アセットを作り、凝りに凝ったテクスチャを貼り、キャラクターを配置してカメラワークや光源の位置を決めて、最後に待っているのがレンダリング処理だ。今回はアセットの質感にこだわって未来的な質感を出したり、4Kのテクスチャを使ったりしたので、レンダリングには相当時間がかかったという。
先述の通り、レンダリングには250台のレンダリングサーバーを使用した。映画では1秒間に24枚の絵(フレーム)を作り、それを映していくのだが、こだわりの結果、さまざまな技術を多用したため、1フレームのレンダリングに最長で6時間かかったこともあるという。
鈴木氏によると『friends もののけ島のナキ』のときは、1フレーム当たりのレンダリング時間は12分を目安にしていたというが、今回の『STAND BY ME ドラえもん』では1フレームに1〜3時間かかるのは当たり前だったという。
『STAND BY ME ドラえもん』の上映時間は90分。計算すると90分で約13万フレーム必要になる。ただし、1カットに10フレームを合成するということもあるので、実際には120万フレームほどレンダリングしているという。数百フレームをまとめてレンダリングしたら、1週間かかったということもあるそうだ。
八木氏は『friends もののけ島のナキ』のころに比べると「できることが10倍くらいに増えた感じがする」と語る。『friends もののけ島のナキ』の時は3Dシーンを作るときに、2Dの絵を作ってそれを別の業者に依頼して3Dに変換してもらうという手法を使ったそうだ。『STAND BY ME ドラえもん』には20分ほど変換ではなく3Dで制作したシーンがある。今回はすべて右側と左側のカメラを作って、倍のレンダーを用意して撮影した。「その分、レンダリングに倍の時間がかかった」と笑うが、その表情には満足感が感じられた。
八木氏は「今回は髪の毛が動く様子や洋服のしわの動き、肌の自然な質感を出すことをやりたかった」と語る。『friends もののけ島のナキ』の時にできなかったことだ。「キャラクター全員がノースリーブの服を着ていて、服の素材もあまり動きがないように硬そうにした。演算量を減らさなければならなかったから」という。
今回は髪の毛1本1本計算して動かしているという。そして、タケコプターで空を飛んでいるときなどは、洋服が自然にバタつくように計算したそうだ。ただし、実際に空を飛ぶ様子を計算すると髪の毛はすべて後ろに反り返って、おでこがすべて見えてしまう。走るときなども、現実を追い求めると髪の毛が動きすぎてしまう。そこで、『ドラえもん』の世界を壊さないように、現実とは異なる結果だとしても、動かすべきでないところは動かさないようにしたという。これも1つのこだわりだろう。
「白組」のスタッフの話を聞いていて、印象的だったのは大変そうなことを楽しそうに語る様子だった。実際の制作のときには厳しい表情をしていたのかもしれないが、自分たちが達成したものに自信を持っているような様子が伺えた。
スタッフが今回の『STAND BY ME ドラえもん』でこだわった質感や映り込み、髪の毛の動きなどといった部分は実際の映画のストーリーに比べれば細かいことかもしれない。しかし、その細かい部分をおろそかにすると観客は違和感を感じるに違いない。今回のこだわりは演者に思い切って演じてもらうように、自然な舞台装置を用意したようなことなのかもしれない。舞台装置が自然だからこそ、観客は余計なことを考えずに感情移入できる。『STAND BY ME ドラえもん』を見に行く方は、自然に感情移入するだけでなく、今回一部を紹介したスタッフのこだわりにも目を向けてみてほしい。
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