コラム
» 2017年02月03日 16時35分 公開

なぜ人間はポーカーでAIに負けたのか? 日本トッププロが解説する“違和感”(2/2 ページ)

[木原直哉,ITmedia]
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 具体的に見ていきましょう。まず、AIが250ドル(2.5点)にレイズ(賭け金をつり上げる)。それを人間がコール(同額のチップを出す)して、計500ドルのチップが集まりました(この500ドルを取り合う)。

 AIの手札は88のワンペア、人間はA3を持っています。共通カードとして場にAQ8の3枚が開きます。この時点で、AIは8のトリップス(日本語ではスリーカード)、人間はAのワンペアができており、勝率は「AI:人間=95:5」。AIが圧倒的に有利です(当事者にはお互いの手が見えていないので、どちらが勝っているか分かっていません)。

ハンド 人間はAのワンペア、AIはトリップス(スリーカード)ができている(CardPlayer.comより)

 AIの役は非常にわかりにくい上にとてつもなく凶悪ですが、一方で人間側のAのワンペアも通常ではかなり勝っている可能性が高い、強い手です。

 ポーカーは、投資のゲームです。自分のハンドが強ければどんどん金額をつり上げ、手が弱ければ極力金額を小さくする方が得です。しかし、ハンドの強弱で金額を変えていると、自分の手札が相手に筒抜けになってしまいます。これでは、どんなに強い手が来ても稼げません。

 なので、強い手で大きく稼ぎたいときも、弱い手で相手をブラフで降ろしにいくときも、同じ金額をベットするのがポーカーのセオリーです。

 話を戻します。今、場には計500ドルのチップがあります。普通は、強い手と弱い手のバランスを考え、5割〜7割の金額をベットするのが最適だとされています。しかし、AIはここで2000ドル、場の金額の4倍をベットしたのです!

 これは、例えるならば「1万円のチケットをネットオークションで買おうとして、最初は5000〜7000円で入札するのが相場だったのに、突然4万円の入札が来た」ようなものです。

 人間は長考に沈みます(※これは筆者の勝手な想像ですが、実際に99%長考したと思います)。Aのワンペアはいきなり降りるような弱い手ではない。しかし、相手のベット金額は異常……。

 AIが強い手だけでこのようなベット(チップを賭けること)をしていたのなら、人間は当然降りることを選んだでしょう。しかし、恐らくAIはこの手以外でも何度もこのようなベットをしてきたのでしょう。そして、人間はコールを選択。最後に人間は不運にもツーペアを引いてしまい、1ゲームの最大金額の200点を失ってしまったのです。

※失った点数に間違いがあったので訂正致しました。

「これまでの常識」を疑わないといけない

 これまで、人間は5割〜7割という金額が適正なバランスだと判断してきました。しかし、AIはその金額は適正ではなく過小であり、もっと大きな金額をベットしていくのが適切なバランスだと判断したのです。

 また、人間チームは、著名人や専門家が「○○だけど質問ある?」というスレッドを立てて一般ユーザーからの質問を受け付ける「Ask Me Anything(AMA)」に登場

AMA 著名人が一般ユーザーからの質問を受け付ける「Ask Me Anything(AMA)」にプロプレイヤーが登場(Ask Me Anything

 そこで、「AIのプレイは強い人間に近いが、人間と比べてはるかに厳しいプレッシャーを正しく押し付けてくる」(We're seeing the bot play like a strong human player, but also putting way more pressure on us than any human can correctly.)と答えています。今まで人間が最適と思ってきたベット金額は、実は最適ではなかった可能性が十分に考えられるのです。

 囲碁や将棋では、全ての情報が目の前にあるため、長い先の局面を読む必要があり、それには高い集中力が必要です。一方ポーカーは、長い手数を読む必要がない代わりに、情報が目の前にないため、手探りでプレイを進めざるを得なく、メンタルが狂うと判断の誤りがたくさん出てきてしまいます。

 人間側は、対戦したことがないような相手を前にして、非常に大きなプレッシャーを受け続けたでしょう。また、個人での勝ち越しの可能性を残していたDong Kim以外は、終盤だとチームでも個人でも負けが確定していたため、メンタルがプレイに影響した可能性が高いです。

 一方のAIは、メンタルに左右されず、常に最大のパフォーマンスを発揮することができます。そこが、最後にAIが一気に勝ちを伸ばした要因だと思います。

AIが強くなってもポーカー人気は衰えない

 総括として、どんなに人間が頑張ろうとも、人間がAIに勝てなくなるのは目の前です。また、これからのポーカープロは「AIで勉強した」という人が大挙して押し寄せてくるでしょう。「AIの発展によってポーカーブームが終わる」と言う人も多いですが、筆者はそうは思いません。

 チェスがコンピューターに負けてから20年。いまだにチェスの人気は衰えていません。チェスは運の要素がないじゃないかという人もいますが、同様に15年前にはコンピューターに負け越し、今やトッププロの実力もAIの解析による数値によって表現されるようになってしまったバックギャモンも、世界中でプレイヤーが増えています。

 もともとセミプロとしてバックギャモンをやっていた筆者は、「AIが強くなることとゲームの人気が衰退することは別物である」と確信しますし、一方で、AIを活用しながら勉強して強くなり続けないと、どんどん勝てなくなってしまう勝負の世界にいることを、今回の勝負を見て再度思い知らされたのでした。

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