「Apple Watch」であなたの生活はこう変わる林信行が踏み込んで解説(3/5 ページ)

» 2015年03月11日 18時00分 公開
[林信行,ITmedia]

Apple Watchが生み出す新しい風景

 Apple Watchにどういった機能があるかを把握した状態で、改めて製品の解説を聞けたのは、非常に幸運だった。というのは、この製品が実際に広がり始めたら我々の生活がどのように変わるか、これまでよりも1歩踏み込んでリアルに想像できるようになったからだ。

Apple Watchは人々のライフスタイルをどのように変えるのか

 例えば、Apple Watchには通知機能があって「ブルブルっと腕が震えてニュースが届く」といった解説があった。おそらく地震大国の日本では、すぐに誰かが地震直後に震源地と震度を教えてくれる「グランス」(各種の情報表示や通知を行う機能)を作り出すだろう。

 実際にそういうアプリはスマートフォンにもあるし、筆者はスマートフォンでTwitterを開いて検索をしてしまう。やがて、そのツイートをRTし始めたり、ほかの人の反応を探し始めたりして、どんどん脱線して気がついたら数分を無駄にしてしまう。

 これに対して、Apple Watchであれば、そもそも画面も小さいし、できることもスマートフォンと比べて限られているので、チラっと時計で必要な情報だけ確認して、そのままそれまでやっていた作業に戻ったり、普段の生活に戻ったりできるはずだ。

 この感覚は、デジタルが大好きで、1日中でもネットを使っていたいという人にはなかなか伝わらないかもしれない。しかし、この潔い付き合い方こそが、デジタル情報との付き合い方の再バランスであり、人類が“ネット漬けの廃人”にならないようにするためにはどれくらいのバランスがちょうどよいのかを、これからの未来を担っていく世代と一緒に話し合って行くべき部分なのかもしれない。

 スマートフォンは画面を小さくすることで、パソコンよりは多少、どっぷり浸かる感を軽減してくれたかもしれないが、Apple Watchは、これをさらにリアルな生活優先モードに揺り戻してくれることだろう。

 ちなみに、Apple Watchの振動はかなり心地よい。振動の強さや感触はいろいろ調整できるようだが、標準コーナーで展示されていたApple Watchの振動はエッジにぼかしがかかっているような、あまりきつすぎない上品に揺すられる感じの振動だった。振動しているのはApple Watchケースのみのはずだが、時計のバンドをややきつめに締める筆者の場合、腕全体が軽く揺すられているような心地よさを感じた(これもApple Watchの展示が始まったらぜひともチェックしてほしいポイントの1つだ)。

Apple Watchの振動機能は“上品”

 世の中には「ただ出てきただけ」で翌年には忘れられてしまうような新製品もあれば、世の中の風景を一変させるような新製品もある。両者の違いは、新しい時代を象徴する新しい習慣、新しい風景を築けるか否かではないかと筆者は思っている。

 それでいうと、これまであったスマートウォッチは、「ただの新製品」があまりに多かったと思う。他社製品より機能が1つ、2つ多かったり、薄さや形が違ったりなどなど……。

 これに対して、アップルはApple Watchで積極的に新しい習慣、新しい風景を作り出そうと動き始めている。iPhoneでは、これがそもそも前例のないスタイルのスマートフォンだったおかげで、世の中の変化は自然発生的に起きてきた。

 一方、Apple Watchでは、すでに「スマートウォッチ」と呼ばれていたガジェット製品がこれまでにもたくさんあり、開発者の想像力も旧来の発想に縛られてしまうのではと心配したのか、アップルは今回、製品発売前からいくつかの大企業と組んで「世の中がこう変わるんだ」という事例作りにも積極的に関わっている。

 なんといっても象徴的なのが、Wホテルの事例だろう。これまで宿泊予約をしたホテルにたどり着いたら、まずみんながやることは「フロントに行って、鍵をもらう」という行為だった。ところが、Apple Watchを使えば、ホテルに着いたら、いきなり、Wホテルのアプリを起動してApple Watch上でホテルにチェックインすることができる。すると、Apple Watchにソフトウェアの鍵が配信されるので、割り当てられた部屋の前でApple Watchを振ると鍵が開き、中に入れる。なんとも「スマート」ではないか。

スペシャルイベントで行われたWホテルのデモ。Apple Watchがルームキーになる

 ついにコカコーラの自販機まで登場したというApple Payも、現在、2500の銀行がApple Pay決済に対応し、70万店舗が対応しているというが、これなどは日本のスマートウォッチメーカーにFeliCaを使って先に実現して欲しかった部分もである。

今や70万店舗の小売店がApple Payに対応。Apple Watchで支払いができるようになる

 基調講演では家のガレージを遠隔カメラで監視しながら開閉するというデモも行われていた。家のペットの様子などをたまに腕時計で確認する、外にいながら家電を制御するというのも新しい習慣を予見させる。

ガレージを遠隔カメラで監視しながら開閉するデモ

 ほかのスマートウォッチメーカーは、難しい丸型の液晶を採用したり、製品として魅力的なものをつくることについてはがんばった部分もあると思う。しかし、それはあくまでも製品のスペック的な進化であって、それを通して、世の中をどう変えよう、という提案には欠けていたように思う。

 その提案の有無こそが、Apple Watchと他を隔てる大きな境界線だろう。

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