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なぜ“9”ではなく“10”なのか?――Windows 10の謎に迫る鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(2/3 ページ)

» 2014年10月05日 00時00分 公開
[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]
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Windows 8がWindows 7に勝てない理由

 他愛もないジョークではあるが、「Windows 7が後継OS(の存在)を食った」というのは、現在のMicrosoftにとって意味深な示唆となっている。過去の連載記事でも触れたが、今のMicrosoftにとって「Windows 7」は成功したOSである半面、次期OSへの移行を推進するうえで、非常に大きな壁となって立ちふさがっているのだ。

 Windows XPのサポート終了に伴うOS移行問題では、(一部地域を除いて)苦労の末に一定以上の成果を挙げたが、コンシューマーとエンタープライズのユーザーを含めてその多くはWindows 7に滞在しており、Windows 8以降のOSへ移行していない。現在Windows 7の世界シェアは50%を突破しており、このままいくと2020年の延長サポート終了のタイミングで「第2のWindows XP」となる可能性さえ秘めている。

Net Market Shareが公開している2014年9月時点でのデスクトップOS世界シェア。Windows 7の52.71%に対して、Windows 8.1は6.67%、Windows 8は5.59%しかない。これはサポートが終了したWindows XPの23.87%を大きく下回る

 問題はいくつかあり、Windows 7から8への移行にメリットを見出せないユーザーが多いこと、ソフトウェアやハードウェア等の検証の問題があること、そして何よりエンタープライズ向けでは「大きく変更されたUIにより、ユーザーの教育コストがばかにならないこと」が課題となっている。

 筆者がいくつか企業のPC導入事例を取材した範囲では、最近になり検証が終わった企業を中心にタブレットや2in1デバイスの導入を進める事例が急増しており、この場合はWindows 8(8.1)が選択されているという。Windows 7ではタッチ対応の部分で不利な面があるからだ。そのため、今年から来年にかけてWindows 8のユーザー比率は若干の上昇傾向が見られると考えられる。

 一方で、既存のデスクトップPCやノートPCにおける「キーボード」+「マウス」の操作を望むユーザーも依然として多い。これがタッチ中心の操作体系を導入してユーザーをほぼ強引に新環境へと誘導したWindows 8への反発とWindows 7の根強い人気となって、シェアに反映されている。

Windows 8で導入された「Modern UI」によるスタート画面とWindowsストアアプリは、タッチ操作のモバイルOSに対抗するためのものだが、キーボードとマウスを重視する既存ユーザーに十分受け入れられたとは言い難い。画面はWindows 8.1 Updateのスタート画面

 ここで興味深いニュースがある。台湾Digitimesが9月29日(現地時間)に報じたところによれば、台湾現地の上流サプライチェーン筋の情報で、PCベンダーらは2014年第4四半期向けのタッチスクリーン搭載ノートPCの開発をストップする計画だと報じている。

 理由はタッチ対応ノートPCへの予想よりも弱い需要だとしているが、キーボード+マウス操作に愛着を抱くユーザーが少なくないことに加えて、タッチ対応ノートPC製品は非対応製品に比べてコスト高で値段が高いため、タッチ操作にメリットを見出せないユーザーらは、タッチ対応製品を避けている事情もある。

 Digitimesによれば、2in1などのタブレット製品では引き続き開発を進めていくとのことで、MicrosoftやIntelらがプッシュするほどにはタッチスクリーン市場が広がっていない、という現実がある。こうしたユーザーにはWindows 8の操作体系は煩雑なだけで、依然としてWindows 7の利用を続ける現在のトレンドもうなずける

デスクトップ環境を望むユーザーに向けた新機能

 以上を踏まえると、今回の発表イベントの側面が見えてくる。ThresholdことWindows 10の発表会を銘打っているが、実際にはMicrosoftの反省会であり、Windows 8で心を捉えられなかったWindows 7以前のユーザーに対するラブコールともいえる。

