「Apple Watch」であなたの生活はこう変わる林信行が踏み込んで解説(1/5 ページ)

» 2015年03月11日 18時00分 公開
[林信行,ITmedia]

アップルスペシャルイベント「Spring Forward.」

 日本時間の3月10日未明、アップルによる新製品発表イベント「Spring Forward.」が開催された。

 「春を先取り」という意味に取れる一方で、「前に向かって跳躍」という意味にも取れるこのイベント。小さなレベルから人類の前進につながるような大発表まで、実に盛りだくさんな内容だった。

 人類の前進、というのはパーキンソン病や糖尿病、乳がんといった病気を治すための画期的な取り組み「ResearchKit」のこと。一緒に発表された製品だけでも語るべきことが多すぎて、テレビもラジオも、ネットのニュースも、長期に渡って人々に影響していきそうなこの大発表をあまり取り上げていない。

 本稿では、本日発表された2つの製品と、このResearchKitを中心に実際に製品をじっくりと触り、Apple Watchを試着した筆者の雑感やネットで見かけた反応に対する筆者なりの答えを中心にまとめてみた。

アップルはApple Watchを開発しただけではない。この全34種類の製品をきれいに陳列するテーブルも開発している

アップルがApple Watch用に開発したテーブルは2種類。上の陳列用のガラスケースのテーブルと、試着用のテーブルだ。試着用のテーブルでは実は黒いマットレスの下に、そのテーブルのApple Watchとペアリング済みのiPhoneが隠されている。そして引き出しの中に違うサイズのバンド、違うサイズのApple Watchを充電しながら保管しておける引き出しがある。ここはアップル社員が非接触カードでタッチをしないと開かないようだ

スマホ依存社会をリバランスする

 Apple Watchが、どのような製品かについては、3月9日に掲載したこちらの記事「Apple Watchで何ができる? 林信行による事前チェック!!」でまとめたので、まだの人は、この記事に目を通す前でも読んだ後でも構わないのでじっくりと読んでみてほしい。

 Spring Forward.で行われたティム・クックCEOらによる商品の説明部分でも、上の記事の内容から大きく外れることはなかった。ただ、その記事で書かれている内容が頭に入った状態で、改めてApple Watchを見てみると、その製品の細部にいたるまでの作り込みであったり、それが当たり前になった日常生活に起きる風景の変化にまで想像がまわり、改めてこの製品のすごさに驚かされた。


 インターネットでは「Apple Watchでやることの多くはiPhoneでもできる(だから、Apple Watchのすごさが分からない)」という声をいくつか見かけた。だが、そういう人たちは、iPhoneに代表されるスマートフォンでやることの多くも、すでにパソコンで実現していた、ということを忘れてしまっているのではないだろうか。

 パソコンもスマートフォンも、やることは電子メールだったり、Web閲覧だったり、ゲームだったりとほとんど同じだ。ただ、移動中にメールの返信をしたり、友だちとの会話の中で出てきた有名人の顔を画像検索する使い方は、ポケットからさっと取り出せるという形があったからこそ広がったものだ。

 おそらく、それ以前も周囲の人に怪訝(けげん)な目で見られながら電車やレストランでノートPCを開いて、同じことをやっていた人は存在していたと思う。スマートフォンの登場により、それほど奇異な振る舞いをしなくてもこれができるようになったことで、より大勢の人の習慣に広まった。

 同様に電子書籍を読んだり、プレゼンテーション資料を使って営業をすることも、ノートPCでできていたかもしれないが、iPadのようなタブレットでやったほうがよほど所作として自然であり、だからこそ世界中の営業職の多くがiPadを持ち歩くようになった。

 実はよく考えると、スマートフォンも、タブレットも、パソコンも、やれることはかなり重なっている部分がある。そして、それぞれ形や大きさが違うことで使い方が微妙に異なっている。仕事の後、友だちと一緒におしゃれなレストランに行くとき、会社へは仕事の道具を入れた大きなトートバッグで出かけ、退社後は重たいトートはロッカーに預けてポーチでレストランに向かうといった具合に、ちょうどカバンを使い分けるのと同じだ。

 アップルが、Apple Watchで目指しているのは、スマートフォンが予想以上に便利すぎたことで偏ってしまった生活習慣を、もう1度、再整理、あるいは再バランスしよう、ということに尽きると思う。

 いま多くの人々は、スマートフォンが予想以上に便利だったことに気がつき、あの小さな画面を1日中、食い入るように見つめて、スマホから友だちとのメッセージ交換やソーシャルメディアのために大量の文字を打ち込むことで1日の多くの時間を費やしている。そして日本だけでなく、世界的にも問題になっている「歩きスマホ」のような好ましくない社会現象まで広めてしまっている。

 リストバンド型のスマートウォッチが、どういう役割を持つべきか真剣に考えている人は、これこそが再バランスを可能にする道具だと気付き始めている。

Apple Watchの登場でスマホを見ながら歩く習慣がなくなる?

 実際、Apple Watchの発表前からこの提案をしていたのが日本のVELDT(ヴェルト)という会社だ。同社が開発した、非常に美しく、控えめな機能の、いかにも日本らしいスマートウォッチ「Serendipity」は、「みんな1度、下ばかり見ているのをやめて、もう1度前を見ようよ」という提案をアップル以上に正面からうたっていた。

 実はSerendipityと比べると、Apple Watchは、楽しいことがいろいろとできすぎてしまうので、これまでスマホの画面ばかり見ていた人が、今度はもっと小さな腕時計ばかりのぞき込むようになってしまわないかと心配する人もいるかもしれない。ただ、腕はずっとあげているとだんだんと疲れてくる。

 右手が疲れたら両手で持ったり、左手に持ち替えたりできるスマートフォンと比べて、スマートウォッチの使い方は、もう少し“潔い”接し方になるはずだ。

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