第2部のパネルディスカッションは、シンポジウムのサブテーマである「デジタル遺品のガイドラインを作ろう」が狙いとなっている。サポート環境や死後対応のノウハウが未成熟なデジタル遺品の問題について、登壇者と参加者の垣根を取り払って活発に意見を交わした。
デジタル遺品問題を解決する上で、最初にして最大のネックになるスマホのロック問題。現状ではキャリアやメーカーに解除をお願いすることはできないし、遺族が当てずっぽうに入力すると10回連続ミスの後に初期化される場合もある。
ちなみに、生体認証ロックの登録時は必ず従来のロック解除方法も設定する必要があるため、生体認証があるから遺族が手出しできないといった心配はない。
熊谷氏は「解析技術は進んでいますが、例えば6桁パスコードのiOS端末は相当困難です」と話していた。
その現状を踏まえ、古田氏は「パスコードやパスワードを書いた紙を預金通帳などと一緒に保管して、万一の際に家族に伝わるようにするのが最善かもしれません」と、ユーザー単位での対策を提案する。
オンライン遺品となりうるWEBサービスは、前述の通り相続できるか否かが異なる。このあたりは各サービスのスタンスによるし、LINEのようにプライバシー性が高いタイプは相続可能にして遺族が中身を閲覧できるようになるのは別の問題を引き起こすなど、一筋縄ではいかないようだ。
ただ、オンライン遺品の相続でもう1つの鍵となる「死亡した本人とアカウントの持ち主の同一性、および、申請した遺族の身分確認の問題」については、将来的に問題が解消されるかもしれないという。「故人が使っていた端末のログ解析ができれば、同定は現在の技術でも簡単です。訴訟などで必要なときはログから故人を特定するようになると思います」(熊谷氏)
なお、ネット銀行や証券会社、保険会社などの遺産は、既存の各法律に則ってオンラインオフラインの区別なく厳密に処理される。ただし、遺族に気付かれにくいといった問題は依然として残っているという。
伊勢田氏は前述の見解を述べた上で、「デジタル遺品に関して、遺された家族のための救済処置が法的に整備される可能性は低いように思います。何か大きな社会問題につながる事件が起きれば別ですが……」と話していた。
やはり、デジタル遺品を巡る環境整備を考えたとき、法律が輪郭として表に出てくることはあまり考えにくいようだ。
デジタル業界に足並みをそろえた対策の風は吹いておらず、法による枠組みの整備は期待しにくい。
古田氏は「ならば、ユーザー自身がデジタル遺品に関する意識を高めて、自衛しながら業界を刺激するしかなさそう」という。熊谷氏も「家族に託すものと、死後も隠したいものを生前からセットしておくプログラムは簡単に作れます。が、そういう道具があっても使われないと意味がないんですよね」と同意する。
そうした現状を踏まえ、すでにデジタル遺品研究会ルクシーでは「デジタル資産メモ」を日ごろから記載して預金通帳等と一緒に保管しておくことを推奨し、日本デジタル終活協会はデジタル資産向けの整理ノート「デジタル世代の引き継ぎノート」を発行している。いずれも、本人による自衛策の強化がもっとも頼りになるというスタンスだ。
第2部前のスペシャルセッションでは、シニア層に向けた終活サポートを手がける「つむぐ」代表の長井俊行氏が緊急連絡先を日ごろから持ち歩く大切さを説いていた。終活とデジタル終活。異なる部分もあるが、通底するところは多いように感じられた。
では、デジタル遺品の自衛意識を高めるにはどうしたらいいのか。
伊勢田氏は「冗談ですけど、『ユーザーが死亡したとき、ユーザーが生前に有していたすべてのデジタルデータについては、原則として相続人に開示しなければならない』という法律ができたら、生前に対応しなきゃというふうになるかもしれませんね(笑)。そういうマイナスがないとなかなか人は動かない」と切り口を提案。
そこから「スマホの購入時に、万が一の際の放置リスクを伝えるマンガを配る」といったアイデアも出て、会場は大いに盛り上がった。他にも、参加者からは「エンディングノートにデジタル遺品の項目を組み込むよう働きかける」「デジタル遺品からみのプラスのアピールも必要」などの意見も出ている。
それらを踏まえ、古田氏は「この場で出たアイデアは実現の可能性を含めて積極的に検討していきたいと思います。その成果を次回に発表して、また論議できればうれしいです」とシンポジウムを締めた。
デジタル遺品の問題はまだまだ論議を深める必要があるだろう。登壇者はいずれも第3回の開催に意欲をのぞかせていた。1年後、2019年3月の展開に期待したい。
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