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TOUGHPADで「視界ゼロの除雪作業」が可能に――誤差10センチの高精度測位システムを北海道で体験したボディが頑丈なだけじゃない!(1/2 ページ)

» 2015年08月31日 14時45分 公開
[山口恵祐ITmedia]

パナソニックが開発した「高精度測位システム」とは?

 パナソニックは8月28日、豪雪地帯での除排雪作業や、ICTを活用して省力化や精密化を図る“スマート農業”支援などに利用できる「高精度測位システム」を発表した。2015年12月より北海道岩見沢市で除排雪作業支援の実証実験を開始する。

TOUGHPADを使った高精度測位システム 「TOUGHPAD」を使った「高精度測位システム」を搭載するトラクター

 高精度測位システムは、同社の堅牢タブレットPC「TOUGHPAD」に衛星電波受信モジュール、ワイヤレスWAN、そして1周波RTK-GNSS機能を拡張したパナソニック独自の衛星測位技術(特許出願中)を組み合わせた位置情報システムだ。

 外部アンテナをTOUGHPADに接続することで、市街地の幹線道路環境では誤差約50センチ、見晴らしのいい水田や農地環境では誤差約10センチの高精度測位を実現する。

TOUGHPADを使った高精度測位システム 三脚の上部に衛星電波を受信する外部アンテナが固定してある(テープで固定されているため、アンテナの実物は見えていない状態)
TOUGHPADを使った高精度測位システム 外部アンテナを10センチほど動かすと、画面上に表示する測位データが正確に移動した

※GNSS(Global Navigation Satellite System:全地球型測位システム)とは、米国のGPS衛星とそれ以外の全地球型測位システム(ロシアのGLONASS衛星や日本の準天頂衛星「みちびき」など)を含めた総称。

※RTK(Real Time Kinematic:相対測位)とは、既知点から測位補正データ(搬送波)を携帯電話や無線を利用して移動局に送信し、移動局が受信した搬送波との位相差から、既知点からの相対位置をリアルタイムに測定する方式だ。1周波RTKとは、航法衛星から送信される2つの周波数電波のうち、1つの周波数電波のみ使う方式。

高精度測位システムが求められる用途とは

 豪雪地帯で必要となる除排雪作業において、技術と道路知識を持つ作業者の高齢化などによる担い手不足が課題となっている。積雪によって道路の路面位置状況は非常に認知しづらく、除排雪作業には熟練の技術が必要だ。現状では、このような作業位置の目視特定が困難な場面において、高精度測位ができるシステムはまったく普及していないという。

TOUGHPADを使った高精度測位システム 高精度測位システムが求められているのは、除排雪、スマート農業、調査・保守などだ
代替テキスト 除雪作業中の作業者視点。積雪によって目視ではもはやどこが道路なのか見当も付かない状況だ

 また、農業の現場では、北海道の超大規模農家でトラクターの自動操縦用に2周波RTK-GNSSを用いた誤差2センチの高精度測位システムが利用され始めているが、導入コストが装置だけで100万円を超えるため普及には至っていないという。

TOUGHPADを使った高精度測位システム これまでのシステムは、「高い」「遅い」が課題だった

 加えて、高価なGPS受信機と補正データを受信する無線装置、タブレット端末を組み合わせた商品が建設や土木、農業、環境調査の現場で利用され始めてはいるものの、複数端末の接続の手間や不安定さが課題となっており、可搬性の高い一体型の端末が求められていたという。

高精度で安価を実現するパナソニックの新システム

 パナソニックが開発した高精度測位システムは、複数の測位エンジンで時間をずらしながら順次測位することで、測位結果を迅速に導き出す独自開発のアルゴリズムを採用。従来の組み込み系OSが搭載された端末ではCPU処理性能の制約から、同じ1周波RTK-GNSSで初回測位時間が平均10分かかっていたが、パナソニックの新システムでは平均90秒まで短縮した。

TOUGHPADを使った高精度測位システム パナソニックが開発した新しい高精度測位システム
TOUGHPADを使った高精度測位システム システム概要図

 本システムでは、得られた高精度測位データをパートナー企業の三英技研(本社・広島県)が開発した3次元道路地図ソフト上に表示することで、積雪で目視できない道路や道路構造物(家の塀、消火栓、マンホール、ゴミ箱など)などを可視化する。道路知識がない作業者でも、画面を見ながら操作することで安全に作業が行える支援システムとなっている。

TOUGHPADを使った高精度測位システム 画面手前に表示されている太い線が自車、緑の細い線が走行すべきコースを表している

 3次元地図データは、非降雪期間中にデジタルカメラと3次元レーダー計測を用いたデータ取得車両を走らせ、得られた点群データをもとに3DCADで作成するという。

※点群データとは、空間に存在する物体の表面・形状を多数の点で表したもの。

 これらの高精度測位や3次元道路地図の表示は、パナソニックの堅牢タブレットPCであるTOUGHPADを利用する。過酷な屋外作業環境に耐えられる性能を備え、インテルの第5世代Coreプロセッサー・ファミリーのCore i5モデルを搭載することで、上記システムの測位所要時間短縮や快適な3次元道路地図の表示が可能になったという。

 TOUGHPADにはワイヤレスWANを内蔵するため、補正データの受信機が不要のシンプルな構成を実現できるという。利用する回線はパナソニックのMVNOサービスで専用プランを用意する。

TOUGHPADを使った高精度測位システム 水やほこりに強いTOUGHPADは過酷な環境下でも使える

 システム全体の価格は検討中としながらも、2周波RTK-GNSSの2分の1程度(およそ50万円ほど)に抑えることで広く普及を狙う。

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