WWDC 2016にAppleの未来を感じた理由とは? エンジニア参加者が語る(3/4 ページ)

» 2016年06月29日 06時00分 公開
[ドリキンITmedia]

(2)ソフトウェア開発の世代交代

 WWDC 2016の発表をOS XからiOSへの王位継承と言ってはみたものの、現実問題としてそんなに簡単に環境は変えられるのでしょうか。

 僕も個人的な興味でiPadだけで生活してみるとか、iOSだけで何でもやってみるとか、何度もチャレンジしてきましたが、正直いまだ試みは成功していません。ソフトウェアエンジニアという仕事の関係もありますが、結果的にはノートパソコンもメインで使わず、生産的な作業はデスクトップパソコンに回帰するという状況です。

 いくらAppleが「時代はiOSだ」と旗を振っても、実際に使う人たちのさまざまな作業がiOSで実現できなければ誰もついていきません。

 Webを見る、ゲームする、メールする、ビデオを見る、電子書籍を読むなど、コンテンツを楽しむ行動に関してiOSデバイスで困る人はほとんどいないでしょう。しかし、それらのコンテンツを作成する作業をiOSで完結するのは現状、非常に難しいと思います。

 とはいえ、その状況は徐々に変わりつつあるのも事実です。テキストベースの作業であればiOSで完結できることも多くなってきましたし、写真や動画の編集も従来のパソコンにおける編集作業にとらわれない新しい発想のアプリや、キーボードカバーとペンを備えたハイスペックな「iPad Pro」も登場しています。音楽制作に至っては最も環境が整いつつあり、プロフェッショナルな用途でもiOSが使われ始めてるようです。

iPad Pro iOSはOS自体の機能もアプリも大幅に進化しています。2015年には、iOSをより生産性の高い作業やクリエイティブな用途に使える「iPad Pro」もラインアップに加わりました

 では、プログラミングにおいてはどうでしょうか。一般的なユーザーにはあまり関係がない話かもしれませんが、実はiOS上でコード書いてプログラミングを実行するという環境はなかなか実現されませんでした。

 どんなにハードウェアとソフトウェアの環境が進化しても、iOS上でプログラミングができない限り、macOSから離れることはできません。プログラミング環境の実現はiOSがスタンドアロンで自立するために実現すべき最後の砦(とりで)かもしれません。

 そんな状況に一石を投じたのが、WWDC 2016で発表されたiPad用のSwift学習アプリ「Swift Playgrounds」です。AppleがWWDC 2014で発表したiOS/OS X(macOS)のための新しいプログラミング言語であるSwiftを学べるアプリが登場しました。

 Swift Playgroundsはまだ生まれたばかりのプロダクトで、iPad上でプログラミングを完結するにはまだまだ課題がたくさんあります。まずは子供たちがプログラミングに慣れ親しみ、将来プログラムを書けるようになるためのチュートリアル環境として発表されました。

Swift Playgrounds iPad上でSwiftのプログラミングが学べる「Swift Playgrounds」

 基調講演で発表された内容だけを見ていると、「なんちゃってプログラミング環境かな」と思えてしまうのですが、そんなことはありません。実際にSwift Playgroundsを使ってみたり、WWDCセッションでの説明を聞いていると、これは単なる子供向け教育アプリではなく、内部的には完全にSwiftの実行環境が動いてることが分かります。

 現状はMac側と連携が必要ですが、Swift Playgrounds Bookと呼ばれるプロジェクトを生成すると、ほとんど全てのiOSフレームワーク機能がSwiftを経由して使えます。

 WWDCのセッションではiPad上のSwift Playgroundsで書いたプログラムでBluetoothデバイスを制御したり、本格的な3Dゲーム空間を生成したり、というデモが行われていました。Swift Playgroundsが順当に進化していけば、近い将来にiPadだけでAppStoreに配布するレベルのアプリを開発することも不可能ではなさそうです。

 このような世界が実現できれば、iOS世代の若者たちはわざわざアプリ開発のためにmacOSを覚える必要も使う必要もありません。開発から実行までの環境がiOSで完結したとき、iOSは本当にOSとして一人前になるでしょう。

 Appleは「新しい世代のエンジニア育成もiOS上で」と考えているとすれば、今回のOSの王座継承も非常に納得のいく戦略に思えてきます。

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