八木氏によると『STAND BY ME ドラえもん』の制作期間はおよそ3年半、企画段階から数えるとおよそ4年かかっているという。3年半の制作のうち、はじめのおよそ1年半は「アセット作り」に費やしたという。「アセット」とは、映画に登場するキャラクター、小物、公園や町並みなどのいわば映画に登場する素材だ。キャラクターは大体の表情も作り込む。
並行してシナリオ、絵コンテ、アセットのレイアウトを決めていく。「素材が完成するころにはカットも大体決まっている。そこで、素材をいろいろならべてシーンを作っていく」(花房氏)という。
アセット作りで興味深かったのは「ドラえもん」が取り出すひみつ道具へのこだわりだ。花房氏は「ひみつ道具の質感にはこだわった。未来から来たものなので、質感を出すためとはいえ、汚しを入れると未来から来た感じがなくなってしまう。未来から来た感じを質感で出すために『未来の素材』をいろいろ模索した。例えば『未来プラスチック』とか、現実には存在しないものだけど、未来の家電メーカーが作ったらどうなるかといったことなどを考えた」という。
その結果、「サブサーフェイス・スキャタリング」という技術を多用することになったそうだ。この技術は「最近できた新しい技術で、表面だけちょっと透けているような質感を表現できる」(花房氏)ものだという。
つるつるしている道具も作ったため、映り込みに気をつけなければならないことも多かったという。例えば「すりこみたまご」というひみつ道具があるが、この表面はつるつるで、周囲の風景を映してしまう。このような映り込みも正確に再現しないと不自然になる。例えばシーンから外れたはずのキャラクターがつるつるの表面に映り込んでいることがある。その映り込みまで表現するために被写体ではないキャラクターの動きにかなり注意したという。
アセットを作るときはポリゴンで骨組みを作り、テクスチャを貼って質感を出す。鈴木氏によれば「ドラえもん」がおよそ29万ポリゴン、のび太くんはおよそ85万ポリゴンになるという。
さらに、のび太くんがよく遊ぶ空き地になると、空き地の中だけでおよそ1400万ポリゴン、周囲の民家も入れると3500万ポリゴンにもなるという。背景にキャラクターを置いた一般的なシーンでだいたい4000万ポリゴンに達するそうだ。
今回の『STAND BY ME ドラえもん』ではテクスチャにも驚くべきものを使っている。映画自体の解像度は2Kだが、テクスチャは4Kのものを使ったという。花房氏は「大きく拡大してもきれいに映る品質を保つには4Kのテクスチャが必要だった」と語る。「映画のポスターのために紙に出力してもそのまま使えるほどの品質」だという。ちなみに、のび太くんには61枚のテクスチャを貼り付けたそうだ。
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