 こうしたユーザーに対して改めてデスクトップ中心の操作環境のOSを用意し、Windows 8以降に導入された新要素をある程度取り込みつつ、デスクトップ環境そのものを改善してそのメリットをアピールする。つまりWindows 8からではなく、Windows 7からの順当進化だ。

 特にWindows 8への移行が遅れているエンタープライズ市場に向けてアピールするため、発表イベントの趣旨の1つに「エンタープライズ向けの機能説明」を掲げ、同分野を非常に重視していることを強調したのだろう。

米メディア各社に届いた9月30日(現地時間)の発表イベント招待状。文面に「Join us to hear about what's next for Windows and the enterprise.」とある

 エンタープライズ向け新機能の説明では、セキュリティ機能の強化を特にうたっており、ユーザーの権限と(スマートカードなどを使った)認証に応じたデバイスやデータへのアクセス制御がさらに強化されていると説明する。

 またクラウド経由で複数のデバイスを使うシナリオを想定し、MDM(Mobile Device Management:モバイル端末管理)の強化のほか、クラウド経由でのデバイス操作など、一般ユーザー向けスマートフォンでは当たり前となりつつある機能が、エンタープライズ環境でも利用しやすくなる。

 一般ユーザー向けには新しくなったスタートメニューのほか、ウィンドウのスナップ表示で領域ごとに好きなアプリを割り当てて並べたり、作業単位ごとに仮想デスクトップが利用でき、さらに実行中のアプリをサムネイル形式で一覧表示して簡単に切り替えられたりと、Mac OS XでおなじみのExpose(Mission Control)に近い使い勝手を操作体系に取り入れたり、といった工夫がみられる。

Windows 10では、作業単位ごとに仮想デスクトップが利用でき、それらをサムネイル形式で一覧表示して簡単に切り替えられる

 細かいところでは、発表イベントにおいて、Windows開発チームトップの1人であるジョー・ベルフィオレ氏が、コマンドプロンプト画面で「Ctrl」+「V」によるペーストが可能になったというデモも行った。

 従来まではコマンドプロンプト上でマウスを操作してコンテキストメニューを開き、「貼り付け」を選択する必要があったものが、テキストエディタを操作するようにごく自然にコマンドプロンプトでもキーボードで操作できるようになっている。こうした細かい改良もまたパワーユーザー向けのアピールの1つなのだろう。

コマンドプロンプトでは、「Ctrl」+「V」によるペースト操作が可能になった

 このほか、2in1のように「タブレット」と「ノートPC」環境がキーボードの着脱で変化するデバイスの場合、デスクトップPC主眼の操作環境だけでは、タッチ操作との相性が悪く、いろいろ不都合が生じることから、利用スタイルに応じたUIの切り替えをサポートする機能も用意された。

 それが、発表イベントで紹介された「Continuum(連続)」という新機能だ。2in1デバイスでノートPCモードからタブレットモードに移行した場合、キーボード着脱時にUI切り替えボタンが表示され、これを押すと、デスクトップ上にWindows 8のスタート画面のようなタイル中心のUIが現れることで、タッチ操作に移行しやすくなっている。

 これが意味するのは、Windows 10でデスクトップ機能が強化されたとはいえ、Windows 8のタッチ操作体系を失ったわけではないということだ。

ジョー・ベルフィオーレ氏(米MicrosoftのWindows担当副社長)が説明するWindows 10の「Continuum(連続)」機能。Surface Pro 3でデスクトップを利用しているときにキーボードカバーを取り外すと、右下にContinuum機能のUI切り替えボタンが表示される
Continuum機能により、UIを切り替えると、タブレットでタッチ操作しやすいタイル中心の表示に切り替わる。ここでキーボードカバーを装着すると、再びContinuum機能のUI切り替えボタンが表示され、元のデスクトップ画面に戻ることが可能だ
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9月30日に米サンフランシスコで行われたWindows 10発表イベントの様子は、YouTubeで視聴できる

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