏は個人用3Dプリンタの普及によって、これからは「パーソナルファブリケーション」、つまり個人が自分で欲しいものを作る時代がやってくると予想しており、現在、日本をはじめ世界中のそこかしこに個人が自作の3Dデータを持ち込んで3Dプリンタなどが利用できる施設が増えている。

 ただ、ライス氏がこうした動きについてあまり語らないのは、ObjetがB2Bを主眼に置きプロのデザイナーやクリエイター向けの製品しか作っていないないからだ。同社の3Dプリンタシリーズは、同社が知的所有権を持つインクジェットによる3Dプリンティングのおかげで、業界でもトップクラスの細密な造形ができることや、広いバリエーションから素材を選べること、複数素材を混ぜて造形できることなどを強みとしており、そうした基本要素を全製品で提供しよう、というスタンスを貫いている。コンシューマー用とは言え、基本機能を欠いた製品を提供することは3Dプリンティングの業界にとってマイナスになる、というスタンスだ。

 「MAKERSムーブメントに乗らないのか?」という記者からの質問に対しても、ライス氏は「現在のコンシューマー用3Dプリンタは、確かに台数はたくさん出ているが、ビジネスとしてはまだ利益を生み出していない。3Dプリンタの認知度を高め、さまざまなニッチな要求を埋めることには貢献しているが、現在Objetが目指している方向性とは異なる。いずれはそうした市場に対応するニーズも出てくるかもしれないが、今はまだその時を見計らっているところだ」と語っている。

 Objetはライバルの3DSystemsとともにインクジェットの技術を立体物に応用する知的財産を所有しており、これにより両社のプリンタは他社の3Dプリンタと比べても精密な出力が可能だ。さらにObjetの3Dプリンタは業界の中でも最多の125種類近い素材を選べ、それらの素材を混合出力して造形する「マルチマテリアルプリンティング」にも対応していることから、最終製品に近い手触りの再現などができることを強みにしている。現在の顧客層もObjetというブランドにこうした特性を期待しているところがあるので、基準を下げたくないということだろう。

 もっとも、3D業界のプロも家に帰ればコンシューマーである。会場に出展されていた個人用3Dプリンタの人気と勢いには目を見張るものがある。会場ではライバルの、3DSystemsが発売する個人用3Dプリンタ「Cube」が特価で発売され、2日目の夜には売り切れになっていた。もしかしたら、ObjetもStratasysとの合併後は、遠くないうちに個人市場に何らかの策を講じざるを得なくなるのではないかとも思える。

ホール11の入り口近くで売っていた10万円台の個人用3Dプリンタ「Cube」。飛ぶような勢いで売れていた。こうした個人用3DプリンタのメーカーはEuromoldよりは1月のCES(国際家電ショー)のほうに力を入れているようだ

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