レビュー
» 2015年03月11日 18時00分 公開

「Apple Watch」であなたの生活はこう変わる林信行が踏み込んで解説(4/5 ページ)

[林信行,ITmedia]

21世紀の新しい習慣を築く

 Apple Watchからは、ほかにもいくつかの提案を感じた。まず1つは「重たいコミュニケーションに時間を浪費するのはやめようよ」という提案だ。

 パソコンで電子メールを使うようになってから、皆瞬時に無料で世界中のどこへでも切手代もかからずにメッセージが送れるようになったことでこれに飛びついた。だがやがて、同じ部屋にいる人に対してもメールを送るような、直接、そこまで歩いて行って話せば2分で片付く話を、メールを4回も5回も往復させて、その度に仕事を中断させながら相談するような変な習慣も広げてしまった。

Apple Watchが目指すノン・バーバル(非言語)のコミュニケーション

 iPhoneの登場はこれを少しまともな方向に揺り戻させた。丁寧に長々と書かれたメールの返信に、パソコンからあいさつも抜きで「承知いたしました。よろしくお願いします。」の2行で返してしまうのはこれまでなんだか失礼に思えていたのが、打ったメールの末尾に「iPhoneから送信」と挿入されるのが免罪符になって、簡素なメールの返信にもう1行「iPhoneから送信」が加わった途端、なんだか許せるムードを作ってくれていた。

 しかし、最近はみんなスマートフォンでの文字入力も速くなり、どんどんスマートフォンからの返信メッセージも長くなり、その代わりスマートフォンをのぞき込んだり、スマートフォンに向かってタイプしている時間が長くなったのが、今のちょっとアンバランスなスマホ社会だと思う。

 これに対して、Apple Watchでは「親密コミュニケーション」とうたいながら、4〜5個程度の定型文を選んで即答するといった技術や、そもそも文字ですらなく絵文字やトントンっと叩く振動、そして鼓動などで気持ちを伝え合うという新しい試みにチャレンジをしている。

 親しい友だちに定型文を送るのか、と思う人もいるかもしれないが、親しい間柄だからこそ、相手に文字を打ち込ませて拘束するのではなく、定型文即答でも許す、という文化が築ければ、我々は1日のもっと多くの時間を建設的なことに使えるのではないだろうか。

iPhoneで受信したメッセージを手元のApple Watchで表示

そのまま定型文で返信できる

 絵文字や振動や鼓動によるメッセージ交換にも可能性を感じる。そもそも、これまでのデジタルのコミュニケーションは文字のコミュニケーションばかりに頼りすぎていた。しかし、25年間ものあいだ文章を書き続けてきた筆者の経験から言っても、残念ながら文字を通したコミュニケーションで、メッセージを発する側と受け取る側が同じイメージを描けていることは珍しい。

 そんな幻想に無駄な時間を費やすよりも、言葉にはなっていないかもしれないけれど、だから余計に気持ちのつながりで通じ合える、絵文字、振動といったノン・バーバル(非言語)のコミュニケーションにアップルが乗り出したのが「さすがだ!」と思った。例えば、遠く離れている恋人どうしが、毎日の電話はお互いの睡眠時間を削るだけだからと、寝る前に時計をトントンと叩いて、相手に気持ちを伝えるといった情景が浮かんでくる人も多かろう。

 Apple Watchから感じ取れる、もう1つの提案が健康な暮らしの促進だ。

「ムーブ」「エクササイズ」「スタンド」のリングで交際されるアクティビティアプリケーション

 活動量を計る、エクササイズの時間を計る、というのは、かなり積極的に健康に取り組む人向けの機能で、これまでのヘルスケア系のウェアラブルデバイスでもやっていたことだし、ここであえて触れる必要はない。だが、アップルが今回新たに目をつけたのが、「座りっぱなし」の問題だ。

 腰痛持ちの筆者は、この問題については1990年代末ごろから関心があって調べていた。当時から北欧では“Sit&Stand desk”というカテゴリの製品が普及しつつあった。つまり、座ってた姿勢でも、立った姿勢でも仕事ができる、天板が上下するワークデスクだ。

 日本にもかつてスカンジナビアモダンという会社があり、このSit&Stand deskを販売していた。この製品を愛用している人は「午前中に立った状態でメールの処理をしていると、座ってダラダラと返事を書いていたいときとはスピード感も精神状態も変わっていい」と語っていた。北欧ではこの時代から、ミーティングを座りながらやるとダラダラしていしまうからという理由で、立ちながらやる会議が流行している。

 そして4、5年ほど前から、こうした立って仕事をする習慣がシリコンバレーにも広がりつつあった。GoogleやEvernoteをはじめ、優秀なエンジニアを抱える企業の多くが立ち仕事の価値を実感し始め、今や本格的に普及し始めている。そして1、2年前から、日本でも少しずつ「Sit&Stand desk」という言葉を聞き始めるようになった。本格的な普及はもう間もなくだろう。

 米国では「Sitting is the next smoking(座りっぱなしは、昔でいう喫煙と同じくらい身体に悪い)」と言っている医師もいるようだ(検索してもらうといっぱい情報が出てくるので詳しくはそちらに譲る)。

 Apple Watchは、1時間に最低1分は立ち上がる習慣を広げようとしている。これは腰痛はもちろん、精神的なストレス軽減など、さまざまな健康的効果をもたらすと言われている。

 Apple Watchはすぐさま、すべてのiPhoneユーザーが飛びついて買うべき製品ではない。もともと、人よりも早くiPhoneの可能性を見抜き、職場や友だちの間に新しいスタイルを広げていった「アルファ(動物行動学における、ある集団の中でリーダーとなる個体)」なユーザーが身につける時計だ。

 Apple Watchが提案するさまざまな21世紀のライフスタイルの1つとして、読者のみなさんにはぜひ、この立って仕事をする習慣を日本に根付かせるのにも一肌脱いでもらえればと思う。

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