「コンピュータとの会話が日常になる未来」を示したMicrosoft本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/3 ページ)

» 2016年04月03日 07時00分 公開
[本田雅一ITmedia]
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特定ハードウェアに依存せず、新しいアプリ基盤の普及を目指す

 米Microsoftが毎年開催している開発者会議「Build」が、2016年も3月30日から4月1日の3日間、サンフランシスコで開催された。

 かつては「Professional Developers Conference(PDC)」と呼ばれていたイベントが現在の名前になったのは、ソフトウェア開発の切り口だけではく、デバイス設計やネットワークサービスなども加え、アプリケーション全体を大きな枠組みで価値創出するように世の中が変化したからだった。

Build 2016 米カリフォルニア州サンフランシスコで開催されたMicrosoftの開発者会議「Build 2016」

 2015年夏に「Windows 10」をPC向けに出荷したMicrosoftは、新しいステップに踏み出し、スマートフォン向け、IoT向け、ゲーム機(Xbox One)などWindows 10のバリエーションを広げ、同じアプリケーションがデバイスを越えて動作する「Universal Windows Platform(UWP)」の基礎を作ることができた。

 そして2016年。今回はUWPというアプリケーションプラットフォームを、小型デバイスから大型デバイスまで、Microsoftの考える多様なバリエーションのコンピュータ全てにそろえることができた最初のBuildでもある。

 この夏には「Anniversary Update(記念アップデート)」と名付けられた、大幅な機能強化がWindows 10に提供されるが、このときにWindows 10の全エディションでビルド番号がいったんそろえられる。機能面ではペン入力の機能強化や、Microsoft EdgeブラウザにおいてWinodws Helloを用いた個人認証が可能になるなどの拡張が行われる。

Anniversary Update 2016年夏には、Windows 10の次期大型アップデート「Anniversary Update」が無料提供される予定。2015年7月29日のWindows 10一般公開から1年を記念した大型アップデートだ

 Buildでのメッセージ、すなわちソフトウェア開発者に向けた主なメッセージは、コンシューマー向け基本ソフト(OS)としてWindows 10を強化していくので、デバイスプラットフォームの区別なく使えるUWPの充実に、ともに取り組んでほしいというものだった。

 UWPのコンセプトが示されてから既に3年が経過されているが、2016年はDirectXで開発したUWPのゲームがPC、Xbox One、スマートフォンなどデバイスの壁を越えて動くデモンストレーションが行われ、Twitterなど幾つか主要なアプリケーションのUWP化が進んだこと、遅ればせながらFacebookやFacebook Messenger、InstagramなどのUWP版が近くリリースされることがアナウンスされた。このうち、InstagramはBridge for iOSを用いてiOS版を移植したものだ。

UWPアプリの拡充 Microsoftは特定のハードウェアに依存せず、幅広いWindows 10対応デバイスで動作する新しいアプリケーション実行基盤「Universal Windows Platform(UWP)」を推進。Build 2016の基調講演では、UWPアプリの拡充が紹介された

 また、先日買収した.NETフレームワークのクロス開発環境「Xamarin」が、Visual Studioユーザーに無償提供される。これにより、.NETフレームワークを使ってC#で書いたアプリケーションが、Windows 10ファミリーだけでなくiOSやAndroidでも走るようになる。

 MicrosoftのWindows、iOS、Androidを結ぶクロス開発ツールのプロジェクトは、Bridge for Androidが終了を迎えており、iOSに関しては事例が出始めた程度で思ったように進んでいないが、Xamarinを提示することで活性化させようとしている。Microsoftは同時に、Xamarinのランタイムライブラリをオープンソース化すると発表している。

 ただし、既にiOSやAndroid向けのアプリエコシステムは十分に大きく、XamarinがどこまでWindows用のアプリケーション増加に寄与するのかは未知数だ。不足するWindows 10のネイティブアプリを増やすには、Bridge for iOSの事例をもっと粘り強く増やしていかねばならない。

 なお、Build開催初日にAR(拡張現実)対応ディスプレイを内蔵したWindows 10デバイス「HoloLens」の開発キットが無事出荷されたことを発表。HoloLens向けアプリケーションに興味を持つ開発者向けに、開発手順や各種機能の体験ができるHoloLens Academyを開催した。しかし、この例外を除き特定のハードウェアプラットフォームには言及していない。

HoloLens ついに出荷が開始された「HoloLens Development Edition」

意外だったBuildのメインテーマ

 このような「ソフトウェア開発者」にフォーカスした情報に特化しているのは、Buildではいつものことだ。ここ数年は、iOSやAndroidアプリをWindowsに取り込む技術を発表するなどしていたが、機能面ですっかり落ち着いているWindowsプラットフォームでは「サプライズはない」と予想していた。

 ところが、Microsoftは意外なところにメインテーマを持ってきた。

 「会話をベースとしたインテリジェンス」の拡張性をWindows 10に持たせたうえで、さらに「コグニティブ(認知的)コンビューティング」を実現するためのサービスやAPIセットをクラウド型サービスプラットフォームのWindows Azureに用意すると発表したのだ。

 会話をベースとしたインテリジェンスに関しては、Windows 10の電子秘書機能「Cortana(コルタナ)」をユーザーとの接点として、そこにCortanaがより賢くなるよう情報把握の幅を広げたり、特定のサービスに特化したBotと連動する仕組みをWindows 10(もちろんPCだけでなく、スマートフォンやXbox One、IoTを含む)に盛り込もうというのだ。

 サティア・ナデラCEOは、インテリジェンスのある対話によるユーザーインタフェースに対応できるプラットフォームにWindows 10をいち早く仕立て上げ、自然言語を基礎とした新しいコンピュータの使い方を研究・企画・提案する先進的な開発者たちを引き寄せようとしている。

サティア・ナデラCEO Build 2016で登壇した米Microsoftのサティア・ナデラCEO

 MicrosoftのCortanaは音声だけでなく、テキストチャットの形式でも使いやすく設計されているが、他にも特徴がある。コンピュータに自然に集まってくる多様な情報を、最大限に活用してアドバイスを行おうとすることだ。

 単に音声認識や文脈を把握する能力を高めるだけでなく、集まる情報を引用することで、本当に会話してるかのように振る舞う。日々、コンピュータを用いている様子を認知し、その認知した情報……例えば電子メールのやりとりなどから、ユーザーに適切なアドバイスを送る。

 このような技術は、検索エンジンのBingで研究開発してきた技術がその源流にある。Cortanaの基礎となる技術は北京の研究所が開発したものだが、AppleのSiriなどと比べて、より踏み込んだ答えを用意してくる(残念ながら日本語の場合その限りではないが、米国版のCortanaはかなり興味深い)。

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