なぜ5Gのデモは「VR・ARが人気」なのか特集・ビジネスを変える5G(1/2 ページ)

» 2019年01月10日 15時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

 5Gに向けたデモンストレーションでは、VRやARが扱われることが多い。なぜ5GとVRはこんなにセットで語られるのだろうか? 特集「ビジネスを変える5G」の第9回では、5GとVRの可能性を考察してみたい。

5Gの「速い」は3つの意味を持つ

 5Gの特徴は、言うまでもなく、通信速度が向上することだ。「通信速度向上」という言葉には幾つもの要素がある。

 1つ目は、ストレートな「速度アップ」。最大伝送速度は10Gbpsになり、4Gの10倍になる。とはいえ、これを額面通りに捉えてはいけない。4Gでも最高伝送速度をそのまま個人が体感するのは難しい。効率は変わるとはいえ、5Gでも10Gbpsが使えるようになるわけではなく、「現在よりもずっと速度が落ちづらくなる」「現在数十Mbpsが中心である最高速度がさらに上がる」と考えるべきだろう。それでも、一般的な光固定回線に近い速度が得られる可能性は高く、かなりの改善だ。

 もう1つは「遅延の低減」。通信のリクエストに対する反応速度が速くなる。こちらも、スペック上は「1ms」となっている。実際のシステム上では1msとはいかないだろうが、一桁ms台になることが期待できる。

 ちなみに、現状の4Gだと実測で数十msで、やはり一桁下がることになり、私たちには「反応が相当素早くなった」と感じられるだろう。ちなみに、テレビの1フレーム(ゲームなどでおなじみの60フレーム毎秒と仮定)は、約16.7ms。5Gだと、理想的な通信状況の場合、かなり保守的に見積もっても、1、2フレーム遅れ以内で60フレーム毎秒の映像を伝送できる計算になる。

 最後の1つが「エリアへの収容能力の上昇」だ。混み合う場所で通信が遅くなるのは、その基地局が出せる速度全体の中に収容できる端末の数が多くなるからだ。上限速度が上がり、1基地局当たりで収容可能な端末数が増えると、体感速度は当然上がる。

総務省の資料より。5Gの特徴である「速度」が3つの要素で構成されていることがよく分かる

 この点に大きく効いてくるのが、基地局構成の違いだ。日本の5Gでは、当面、3.7GHz帯・4.5GHz帯・28GHz帯の3つが使われる。これらの帯域は、従来の携帯電話の周波数帯に比べ、より電波の直進性が高い。そのため、広いセルの基地局を作って広域をカバーするより、比較的小さいセルの基地局を多数作り、それを合わせて面構成することになる。そうなると、混み合う場所 にうまく多数の基地局を配置して端末を分散してカバーする、ということになるだろう。

5GデモとVRの相思相愛は「技術的制約」のたまもの

 「速くなる」という言葉には3つの要素が絡み合っている、ということを説明したが、これらの要素が、5GとVRの相性の良さに大きく関係している。皮肉な言い方をすれば、「5Gの速さを示すためには、VR(AR)くらいしか、現状分かりやすい用途がない」という言い方もできる。

NTTドコモが「東京ソラマチ」に開設した5G体感コーナー

 上記で挙げた3要素は、確かにモバイル通信にとっては重要なことだ。だが、純粋な速度についても低遅延についても、「有線に近い状況になる」といった方がいい。それがワイヤレスで体験できることは大きなジャンプなのだが、それは技術を理解している人だから感じられることであり、普通の人にとっては「単に少し快適になる」ようにしか見えない。何より、VRやARは映像で体験してもらえるので、数字を見せるよりはるかに実践的に見える。

 さらには、直進性の高い周波数帯で展開する、というところも難点だ。小さなセルで展開するということは、短期的には広いエリアをカバーするのが難しい、ということでもある。

 そうなると、5Gのデモとして何が有効か? ということを考えると、「スタジアムやスタジオのような限定された空間で」「高速通信と低遅延を数字でなく体で感じられるもので」「ワイヤレスの価値を大きく感じられるもの」ということになる。この条件がそろっている用途がVRなので、5Gの実証実験を行うキャリアは、デモにVRをよく使うのだ。

ソフトバンクの「5G×IoT Studio」で行われたHMDと5Gを使ったデモ。低遅延を生かしてスポーツ中継やコンサートの配信などに活用することを想定している

 VRでは360度の視界に合わせたコンテンツを用意する必要があり、マシンパワーとデータ量が重要になる。そうするとどうしても通信量は増える。また、そうしたコンテンツを読み出す際には、遅延ができるだけ低いことが望ましい。PCやスマホは自分が「操作した」後に何かが表示されればいいので、比較的遅延をごまかしやすい。実際、多くのサービスでは、アニメーションなどをうまく使ってごまかしている。

 だがVRの場合には、自分の操作でなく「動き」に従ってコンテンツ側の条件が変わるため、遅延をごまかしづらい。しかも、遅延によって不自然な映像が出ると没入感が大きく削がれるし、「酔い」にも通じる。VRでは非常に高いフレームレートの映像が「遅滞なく」表示されることが求められるため、遅延の許容範囲は数ms以内。5Gならばこの範囲になんとか収まる。

 というわけで、VRと5Gのデモは、ある意味で「相思相愛」なのである。

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