WWDC 2016にAppleの未来を感じた理由とは? エンジニア参加者が語る(2/4 ページ)

» 2016年06月29日 06時00分 公開
[ドリキンITmedia]

(1)OSの世代交代

 コンピュータ業界がものすごい勢いで進化していることは説明するまでもないのですが、その環境を支えているOSに関しては、実は根本的な変化があまり起きてません。

 パソコンのOSと言えば、ほぼ「Windows」と「OS X」に二分されていますが、どちらも20年以上前に設計されたOSが着実に進化し、現在の姿に至ってます。キーボードとマウスを扱い、複数のウィンドウを開いてアプリケーションを切り替えながら操作するという基本的な部分は今も当時も全く変わっていません。

 「iPhone」は「iOS」という新しいOSとともに登場しました。このOSもプログラム的にはOS Xをベースに作られているので、従来のOSの延長上にあると言えるかもしれませんが、最大の進化は物理的なキーボードやマウスを指でのタッチ操作に置き換え、マルチウィンドウという概念も廃止してしまったことです。

 iOSが開発された当初は、iPhoneというリソースの限られたデバイスでOS Xを快適に動かすため、OS Xの不要な機能をそぎ落としてシェイプアップしたOSがiOSという位置付けでした。

 しかし現在のiPhoneは下手なパソコンに引けを取らないくらい処理速度が速く、メモリも潤沢に備えています。また進化の過程で「iPad」という、従来のパソコンともモバイルデバイスとも違う新しい概念のデバイスが登場し、従来はパソコンが使えないとできなかったようなことを実現できる新しい環境・ジャンルを作り上げました。

 このようなiPhone/iPadの仕様強化に伴い、iOS自体も大幅な進化を遂げていて、本来のシンプルで最小限の機能を持つOS X的なモバイルOSという位置付けから、現在ではOS Xにはない機能をたくさん備える多機能なOSに進化しています。

OS XとiPhone Mac用OSのOS Xは、どんなに進化しても基本的な操作はキーボードとマウス(あるいはトラックパッド)で行います。iPhone/iPad用のiOSはキーボードやマウスでの操作を指でのタッチに置き換え、それに最適化したユーザーインタフェースを用意しました。iOSはシンプルで最小限の機能を持つモバイルOSから進化し、OS Xにはない機能も備えるまでに至っています

 実際ここ数年のOS Xの新機能に関しては、フルスクリーンモード、通知センターなど、iOSから逆輸入されたような機能が多数搭載されています。

 そんな背景からここ数年はOS XとiOSが統合され再度1つのOSとして進化していくのではないか、といううわさや期待が真剣に語られていました。

 僕自身、そうなることを望む気持ちも強かったですし、想像でしかありませんが、ここ数年のiOS、OS Xで行われたバージョンアップの内容を見ても、Apple自身が社内でこのような議論を繰り返していたのではないでしょうか。

OS X iOSのような画面でアプリケーションを一覧表示できるOS Xの「Launchpad」。昨今はiOSからOS Xに逆輸入されたような機能が目立ちます

 WWDC 2016においては、iOSも10番目のメジャーリリースとなり、OS Xとどちらもバージョン番号がそろうので、いよいよ本当に統合されるのではないか、といううわさもありました。しかし、実際にふたを開けてみると、統合とは正反対の結果でした。これが1つ目の衝撃、OSの世代交代です。

 具体的に何が起きたかというと、まずOS Xの名前が「macOS」に改名されました。そしてその外された「X」をiOSに譲るように、iOSは「iOS 10」に進化しました。

macOS OS XはmacOSに改名。バージョン名には、カリフォルニアにちなんだSierra(シエラ)が与えられました。パブリックβは7月、一般ユーザー向けには秋に提供される予定です
iOS 10 iOS 10もパブリックβは7月、一般ユーザー向けには秋に提供される予定です

 今まではOS Xが親、iOSはその子供のような位置付けで、どこまでもOS XがApple製OSのメインプロダクトだったのですが、今回の発表からは明らかにiOS 10が今後のAppleの最重要プラットフォームであることが見て取れましたし、実際に基調講演やWWDC 2016のセッションの内容を見ても、iOSが主役であることが明らかでした。

 僕としては、今回の基調講演はまさに王位継承の瞬間を目撃したという印象です。王様だったOS Xのサブセットとして誕生した王子のiOSが今や十分に成長し大人になり、OS Xはその冠(X)と王座を子に譲り、自らは第一線から下がってその成長をバックアップする立場になったように見えました。

 もちろん、iOSとOS Xの統合というのも十分に現実的なプランだったと思うのですが、AppleとしてはOS Xをタッチ対応にしてiOSの機能を取り込むより、トラディショナルなMac用OSの概念から解き放たれたiOSの方向性を、一層伸ばす方向に舵を切ったということだと思います。

 現実的には、iOSが現在のOS X改めmacOSが担っているビジネスやクリエイティブな仕事を全て置き換えられるわけではなく、5年、10年というスパンでmacOSがプロダクティビティの求められる現場で使い続けられることは想像に難くありません。

 その一方でiPhoneやiPadの登場により、iOSからコンピュータに触れたという世代が増えてきているのも事実です。彼らにとっては既にiOSがメインであり、本質的にはmacOSに移行する必要はないはずです。

 考えてみれば、iOS世代のユーザーにmacOSへの移行を促すより、iOSをあらゆる作業に耐えるOSに進化させる方が、新しい世代のユーザーにとっては自然ですし、無理を生じません。そう考えてみれば、今回の方針は納得です。

 もちろんAppleも突然iOSだけで従来のmacOSでの作業が全て置き換えられるとは考えていないので、「macOS Sierra」にはiOSとの連携をスムーズにするような機能が搭載されていますし、できるだけmacOSとiOSの体験を近づける努力がされています。

macOSとiOS 10 macOSとiOS 10は連携機能がさらに強化されます。例えば、画像の「Universal Clipboard」では、iPhoneでコピーしたテキストや画像を、Macにペーストしてさらにじっくり編集するといった使い方ができます

 WWDC 2016の発表は、いわば王位継承の発表の場だったと想像してみてください。パーソナルコンピュータの新しい世代を築くための歴史的瞬間と想像したら、新しいハードウェアの発表に勝るとも劣らないというか、むしろより大きな発表として受け止められ、興奮ぜずにはいられませんか。

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