ポータブルタイプのプロジェクターと言えば、いまいち“使えない”という印象持っている人も多いのではないだろうか。小型軽量でバッグに入れて持ち歩けるサイズは確かに魅力ではあるが、実際に使ってみると部屋を真っ暗にしてもくっきり表示できないこともざらにある。台形補正をはじめとする表示まわりの機能も貧弱で、きちんと長方形になるよう調整するだけで四苦八苦することも多い。
ところがこの2、3年ほどで、従来の印象を一掃するポータブルプロジェクターが続々と登場している。今回はこれらが従来製品からどのように進化しているのか詳しく見ていこう。
一般的にポータブルタイプのプロジェクターというのは、サイズといった明確な定義があるわけではないが、市場ではおおむね1kg未満の製品を指す場合が多いようだ。最近では、これをさらに下回る500g前後の製品も、続々と登場している。
これだけ本体が軽くなった要因には2つある。1つは光源にLEDを、パネルにDLPを採用している点だ。プロジェクターの心臓部ともいえるこれらパーツがコンパクトになったことで、本体の小型化および軽量化に大いに影響しているというわけだ。発熱も少ないうえに寿命も長く、さらにコントラストも向上するという副次効果をも生み出している。
もう1つの要因は、入力端子がHDMIに統一されたことだ。従来の製品はアナログD-Sub15ピンのコネクターやコンポーネント端子など複数のコネクターを搭載しており、それら端子を配置するために、どうしても本体サイズを大きくせざるを得ない面があった。しかし昨今のポータブルプロジェクターは、入力端子がHDMIにほぼ統一されたたことで本体を小型化できるようになった。部品点数の減少により、コストの低減にもつながったとも考えられる。
ちなみにこれらの製品が、HDMI以外の入力にどう対応しているかといえば、大きく分けて2つのアプローチがある。1つは別売のアダプターなどを用いて、これら従来規格のケーブルを接続する方法だ。この場合、本体価格プラスアルファの予算を見込んでおく必要がある。もう1つはケーブルを使用せずWi-Fiを経由して接続する方法だ。最近はPC以外にスマートフォンやタブレットの映像を投写したいというニーズも多いことも、これを後押ししている。今後はWi-Fi接続がますます強化されるのは間違いないだろう。
性能面では、どこが大きく変わったのだろうか。まず挙げられるのは明るさ、スペック表で言うところの最大輝度だ。従来のポータブルプロジェクターの最大輝度は、100から200ルーメンがほとんどで、日中の明るさのまま投写するのはまず不可能だ。たとえ部屋を真っ暗にしても濃淡のメリハリがないことはザラだった。なにせ据え置きタイプのプロジェクターでは2000〜3000ルーメン程度の明るさがあるのが普通であり、明るい会議室などで使う機会も多いビジネスユースでは、かなり致命的な問題だ。
しかし現行のポータブルプロジェクターでは、最大輝度が500ルーメン、製品によっては700から800ルーメンの明るさを持つ製品も複数存在している。一般的に700から800ルーメンあれば、照明をオンにしたままでもぎりぎり投影が可能であり、特に背景色が白であることが多いビジネス文書では何とかなる場合が多い。もちろん、部屋の照明を暗くできるようであれば、濃淡がくっきりした映像が得られるので、写真はもちろん、動画の再生などでも実用的なレベルで使用できる。
もう1つ、投映サイズと投映距離についても進化が見られる。500g前後の製品でみていくと、投映距離は40型ワイドで1.2m〜1.3m、60型ワイドで2m前後、80型ワイドで2.4〜2.6mが標準的な値で、ASUSのP3Bのように、ポータブルプロジェクターにして200型相当のサイズでの投影を実現した製品もある。一方で、エイサーのK138STのように、最短投映距離40型で25型相当、最長投映距離1.7mで100型相当という、短焦点に特化したモデルもある。
そもそも最近は大画面テレビの価格が下落したこともあり、40〜50型相当のサイズであればプロジェクターではなく大画面テレビで代替するという選択肢もある。そのため、あえてプロジェクターを使うのなら、60型を超える画面サイズをなるべく短距離で投影できることが求められるわけだが、現行のポータブルプロジェクターは、こうしたニーズも対応しつつあるというわけだ。
昨今のポータブルプロジェクターの進化は目覚ましいわけだが、それでもやはり据え置きタイプのプロジェクターと比べてまだまだ力不足である点も少なからず存在している。それらについてもざっと触れておこう。
まず1つは台形補正機能だ。プロジェクターからやや見上げるように投写した場合に必須になる台形補正機能は現在ほぼ全ての製品に搭載されているが、その一方で、横方向からの補正機能を搭載した製品は数少ない。正面から見てやや左、もしくはやや右から投映せざるを得ない場合、この機能があれば調整が可能なのだが、ポータブルプロジェクタのほとんどはこの機能を備えておらず、それゆえスクリーンの中央にそろえるようにして設置をする必要がある。「台形補正に対応」という記述のほとんどは、この上下方向の台形補正のみを指しており、横方向は非対応なので、注意が必要だ。
ズーム機能がないことも要注意だ。据え置きタイプでは実装例が多いズーム機能は、画面の大きさを微妙に調整したい場合に便利な機能だが、ポータブルタイプに搭載されていることはほぼ皆無だ。そのため、投映サイズを変更する際は、本体の設置場所そのものを前後に移動させる必要がある。
リモコンの操作性があまりよくないのもネックだ。ポータブルプロジェクターでは、本体サイズが小さいゆえ、リモコンもクレジットカード程度のサイズであることが多い。多くのボタンを小さな面積に詰め込んでいるため操作性はよくなく、またボタンの機能ごとに形状に差がないため、目視せずに思い通りの操作をするのは難しい。またリモコンで音量の調整に対応しない製品もあり、据え置きタイプの大型リモコンに慣れていると、ギャップを感じることも多い。
ざっと従来製品との違い(およびまだまだ及ばない点)を紹介してきたが、ここ2〜3年で急激な進化を遂げたにもかかわらず、ほとんどの製品は実売価格が10万円以下であり、ややスペックが控えめな製品になると、据え置きタイプとほぼ同等の、実売5万円前後で入手できてしまうことも珍しくない。現在はどちらかというと海外メーカーが幅を利かせているが、国内メーカーからもちらほらとこのジャンルに属する製品が出始めてきており、今後は高性能化と並行し、さらなる低価格化が進む可能性は高い。
次回は、ここまで見てきた傾向を踏まえつつ、ポータブルプロジェクターの具体的なおすすめモデルを紹介しよう。
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