かつて2012年10月にWindows 8がリリースされた際、Microsoftは「1366×768ピクセル」解像度のディスプレイを持つ製品を普及価格帯、「1920×1080(もしくは1920×1200)ピクセル」解像度の製品をハイエンドと位置付けていたというのが、ずっと同社のWindows 8戦略をウォッチしてきた筆者の印象だ。
これは同社が公開していた資料やパートナー各社の製品戦略からうかがえ、実際に前者が「Surface RT」、後者は「Surface Pro」という形で体現されている。おそらく、MicrosoftとOEM各社ともに「Windows 8の発売時期にはこれくらいの製品バランスが適当だろう」と判断していたのだと思われる。
だが、世の中の進化というのは想定を常に裏切るものだ。タブレットでは高解像度・高画素密度の「Retinaディスプレイ」を採用した第3世代の「iPad」が2012年3月にAppleからリリースされ、同社はさらにノートPC製品ラインとして「MacBook Pro」のRetina対応モデルを同年夏と秋に次々と市場投入してきた。
一部には「コストが高い」「バッテリー駆動時間が悪化する」といった理由から、こうしたppi(pixels per inch)が極端に高いディスプレイの採用に否定的な意見はあったものの、結果としてこのRetinaディスプレイは市場へと受け入れられ、今日に見られるように高ppiのディスプレイがごく当たり前という現状を作り出している。
Microsoftを含め、市場関係者の多くが、ここまで一気に高ppiのディスプレイが市場に広がると予測はしていなかっただろう。それは初代Windows 8の仕様を見ても分かる。
以下のグラフは、Windows XP以降におけるWindows OSのスケーリング設定(拡大表示設定)の変革を示したものだ。
ディスプレイ解像度の向上、画素密度の向上とともに、固定ピクセル(100%)の表示ではアイコンや文字のサイズがどんどん小さくなり、視認性や操作性の面で使い勝手が悪くなってしまう。
筆者の場合、デスクトップ環境では24型のフルHD液晶ディスプレイ(92ppi)を使っているが、こちらは100%のスケーリング、10.6型のSurface Pro(207ppi)では150%のスケーリングで設定している(どちらもデフォルト)。つまり、Surface Proでは実際のディスプレイ解像度に対して、アイコンや文字が1.5倍大きく表示されるわけだ。
文字やアイコンはそこそこのサイズがあったほうがいいと思っているが、Microsoft純正WindowsタブレットのSurface Proで150%のスケーリングがデフォルトに設定されていることからも、Microsoft自身これが適切だと考えているのだろう。
Windows Vista/7の頃はXGA(1024×768ピクセル)を上回る解像度のノートPCやフルHDのディスプレイが広く出回り始めた時期でもあり、標準のスケーリングとして125%や150%の設定が追加されたと考えられる。
一方、Windows 8では、Windows 7と同じ150%となっており、これはつまり「Microsoftはこの時点ではディスプレイ事情に大きな変化はないだろう」と想定していたのではないだろうか。
しかし、Windows 8.1 Updateが提供されるまでの1年半の間に200%と250%のスケーリングが次々と追加され、この想定が実情とズレていたことを認識し、急きょ修正を行っていたことがうかがえる。そして今、Microsoftは250%のスケーリングを超える、より高いppiのディスプレイも視野に入れ始めた。
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