オーブンで焼くこと25分、香ばしい香りとともに、こんがり焼けたカボチャパイが姿を現した。
「あれ、意外とイケてる・・・・・・」
卵黄が程よい焦げ目を作り、表面に食欲をそそる光沢を与えている。初めてにしてはなかなかの出来栄えだ。右上の物体はもはやどちらが上でどちらか下かすら分からなくなってしまったが、自分が生み出したと思うとなんだか愛着もわいてきた。
おなかもすいてきたことだし、いざ実食! といきたいところだが、実は最近過食気味なのが気になっている。ストレスによる食べ過ぎに加えて、食生活も不規則だ。ここでいかにもカロリー高めなパイをペロリと食べてしまうのも気が引ける。何かこの罪悪感を消し去る方法はないだろうか。重量計付きマウスを見ていると、ある考えが浮かんだ。
「働いた時間の分だけ、パイを食べていい」
何を言っているか分からないだろうが、「10分働いたら、10グラムのパイを食べられる」という制限を設ければ少しは罪悪感も薄れるのではないかという発想だ。囲碁や将棋の棋士は1回の対局で2〜3キロ減量するという話があるくらい、脳を使うとカロリーを消費するという。しかも、ご褒美があるので働くモチベーションも上がり一石二鳥である。
重量計内蔵マウスを片手に、ひとまず5分働いてみた。コウモリらしき物体がちょうど5グラムだったので、実食。うん、中身を入れてないので味がない。そもそも、食べた気がしない。スパンが短めだが、今度は10分のデスクワークならぬ床ワークを開始。10グラムを計量し、ようやくカボチャ部分にありつけた。
底部のパイシートが若干生焼けだったが、具の部分は相当イケている。なんだ、やればできるじゃん。「計量が完ぺきならば、完成物もおいしい」というのは、その通りらしい。マウスという無機質な存在から、お菓子を作るという女子っぽい成功体験を得られる日が来るとは思わなかった。20代半ばにして、ガジェットの奥深さを知る。
女子力は発揮できた。次は作る相手だ。マウス片手に再びキッチンへ・・・・・・立つ日もきっと来るはずである。将来の王子様、カモーン。
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